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「日本一短いトンネル?」と木造駅舎が残る茶畑の中の駅 大井川鐡道本線 地名駅(静岡県榛原郡川根本町)

清水要鉄道ライター

初見だと「ちめい」と呼んでしまいそうな大井川鐡道本線の地名(じな)駅。いわゆる難読駅名の一つだが、明治22(1889)年3月1日の合併で志太郡徳山村が成立するまで存在していた志太郡地名村に由来している。南北朝時代には「字那」、戦国時代には「字名」の表記も見られる地名だ。「名(な)」には「○○のところ」という意味もあり、「(そうした)土地のあるところ」から「地名(じな)」になったという説、「シナ(階)」や「スナ(砂)」が転じたという説が由来としては考えられるが、はっきりとしたところは分からないという。

駅舎
駅舎

駅舎は昭和5(1930)年7月16日開業時に建てられたもので、築93年。向かって左側には駅員の宿舎だったと思われる部分が付属している。駅前の狭い道を挟んでタバコ屋だった建物があり、駅舎内の貼り紙によればそこで切符を販売しているとのことだが、開いている気配はない。駅前商店で切符を買ったという経験談も数年前のものに限られているため、簡易委託も終了しているのかもしれない。

駅舎に掲げられた駅名
駅舎に掲げられた駅名

駅舎入口には三角形の庇が突き出しており、小さいながらも風格が感じられる。その下に掲げられた駅名も木の板に筆で書かれたもので、駅舎の雰囲気によく似合っている。壁は押縁下見板張りだ。

駅舎内
駅舎内

薄暗い駅舎内は時間が止まったかのような雰囲気だが、子どもの描いた絵が飾られ、地元住民から寄贈された本が置かれている。住民の手で定期的に清掃されているらしく、列車が一年以上来ない駅にしては埃も少なかった。

駅舎と構内踏切
駅舎と構内踏切

改札を抜けると構内踏切でホームに連絡している。駅舎のホーム側は駅名標を除いて古いままで、開業時と比べると変わった部分の方が少ないだろう。瓦やトタンに痛みが見られるのが気にかかるところだ。

ホーム
ホーム

ホームは島式1面2線。他の駅と違ってホーム上に上屋がないのは利用者が昔から少なかったためだろうか。令和元年度の一日平均乗車人員はわずか8人。ホームからは駅裏手の民宿に掲げられたブルートレイン「さくら」のヘッドマークも見える。

日本一短いトンネル?
日本一短いトンネル?

ホームの下泉方にあるのが「日本一短いトンネル?」と呼ばれる「川根電力索道用保安隧道」だ。山を貫く普通のトンネルとは違い、線路上を横切る貨物索道から線路を保護するためのもので、全長は約11m。索道は戦前のうちに早くも廃止となったが、無用となったトンネルは取り壊されずに今も姿を留めている。「日本一短いトンネル」として紹介されることも多いが、実際に日本で一番短いのは広島県呉市にあるJR呉線の川尻トンネル(約8.7m)だ。大井川鉄道は令和4(2022)年9月24日の台風15号での被災以来、一部区間で運休が続いており、地名駅や「日本一短いトンネル?」にも一年以上列車が来ていない。このトンネルを再び列車が潜る日は来るのだろうか。

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鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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