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四国一列車本数が少ない⁉ 周囲から隔絶されたスイッチバックの秘境駅 土讃線 新改駅(高知県香美市)

清水要鉄道ライター
新改駅

香川県の多度津駅から険しい四国山地を越えて阿波池田駅、高知駅を経て窪川駅に至る四国の大動脈・土讃線。この路線には四国に二つしかないスイッチバック(急勾配を克服するために列車が進行方向を転換するもの)があり、そのいずれもが全国屈指の秘境駅として知られている。そのうち一つが高知県香美市の新改駅だ。

駅舎と駅前
駅舎と駅前

新改駅があるのは香美市土佐山田町の標高274mの山間で、駅から見える範囲に人家はない。かつては駅前に商店があり、簡易委託で切符の販売も行っていたが、昭和62(1987)年ごろの商店閉店で廃止となり、今は建物も壊されて跡形もなくなっている。

駅舎
駅舎

新改駅は昭和10(1935)年11月28日に「新改(しんかい)信号場」として開業、戦時中には本土決戦に備えた天然の要塞として四国軍管区司令部などが疎開してきたという歴史を持つ。戦後の昭和22(1947)年6月1日に駅に昇格して「新改(しんかい)駅」となっており、駅舎はおそらくこの時建てられたものだろう。当時の所在地は長岡郡新改村で、昭和29(1954)年9月1日の合併で土佐山田町となった。駅名の読みは昭和31(1956)年12月5日に地名に合わせて「しんがい」に変更されている。かつては信号扱いのために多くの駅員が詰めていたが、自動化などにより昭和45(1970)年10月1日に無人駅となっている。

ポイント部分(車中より)
ポイント部分(車中より)

新改駅のスイッチバックは「通過可能形」で、停車しない特急列車などは駅の存在など気にしないかのように本線上を通過していく。一方、停車する普通列車の動きは少々複雑だ。高知方面下り列車の場合はまず引上げ線(上写真左の線路)に入り、そこで進行方向を変えてから本線を横切って駅ホームへと続く線路(上写真右手前の線路)に入り、ホームに停車する。そして進行方向を変えて発車すると、本線(上写真右奥)へと戻っていく。上り阿波池田方面の場合はその逆で、まずホームに入ってから進行方向を変えて引上げ線に入り、また進行方向を変えて本線に戻る。これは急勾配ゆえに本線上に駅を設置することができなかったことから生まれたもので、同じ土讃線の坪尻駅や篠ノ井線の姨捨駅なども同じ構造だ。

駅周辺
駅周辺

駅があるのは集落から離れた山間で、舗装された細い道が通じているものの、集落までは歩いて15分ほどかかる。集落から駅を利用する住民は皆無に近く、令和元(2019)年度の一日平均乗車人員はわずか0人だ。その利用状況を反映してか列車の本数も四国で最も少なく、下り土佐山田・高知方面は7:00、15:33、19:35、上り阿波池田方面は13:53、16:40、18:27とわずか3往復しか停車しない。上りに至っては13時台が始発列車という凄まじいダイヤだ。

休場ダム
休場ダム

駅から続くつづら折りの山道を下っていくと休場(やすば)ダムに辿りつく。新改川を堰き止めたダムで、橋の向こうに平山集落が広がっている。集落には商店と廃校を改装した宿泊施設があり、商店の前には香美市営バス不寒冬線の平山停留所が設置されている。こちらの本数は4.5往復で新改駅よりも多い。

到着した上り列車
到着した上り列車

四国で最も列車本数が少ない新改駅。列車だけで訪問するのが容易ではないからこそ、到達できた時の達成感もひとしおであろう。次の列車までの待ち時間は短い時でも一時間あるが、駅周辺を散策していればあっという間に過ぎ去ってしまう。日々の暮らしの気分転換に普通列車で訪れてみるのはいかがだろうか。

鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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