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待望の新幹線がやってくる不死鳥の県都 北陸新幹線・北陸本線 福井駅【後編】(福井県福井市)

清水要鉄道ライター
駅改札内のタイムカプセル

北陸新幹線開業を二週間後に控えた福井県の県庁所在駅・福井駅。在来線の改札内には新幹線開業と同時に開封される予定のタイムカプセルが設置されている。福井県が在来線駅高架化に合わせて設置したものはE2系新幹線の形だ。設置されたのは平成17(2005)年6月4日。のちに北陸新幹線で活躍するようになるW7系・E7系は導入計画すらなかったころだ。北陸新幹線の先行開業区間である長野新幹線で活躍していたE2系を北陸新幹線の車両として選定したわけだが、E2系は平成29(2017)年3月31日をもって北陸新幹線から引退しており、福井にやってくることはなかった。タイムカプセルはもう一つあり、JR西日本が設置したものは恐竜の卵の形だが、新幹線開業を待つことなく令和5(2023)年12月27日に開封された。

福井城址
福井城址

新幹線開業と同時に福井駅西口は呼称が「福井城址口」に変更される。福井城址は駅から近く、駅から堀まではわずか200mほどしか離れていない。福井城は天正3(1575)年に柴田勝家が築いた「北ノ庄城」が前身で、柴田氏が滅んだあとは丹羽長秀や堀秀政、青木一矩が入城した。関ヶ原の戦いの後、西軍方の青木に代わって徳川家康の次男である結城秀康が入城。現在残る城跡のほとんどは秀康が築いたもので、柴田氏の時代のものはほとんど残っていない。「北ノ庄」の地名は秀康の子である3代藩主・松平忠昌の時代に、「北の字が敗北に通じるから不吉」だとして「福居」に改められ、元禄時代には現在の「福井」と表記されるようになった。いわゆる「瑞祥地名」の一つだ。

福井県庁
福井県庁

福井城はその後も越前松平氏福井藩の居城として続き、福井の街は大藩の城下町として栄えた。幕末の藩主・松平慶永(春嶽)は英邁な君主として知られ、中根雪江や橋本佐内らを重用して藩政改革を行った。井伊直弼と対立して一時的に失脚し、橋本佐内も処刑されるが、明治維新においても大いに活躍した。また、福井の町医者・笠原良策が種痘の普及に尽力した際にはその支援も行っている。ちなみに笠原良策を主人公とした吉村昭の小説『雪の花』は松坂桃李さん主演で映画化予定で、福井県内各地でロケが行われており、来年1月24日に一般公開される予定だ。

明治維新後、福井城跡には福井県庁が建てられ、時代が変わっても福井の政治の中心であり続けている。

福井市立郷土歴史博物館
福井市立郷土歴史博物館

福井城址の北には市立郷土歴史博物館がある。駅からは歩いて10分ほどなので、途中下車のついでに行ってみるのもいいだろう。館の前には松平春嶽の像がある。

三井住友信託銀行福井支店(酒伊ビルとして昭和9年に建てられ、空襲と震災を乗り越えた)
三井住友信託銀行福井支店(酒伊ビルとして昭和9年に建てられ、空襲と震災を乗り越えた)

明治以降の福井は県庁所在都市として発展を続けていったが、幾度も危難に見舞われた。特に大きな被害をもたらしたのが昭和20(1945)年7月19日の福井空襲と昭和23(1948)年6月28日の福井地震だ。戦災からの復興途中の福井市を襲った地震はマグニチュード7.1で、死者・行方不明者は3769人。戦後の地震では東日本大震災、阪神大震災に次ぐ3番目に犠牲者の多い地震だった。さらに、空襲で焼け残った建物も多くが地震で倒壊してしまったため、福井市内に残る戦前の建築は三井住友信託銀行福井支店など数えるほどしかない。

福井地震の一か月後には地震で傷んだ九頭竜川の堤防が決壊して市内が浸水。泣きっ面に蜂とでも言うような状況だったが、これらの災害を乗り越えて福井市は復興を遂げた。未曽有の大災害から立ち直った経験から福井市は「不死鳥(フェニックス)」を市のシンボルとしている。

岡田啓介の像(左)と松尾伝蔵の胸像(右)
岡田啓介の像(左)と松尾伝蔵の胸像(右)

福井駅前の像やモニュメントと言えば、多くの人が思い浮かべるのが西口(福井城址口)駅前の動く恐竜モニュメントだろう。数多くの恐竜の化石が出土した「恐竜王国福井」をPRするもので、新幹線開業に合わせてもう一体設置される。

一方の東口(一乗谷口)駅前には福井市出身の二人の偉人の像が並んでいる。全身像の方は第31代内閣総理大臣・岡田啓介。二・二六事件の際の総理で、昭和20(1945)年の終戦に際しては米内光政らと共に和平工作を行った。

胸像の方は岡田の義弟(妹の夫)の松尾伝蔵で、岡田の秘書をしていた。二・二六事件で叛乱部隊が岡田を暗殺しようと首相官邸を襲撃した際には、岡田と勘違いされて身代わりに射殺された。押し入れに隠れていた岡田は無事であったが、岡田暗殺に成功したと思い込んだ叛乱部隊はそのまま立ち去った。

二人の像はそれぞれ別の場所に設置されていたが、平成28(2016)年10月に二人の生地に近い福井駅東口に移設されて並べられた。

西口に比べると像やモニュメントが少なかった東口だが、駅舎に隣接する「福井市観光交流センター」の屋上には恐竜のモニュメントが大小9体あり、駅前広場にも恐竜のモニュメントの設置が予定されている。

ソースカツ丼
ソースカツ丼

福井市の名物グルメと言えば、やはりソースカツ丼だろう。県内に複数の店舗を持つ「ヨーロッパ軒」が発祥で、大正時代に初代の高畠増太郎氏が考案した。ヨーロッパ軒は当初、東京の早稲田鶴巻町に店舗を構えており、高畠氏がヨーロッパで料理修行をしたことが店名の由来だった。高畠氏は関東大震災での被災を機に福井へ帰郷して開店した。ソースカツ丼はその後、他の店にも普及し、ヨーロッパ軒をはじめとした市内の多くの店で提供されている。

新幹線開業で首都圏から一本で行けるようになる福井県の県都・福井市をこの機会に訪れてみるのはいかがだろうか。

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鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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