【4月1日廃止】大学村に建つ山小屋風駅舎と隣に残る旧駅舎の一部 根室本線 山部駅(北海道富良野市)
富良野駅から根室本線で2駅のところにある山部(やまべ)駅は昭和41(1966)年5月1日の富良野市成立まで存在した旧:空知郡山部町の玄関口だ。駅前にはある程度の規模の市街地が形成され、かつては独立した自治体だったことが雰囲気でもよく分かる。「山部」は松浦武四郎の旧図に「ヤマイ」、明治時代の地図に「ヤマエ」とも表記される地名で、由来はアイヌ語の「ヤムペ(冷たい水)」や「ヤムペッ(冷たい川)」、「ヤムアエ(栗を我ら食べる)」などと考えられているが、詳しいことはわからない。
山部駅は明治33(1900)年12月2日、北海道官設鉄道空知線が下富良野(現:富良野)~鹿越間を開業させた際に信号停車場として設置された。翌明治34(1901)年4月1日には早くも駅に昇格、それと同時に山部開拓の歴史も始まっている。山部の開拓は札幌農学校(現:北海道大学)が第8農場を開いて小作人を募集したことに始まり、岩手・福島・富山・徳島など17県からの団体入植によって人口が増加した。大正8(1919)年4月1日には空知郡山部村が成立し、村として独立している。北大の農場から始まった村だけあって「大学村」と呼ばれるようになり、村人は北大農場の小作人として働くなど北大との関わりが極めて強い村だった。戦後、GHQによって農地改革が行われると北大所有の農地は小作人に売り渡され、一部農家は北大農場に留まったものの、小作料の増額や自作農優遇政策などにより彼らも自作農への転換を決意。北大農場は残りの農地も小作人に払い下げて昭和38(1963)年12月15日に消滅となった。自治体の山部村は昭和40(1965)年1月1日に町制施行して山部町となるも、昭和41(1966)年5月1日に空知郡富良野町と合併して富良野市となり、こちらも消滅している。
山部駅は山部村の玄関口としてだけでなく、西達布の東大演習林から切り出される木材の積み出し拠点としても賑わいを見せた駅だった。現在の駅舎は昭和63(1988)年12月2日改築の3代目で、山小屋風のお洒落なデザインが特徴だ。駅自体は昭和61(1986)年11月1日に無人化されており、出札業務は近隣住民に委託されていた。この簡易委託も平成6(1994)年4月1日に終了、現在の山部駅は人の気配も少なく寂しい駅となってしまっている。一日平均乗車人員は昭和43(1968)年度に578.6人を数えていたのが、令和4(2022)年度ではわずか15.2人。あまりの凋落ぶりに驚くばかりだ。そんな山部駅は来たる4月1日、富良野~新得間の廃止によって、駅への昇格から数えて123年の歴史に幕を下ろす。
駅舎の向かって左手(ホーム側から見ると右手)には青い屋根の木造建築が建っている。一見よくある倉庫のようだが、実は現駅舎が建てられるまで使われていた2代目駅舎の一部である。昭和11(1936)年11月の山部市街大火で被災した初代駅舎に代わって建てられたものと思われ、おそらく築年は翌昭和12(1937)年頃だろう。近年まで「富良野タクシー山部営業所」として使われていたそうだ。
ホーム上には赤煉瓦のランプ小屋と木造の倉庫が残っている。建物財産標によればランプ小屋は明治44(1911)年に建てられたもので、築112年。隣の倉庫は昭和10(1935)年に建てられたもので、築88年。いずれも山部駅の歴史を長きに渡って見守ってきた生き証人のような存在だ。
ホームは相対式2面2線で、ローカル線となってしまった現状では過剰とも言える長さが、かつてこの路線が特急・急行も走るメインルートだった歴史を今に伝えている。山部駅に急行「狩勝」が停まるようになったのは昭和56(1981)年10月1日の石勝線開業時のことで、支線に転落した滝川~新得間のサービスアップを図るための停車だった。それ以前は普通のみの停車だったわけだが、本線だけあってそれなりの長編成が停車していたであろうことは想像に難くない。
駅前には根室本線とほぼ並行して滝川と釧路を結ぶ国道38号線が通っており、飲食店や商店、旅館などもある。駅の寂しさとは対照的に交通量も多い国道が、車社会となった今の北海道を象徴しているようだ。駅が無くなっても市街地の賑わいはそれほど変わらないだろう。
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