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【河内長野市】美しい景観を次世代に残したい。つなぐ棚田遺産に認定!「惣代の棚田」を守る農家の皆さん。

奥河内から情報発信奥河内地域文筆家(河内長野市・富田林市)

自然や歴史の多い河内長野のスポットは、国からいろいろな認定を受けたり登録されたりしています。昨年11月には寺ヶ池と寺ヶ池水路が「世界かんがい施設遺産」に登録されましたね。

さらに今年に入り、河内長野市清水地区にある惣代(そしろ)の棚田が「つなぐ棚田遺産」に認定されました。

詳細は「広報かわちながの5月号」に書いてあります。

12ページ目がこちらです。「つなぐ棚田遺産」とは、農林水産省が全国にある優良と判断された棚田を認定する制度。今回、全国で271の棚田が選ばれ、その中のひとつに惣代の棚田が選ばれました。

「これはぜひ、棚田の管理者の方からお話を伺いたい」私はそう思い、市役所を通じて惣代の棚田を管理する人とコンタクトを取らせていただきました。そして、管理者のおひとりである藪本さんのお話を聞くことになったのです。

惣代の棚田に公共交通で行く方法は、河内長野駅もしくは三日市町駅から南海バスで、南青葉台行きに乗ります。終点の南青葉台バス停から徒歩圏内に、清水地区の惣代があります。

南青葉台のバス停を降りてからはそのまま住宅地を通り、南青葉台第1公園を目指します。

南青葉台第1公園の横の住宅の裏から、このような細い道があり、この道が惣代に向かっています。ちなみに惣代とは、清水地区の中にいくつかある字(あざ)のひとつです。

今回私はインタビューをするために惣代に向かいましたが、美しい棚田を見学したいだけなら、わざわざ清水地区の惣代に行く必要はありません。南青葉台のある場所から棚田を見下ろせるスポットがあります。

その場合は、南青葉台中央バス停で降りてそのまま東側に歩くと、棚田見学スポットがあります。

さて、細い道を歩いていきます。この道は、住宅地である南青葉台とは対照的に、のどかな田園地帯が広がっています。

清水地区惣代に到着しました。実にのどかな風景ですね。また近くには、山の中に左近城跡など、歴史的スポットもあるようです。

このように地区の掲示板にも「つなぐ棚田遺産」に選定されたことが報告されています。

お話を伺うことになっている藪本さんは、仲間たちと「NPO法人 里山ひだまりファーム」を設立。事前に確認したところによると、2014(平成26)年に設立された組織だそうです。

高齢化で作業ができなくなった人の畑を、代わりに共同で耕しているとか。正会員11名で構成しています。

この日は藪本さんと深山(みやま)さん、坪本さんの3人の方が出迎えてくださいました。

お話の最初に、こちらの地図を紹介してくれました。棚田の位置(朱色)を示したものです。左側に小さな四角が多く並んでいますが、ここが南青葉台の住宅街です。このように南青葉台のすぐ隣に棚田が広がっているのがわかりますね。

また地図上では棚田地帯の北側に大きな池が書かれていますが、それはこちらの新池です。

さっそく「つなぐ棚田遺産」に選ばれた経緯をお伺いしました。

藪本さんによると、この制度の前、1999(平成11)年に農林水産省が「日本の棚田百選」(にほんのたなだひゃくせん)を認定しました。このとき大阪府では下赤坂(千早赤阪村)と長谷(能勢町)の2ヶ所が選ばれています。

ところが20年以上経過した際に、実際に選んだ棚田百選のうちの3分の2ほどが、管理が行き届かず荒れていることが判明しました。

そこで見直しが必要となり、改めて「つなぐ棚田遺産」という制度をポスト棚田百選という位置づけで設け、募集が始まりました。

藪本さんは、この棚田を「将来に残したい」という気持ちを10年以上前から持っていたとか。そこで「つなぐ棚田遺産」募集の話を聞いたときに河内長野市に相談し、市の推薦を受けて申請したのです。

その結果、1回目で無事に審査が通り、「つなぐ棚田遺産」として惣代の棚田が認定されました。

ちなみに大阪府で認定された棚田は、惣代のほか次のところです。

  • 長谷の棚田(能勢町)
  • 平石の棚田(河南町)
  • 持尾の棚田(河南町)
  • 下赤阪の棚田(千早赤阪村)

