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消えゆく高知の伝統食材が「タコス」によって救われた訳とは。アメリカ帰りの男性が仕掛ける新「高知名物」

paul山崎

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昭和初期ごろまで山間部の厳しい暮らしを支えてきた高知県の伝統作物「地きび(じきび)」。近代化の流れとともに栽培は下火になり、その生産はほそぼそと受け継がれるのみで、まさに風前のともしびとなっていた。そこへ奇跡の巡り合わせが訪れる。2018年にアメリカから帰国した都筑正寛さん(通称マサさん、50)が、ロサンゼルスで親しんだタコス作りの拠点を探しているとき、偶然地きびの存在を知り高知県に移住。地きびの置かれた現状や課題を知り、「地きびを使ったタコスを高知名物にしたい」と意気込む。マサさんの挑戦を追った。



国交省の水質調査で「最も良好な河川」と認定される仁淀川中流域にある高知県日高村。県都高知市からも車で30分ほど、県内では指折りのハウス栽培トマトの産地としても知られている。こぢんまりとした村の中心地を過ぎてほどなく、酒蔵を改装したホールにたどり着く。日高村酒蔵ホールは、地域おこし協力隊員の都筑正寛さん、通称マサさんの活動拠点だ。地域おこしの一環として蔵の保存管理に関わりつつ、週に一度ここでタコスの営業を行っている。


「これがMasaです。」
柔らかくゆがかれたとうもろこしをすりつぶしながら、黄色いペースト状の食材を指してマサさんがいう。マサさんは「MasacasaTacos」というタコス屋としての顔も持つ。作っているのはタコスに欠かせないトルティーヤ。その生地の呼び名は偶然にもMasaだ。トルティーヤ作りに使われるのは、ふだんスーパーなどで目にするスイートコーンと違い、フリントコーンとよばれる加工向きのトウモロコシ。国内で流通するフリントコーンは99%以上が輸入品だ。しかし、マサさんが使うのは高知の山間部で伝統的に生産されてきたトウモロコシの一種、通称「地きび」である。


◯地きびとは

高知県ではとうもろこしのことを「きび」という。四国では高知県と、県境を接する徳島県や愛媛県の山間部でも栽培が行われている。農産物としての系統だった出荷はなく、自家栽培自家採種でほそぼそと作られている。商品としては、地域の直販所などで時折目にする程度だ。

日本国内へのとうもろこしの伝播は1573〜1591年の間といわれており、高知県への移入は定かではないが1778年の高知県香美市香北町の古文書「安永七年戌ノ七月廿八日 指出 韮生野永瀬村 控」に「トウキヒ」という文字の文字が見られるとされる。稲作に向いた平地が少ない山間部の産業は炭焼きや材木搬出、焼き畑によるこまごまとした農産物であった。キビは主食のひとつとして、地域住民の生活を支える大きな栄養素になっていく。明治期以降、より多くの現金収入を求め製紙原料のミツマタが主流になり、きびや豆類との組み合わせ栽培になっていく。さらに時代がくだり、製紙産業の衰退とともに杉などの植林に置き換わっていく。時代が流れ、住民たちの生活スタイルが変わっていく中で、地きび栽培も下火になっていった。

生産したものに利用価値が見いだされなければ産業として成立せず、減少していくのは当然の成り行きだ。地キビを、タコスだけでなく、さまざまな利用方法が模索され始めている。

地キビを使った焼酎の生産に取り組む高知大学地域協働学部の大槻知史(おおつきさとし)准教授は、「もともと大豊町の山間部では地きび焼酎の生産がされていた。地域が衰退する中、伝統を復刻させることで地域への愛着を再び取り戻し活性化につなげたい」と話す。大槻さんは、こうした地元の種を残していくことが、「社会の多様性を担保することにつながる」とその意義を語る。


◯地きびとの出会い、高知への移住

横浜市出身で、2018年までロサンゼルスでレコーディングエンジニアやツアークルーとして20年近く活動していたマサさん。イーストロサンゼルスというヒスパニック・メキシコ系の人々が多く住む土地柄で生活し、タコスなどメキシコの食文化に親しんでいた。そんな中、東日本大震災やアメリカの政治や社会状況の変化を経て、「帰国」が頭に浮かんだ時、日本でタコス作りをしながらアメリカで経験した文化などを紹介したいと考えた。しかし、地元横浜や東京では原材料コストなどの課題が多く、自家栽培できないかと模索していた。一時帰国時、拠点探しのため日本中を旅する中で訪れた高知県立牧野植物園で偶然開催されていたのが、高知の地きびを紹介する企画展だった。穀物としてのとうもろこしの食文化が日本国内に残っていることに驚いたという。
「高知でならトルティーヤ作りもできるじゃん」
偶然にも植物園の職員にロサンゼルス時代の知人がい
たり、タコス作りのために必要なハラペーニョのことを話せば、「(移住して)来たら作るよ」と言う農業者と出会ったり、高知の人に「粋」を感じて高知に移住した。


◯地きびのタコス作りに挑む

「地場産の材料でタコスを作れたら」と思うようになるものの、地きびは集出荷があるような農産物ではなく材料集めは困難だった。移住当初はメキシコ産のマサ粉を使ってタコス作りを行っていた。仕入れ先を探す中で、日高村北部のいの町吾北地区の山間に住む門脇高茂さんを紹介してもらい、なんとか収穫の一部を分けてもらえることになる。初めて高知の地きびでタコスを作って食べた時、その味と香りに驚いたという。
山間の集落に何度か通いながら門脇さんの農業や地きびに対する思いに触れ、地きびという農産物の置かれた生産者の高齢化という状況をあらためて知ることで、自身でも栽培に取り組むことを決意し、2021年から畑を借りて耕し始め、無事収穫した。2021年現在、原材料分は地きびを確保できているが、今後、生産者の高齢化などで不足してくることが予想されるという。門脇さんは「昔から作られているものを後世に残していくのは非常に大切。全てがなくなっていくのは寂しい」と話した上で、新たに地きびが利用されていくことを楽しみにしているという。



◯タコスを高知のソウルフードに

300年以上の歴史を持つ高知、土佐の日曜市。県下さまざまな地域から野菜や海産物、加工品などが集まる中に、マサさんのタコスも出店している。日曜市のタコスは朝食や食べ歩きにも向く少し大きめのスタイル。トルティーヤも地きびとメキシコ産のマサ粉を合わせたものを使用している。日曜日ごとに買いにくる常連さんや観光客にも好評だ。「子どもたちにも人気ですよ」とマサさん。タコスが日常に溶け込んであたりまえに食べられるようになってほしいという。ロサンゼルスで親しんだ文化にはミックスカルチャーの感触があり、高知の人や風土にも合うものがあると感じている。タコスは外国の文化だが、地のもので作ることで文化を混ぜ合わせて発信できる。そこから地元の文化にも外の文化にも目をむけながらルーツを大切にし、受け入れられる多様性のある社会ができればと考えている。そして、タコスが高知のソウルフードになることを望んでいる。

クレジット

監督 / 撮影 / 編集 / ライター:ポール山﨑
プロデューサー:初鹿友美
アドバイザー:長岡マイル

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