ショートフィルム

高校生が「子どもの貧困」を学ぶ ~西成高校・反貧困学習の取り組み~

重江良樹

映画監督

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【西成高校 反貧困学習の始まり】
反貧困学習は2007年に始まった。きっかけについては学習立ち上げの際、中心にいた教員がこう記している。(※1) “本校は「西成」という日本の社会問題が集積する地にあって、さまざまな生活背景をもった生徒たちが集う学校である。本校生徒の生活環境は従前より厳しいものであったが、「バブル崩壊」以降に生まれた生徒たちは、より厳しい生活を強いられてきている。さらに、労働市場の規制緩和で政策的に創出された非正規雇用者の増大、若者の貧困化というなかで、これまで実践してきた「反差別」から「反貧困」という軸で再構成する必要に迫られた“。

【反貧困学習3年間の流れ(※2)】
「西成」という地名は長年差別の対象とされてきた。日雇い労働者の街、釜ヶ崎の存在や可視化され続ける野宿生活者、被差別部落地域などが、メディアやネット等でマイナスイメージを誇張される形で報じられてきたからだ。
そのため1年生は日雇い労働や野宿といった、西成という地域性を知るための学習、〈西成学習〉を行う。3年生は就職に向けて〈就職差別〉などの授業を行う。
2年生は〈テーマ別人権学習〉と銘打ち毎週2コマ、全10コマの授業を行う。クラスの垣根を越え自身が興味のある様々な社会問題を選び、最後の授業で全体発表会をする。ちなみに今年度のテーマは、こどもの貧困・セクシャルマイノリティー・働く者の権利・依存症・ネットトラブル・外国人について・沖縄の歴史についてだった。
これらのテーマは、生徒と教師が何をやりたいか話し合い、毎年変わっていく。

【「子どもの貧困」グループの取り組み】
今回取材した「子どもの貧困」グループは21名。1週目の2コマでスライドやドキュメンタリー番組を見て、子どもの貧困とは何かについて学んだ。「お金がない、貧しい」といった旧来の貧困に対する捉え方以外の〈見えない貧困〉を知り、「保護者に子どもと関わる時間がなく、それが原因で寂しく過ごす子どもがいる」、「精神状態や生活が不安定な親の世話や、幼い兄弟の世話などで、育ちや学び(遊びや学習習慣)の機会が損なわれる」など、貧困という言葉が持つ意味、「必要なものが欠けた状態」という所へ理解が近づいた。
2、3週目の2コマは、西成区内で長年子どもに関わる活動をしている、「こどもの里」と「にしなり☆こども食堂」で話を聞いた。こどもの里代表の荘保さんからは、正規と非正規、男女間による賃金格差や、働き続けても収入の増えないワーキングプアについての話などを聞いた。それに関連して、ひとり親家庭の親が仕事を掛け持ちして体調を崩したり、子どもと接する時間が持てなくなるなど、『子どもの貧困は家族の貧困である』という話なども聞いた。ちなみにひとり親家庭の子どもの貧困率は50%を超えている。
「にしなり☆こども食堂」代表の川辺さんは、地域内で人と人との繋がりが弱くなってきたことにより、地域にいる「気になる子」が黙殺される状態になっており、みんな他人事にしていると話した。それは自分や自分の周りにいる人に困りごとが起きた時も、〈自己責任〉と、他人事にされるということだとも話された。また、親が子どもへ「こども食堂に行く子は貧乏人だ」と言うことが表すように、大人(社会)の無知から生まれ、無自覚の内に子どもへ刷り込まれていく差別意識の問題なども語ってくれた。

【学んだことを学校で発表】
学校での生徒たちの発表では、日本の子どもの7人に1人が相対的貧困状態にあるという事や、30人学級だと4・5人の子が該当するという基礎的な情報から、不安定雇用の拡大など、社会構造の歪みの中で貧困状態になる人が多数存在するという事、大人の無知からくる差別意識の問題や、社会問題である子どもの貧困を伝えることにより、周りの意識を変えていく事の重要性などを限られた時間の中で発表した。

有識者として話しを伺った前さん(※3)は、現在は大学で教鞭を取っているが、2007年に反貧困学習が始まった時の西成高校校長でもある。前さんは反貧困学習の有用性を、「社会の仕組みや問題を掘り下げて知るという意義もあるが、種々の社会問題に対し当事者性のある生徒は、社会構造の中から今の自分の状況を捉え直すことにより、なぜ自分がこういう状況にいるのかを理解し、自分がどのように生きればいいのかを考える機会となる。そうでない生徒も、友人などが類似する問題を抱えている事を知ると他人事ではなくなり、他者への理解へと繋がる」と語った。また、「若者の孤立感が高まる現代において、こうした他者理解に繋がり、共に解決策を模索できる教育はどこの学校でも必要だ」とも話してくれた。

こうした反貧困学習の取り組みは、〈見えない貧困〉が広がる昨今では、子ども達にとって大きな意味を持つ。日本の子どもの自己肯定感は世界的に見ても突出して低い。いじめや虐待の認知件数、そして若者の自殺率は右肩上がりだ。いい学校に入るため、いい会社に就職するための学習も必要だが、社会構造を知り、その矛盾を感じ、そんな社会で生きているということを主体的に感じられる学びも重要だ。子ども達一人ひとりがどのように生き、どんな社会で生きていきたいかを自覚するためにも。
この動画を生徒達と試写した際に、みんなが口をそろえて「子どもの貧困についてもっと知りたかった。学習時間が足りない」と言ったことは、この社会において大きな光であると強く感じた。

(※1)「反貧困学習~格差の連鎖を断つ~(2009西成高校編・解放出版社)」より、元・西成高校教諭 肥下彰男氏の文章より一部引用。
(※2)学習内容や手法は毎年少しずつ異なっていくが、上記書籍に詳しく書かれている。
(※3)前 比呂子/追手門学院大学国際教養学部・国際日本学科教授
反貧困学習の有用性は前氏の論文に詳細がある。
「高等学校における反貧困教育の取組を通した子どもの貧困対策への提言」
http://www.i-repository.net/contents/outemon/ir/503/503180303.pdf

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