選ばれたとわかった時には地域が大いに盛り上がり、みんなで喜び合いました。「つながる棚田100選」に選ばれたことで、惣代の存在が多くの人に知ってもらう機会となったからです。

次に惣代の棚田の歴史を伺いました。昔は棚田のあたりは山しかなかったものを開墾したそうですが、それは300年以上も昔の話。惣代の人々は、1700年代から変わらず棚田を守ってきました。地域に住んでいるもっとも古い農家さんは、なんと現在30代目なのだそうです。

また現在の青葉台のあたりは、戦前はみかん農家が多くあったそうです。その頃の風景は、今とは全然違ったのでしょうね。

天野酒さんのある酒蔵通り
天野酒さんのある酒蔵通り

現在惣代に住む16世帯の内10世帯が農作業に従事しているとか。主な作物は米だそうです。かつては酒米を作っていて、天野酒さんに卸していた時期もあったそうなのですが、現在は主に食用の米を生産。小麦も少量作っています。

「河内長野でもこの辺りの農家はほとんどが兼業農家ですよ」と現在71歳になる藪本さん。藪本さんは元サラリーマンで、定年後から専業で農作業を始めたとのこと。

棚田は平地の田畑と比べて山の斜面を使っているので、面積が小さく採算面や管理面でも大変なんだそうです。

「個人では大変だから、共同でやったらどうだろうか」となり、藪本さんは同じ惣代の農家である深山さんと坪本さんを誘います。こうして3人が中心となって、惣代地区の協議会「惣代地区農空間保全協議会」を設立しました。

この協議会の下部組織に、NPO法人としてのひだまりファームがあります。

参考画像:河内長野市内の別の地域にあったイノシシの罠
参考画像:河内長野市内の別の地域にあったイノシシの罠

協議会が最初に行ったのはイノシシの捕獲でした。協議会としてもらった助成金をもとに、電気柵や罠になる檻を設置します。

農作物を荒らすイノシシは本当に厄介者でしたが、協議会の活動により、年間で最大30頭のイノシシ捕獲に成功したそうです。

ひだまりファームが預かっている畑は、1町前後(ほぼ1ヘクタール)に相当します。

また、ひだまりファームの活動としては、かつて南海電鉄とのコラボでジャガイモ掘りなどのいろんな体験会を行っていました。しかし、現在コロナ禍を理由に中断。コロナが落ち着いたら再開する予定だそうです。

今は地元の石仏小学校の米作りの体験会のみ行っているそうです。

「将来はどうなるかわからないが、元気なうちはこの棚田を守りたい。その後に次の世代が受け継いでくれたら」と、藪本さんは願っているそうです。

つながる棚田100選に選ばれたのは本当に素晴らしいことですが、それを維持管理し、次の世代につなげることは大変です。

特に棚田は、通常の平地の田畑よりも手間がかかるそうで、段になっているため機械が使いにくいとか、除草作業など想像以上の重労働。誰でも簡単に継げる話ではありません。

とはいえ、惣代は遠いところに見えて、車を使えば南海美加の台駅から5分と非常に近い場所です。

貴重なお話を聞き、南青葉台への道を戻りながら何度も思ったことは、このような貴重な棚田を大切に守るために、なにか良い方法で次世代につながる手段はないものかを。

惣代の棚田・NPO法人ひだまりファーム(外部リンク)
住所:河内長野市清水
アクセス:南海・近鉄河内長野駅または南海三日市町駅からバス。南青葉台バス停下車、徒歩15~20分

奥河内地域文筆家(河内長野市・富田林市)

河内長野市の別名「奥河内」は、周囲を山に囲まれ3種類の日本遺産に登録されるほど、歴史文化的スポットがたくさんある地域です。それに加えて、都心である大阪市中心部に乗り換えなしで行ける複数の大手私鉄(南海・近鉄)と直結していることから、新興住宅団地が多数造成されており、地元にはおしゃれな名店や評判の良い店なども数多くあります。そして隣接する富田林市もまた、歴史文化が色濃く残る地域。また南河内地区の中核都市として、行政系施設が集まっています。これを機会に、奥河内(一部南河内含む)地域に住んでいる人たちのお役に立つ情報を提供していければと考えています。どうぞよろしくお願いします。

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