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育児疲れや困難を抱える親子に“寄り添って”サポートする‐‐訪問型支援とは?

清藤裕貴ディレクター・ドキュメンタリー映像作家

「子育ては紙一重。第三者の支援が入って『寄り添う』だけでも全く違う」。家庭への訪問支援事業を行うNPO法人「バディチーム」の岡田妙子代表(59)はこう語る。自らの出産、育児を通じて、子育ての大変さを痛感した岡田さんは15年前にNPOを立ち上げ、たくさんの子育て家庭を見てきた。暴言が絶えない家庭、親が子供の存在を否定する家庭、物やゴミがあふれ、衛生状態が心配な家庭。行政や児童相談所から依頼を受け、岡田さんたちはそうした家庭の家事や保育、学習を支援する。「週に一度、2時間入るだけでも風通しがよくなる」と岡田さん。彼女たちが実践する「寄り添う」支援とは?

■ 児童虐待の相談件数31年連続で増加
警察や家庭などから全国の児童相談所に寄せられる児童虐待の相談件数は、年々増え続けている。厚生労働省によると、2021年度の虐待相談件数は20万7660件で、過去最多を更新した。このような状況のもと、「バディチーム」は東京都内の13区から訪問型支援の委託を受けている。児童相談所や行政などが、訪問型支援が必要だと判断すると「バディチーム」に連絡する。その件数は年間300件にのぼる。

■ 「バディチーム」立ち上げのきっかけは、自らの出産
岡田さんは訪問型支援を始めるまでは、精神科の看護師や保健師として働いていた。訪問支援に関心をいだくきっかけになったのは、2000年に男児を出産したことだ。岡田さん自身の子育てでは、両親など周りのサポートがあったため、苦労を1人で抱えることがなくすんだという。一方で、「もし自分に誰も頼る人がいなければ、どうなっていたか?」と考えるようにもなった。ちょうどそのころに制定されたのが児童虐待防止法だった。

自分にも何かできないだろうか。そう思っていた時に出会ったのが、養育困難家庭のヘルプサービスの仕事だった。家庭に赴き、主に家事や保育、学習の支援をする。岡田さんは現場スタッフとして2年間働き、さまざまな現場を目の当たりにした。複数の子どもをワンオペでこなすシングルマザーが限界を超え、ついつい子どもに手を出してしまった現場。仕事で帰宅できない父親を子がずっと待ち続ける父子家庭の現場。家事に手が回らずゴミだらけの現場。保護者に病気や障がいがあり、精神的に不安定な現場。いずれもその家庭に入らないとわからないことばかりだったという。

■ 「子育ては紙一重」。2007年にNPO法人「バディチーム」を立ち上げ
現場で働いた2年間で訪問型支援の重要性を感じた岡田さんは、2007年にNPO法人「バディチーム」を立ち上げた。岡田さんは「子育てで余裕がなくなってしまった親は、誰かに話を聞いてもらったり、その思いを受け止めてもらったりするだけで、一番弱い立場の子どもに当たることが圧倒的に減る」と語る。家事や保育、学習支援をする中で、専門職ではない支援員が家庭に入って共感し、傾聴し、受け止める。そのように「寄り添う」ことが、孤立や抱え込みを回避し、虐待や家庭崩壊を予防する一番の策だという。支援する人がいるかいないかで、子育て環境は大きく変わる。これが岡田さんの言う「子育ては紙一重」なのだ。

■ 「親にも子供以上に受け止めてくれる人が必要」
半年前までバディチームを利用していた佐藤さんは、夫と3歳の娘との3人で暮らす。夫婦共働きで、近くに頼れる親戚などはいなかった。当時2歳だった娘は、小さなものを何でも口にしてしまうなど、片時も目が離せなかった。特に、自身の体調が悪かった時や出勤する多忙な朝などにはフラストレーションが限界を超え、子どもを怒ってしまうこともあった。そんな自分にも嫌気がさし、重たい気持ちになることが多かったという。そんな時、週に1度「バディチーム」の現場支援員に保育をしてもらったり、自身の話を聞いてもらったりした。2時間だけでも息を抜く時間ができたことで、精神的に楽になったと話す。

岡田さんは、子供以上に親のケアが重要だと説く。「親の影響って子供にすぐ出るので、親にも子供以上に受け止めてくれる存在が必要。親の話を聞いたり、ありのままの姿に寄り添ったりすることが重要」。岡田さんは寄り添うことで、人を信じることに対して積極的になるきっかけになってくれればという。

■ 「バディチームのような訪問支援事業を実施する市町村は全国でまだ4割」
厚労省によると、養育支援訪問事業のうち育児家事援助を実施している市町村は、まだ全体の4割しかない。岡田さんは2022年、訪問型支援をもっと増やすよう厚労省に要望書を提出した。立ち上げから15年。バディチームに登録するスタッフは200人を超えたが、まだまだ人手不足だ。訪問型支援への認知度を広めようと奔走する日々を送っている。

日本社会事業大学専門職大学院の宮島清客員教授は、このような訪問型支援を行うNPOについて「公の機関は新しいことに対応する力や機動力は劣る。一方で、民間NPOなどは目の前で起きている課題に対して迅速性がある。このようなNPOが都内をはじめ地方でも増えていくことが望まれる」と話す。

バディチームは、利用者に寄り添うことで信頼関係を築いてきた。これからもこの好循環をさらに広めるために、利用者に寄り添い続ける。

【この動画・記事は、Yahoo!ニュース エキスパート ドキュメンタリーの企画支援記事です。クリエイターが発案した企画について、編集チームが一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動はドキュメンタリー制作者をサポート・応援する目的で行っています。】

ディレクター・ドキュメンタリー映像作家

TVディレクターとして、主にマイノリティーの世界を主戦場に、TVドキュメンタリーを100本以上制作してきた。『性犯罪者の刑務所での矯正教育』『売春婦ホームレスの実態』『犬捨て山の実態』『虐待を受けた児童たちのいま』『孤独死の現状』『HIV感染者の受ける差別』等。 その後、差別について民俗学から研究するため大学院に進学。「ホームレス同士の差別論」について修論を書く。 修了後、『遊郭の街・飛田新地のいま』、『ヘイトスピーチと被差別部落』等を制作した。自身の実父のドキュメンタリー映画『暴力親父 余命4ヵ月 憎しみと愛の狭間で。』が東京ドキュメンタリー映画祭2022で入選。