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【特集】老舗銭湯「三ノ輪 改栄湯」4代目店主に聞く、サウナの拘りと再リニューアルへの想い

書士ろぐサウナー/サウナ・スパ健康アドバイザー

東京都台東区三ノ輪。ここは下町情緒あふれる商店街があり、昔ながらの都電がのんびりと走る街である。

どこか懐かしい雰囲気が漂うこの街には、なんと70年以上続く銭湯がある。
その名は「三ノ輪 改栄湯(以下、改栄湯)」。

「下町のラグジュアリー銭湯」を謳う改栄湯は4代続く老舗銭湯の1つだが、外観は最近できたばかりの新しさを感じる。

4代目店主の翁洋平さん(以下、翁さん)は、かつての時代を思い起こしながら「もともとは2つの湯船と洗い場しかない、シンプルな銭湯だったんですよ」と懐かしそうに言った。

後を継ぐと決めた理由とは

今は4代目店主として改栄湯を担っている翁さんだが、当初、銭湯を継ぐ予定も継ぐように促されたこともなく、普通に進学し普通に就職する道を選んだ。

翁さん自身は、銭湯を継ぐことについては考えたこともなく、普通の人生を歩むつもりだったが、20歳頃ある日に父親と話す中で『継ぐ気はあるか』と言われたことをきっかけに少しずつ引き継ぐことを意識するようになった。

「父と話す中、継がなければ今まで入って育ってきた愛着のある銭湯が無くなってしまう……それはもったいなと。今まで来てくれていたお客様もいる、できれば継いだ方が良いのは分かる。だけどそう簡単にやりますとは言えなかったです。一度決めたら後戻りはできないので、決めるには覚悟がいるし本当に悩みました」

引き継いで直面した問題

翁さんは悩んだ末に一度は就職した仕事を辞め、銭湯を引き継ぐことを決意した。

「銭湯業界は初めてで、本当に1からのスタートだったので不安でした。でも、父はもちろん、兄も仕事を辞めて裏方としてサポートしてくれるようになったので、家族の支えがある点は安心しました」

しかし、最初の問題が翁さんを待ち受けていた――それは銭湯の老朽化だった。

老朽化が進んでいたことからリニューアルは必須の検討事項だった。

「銭湯ごとにそれぞれ個性がある中、老朽化が進み、最低限の湯船しかない改栄湯にはそれがない。引き継いだとしても多くある銭湯の中から改栄湯を選んで来てもらうにはどうしたら良いのか」翁さんは悩んだ。

「ただ普通に新しくしただけではインパクトがない。以前の印象とは180度変えて、お客さんから全く別の銭湯に生まれ変わったと驚かれる位やらないと意味がない」と大規模なリニューアルを決意。

リニューアルの計画は工事の約2年前から始まった。
ベテランの設計士の方と何度も打ち合わせをし、時には他の銭湯やサウナ施設なども見学した。

リニューアルするにあたって何かテーマ性を持った方が良いと感じコンセプトも考えた。このコンセプト決めの時に前職のホテルマンでの経験が役立った。

「もし自分がお客さんだったら、どのような銭湯に通いたいだろうか?」と考えた翁さんは、かつてのホテルマン時代に感じたラグジュアリーで非日常的なリゾートホテルの雰囲気を銭湯でも味わえるようにと意識した。

こうして出来上がったコンセプトが「下町のラグジュアリー銭湯」だ。

下町のラグジュアリー銭湯として生まれ変わった「改栄湯」

綺麗に整っていて美しい男湯浴室
綺麗に整っていて美しい男湯浴室

「下町のラグジュアリー銭湯」のコンセプトを意識して、内装は木目調をベースとした和モダンな雰囲気の浴室に変え、今まで2つしかなかった浴槽は高濃度炭酸泉やシルキーバスなど多種多様な浴槽を増設した。よりリラックスできるように浴室ではスピーカーからジャズを流して雰囲気作りも徹底して拘った。

そしてこのリニューアルの際に新たに取り入れられたのが「サウナ」だった。
新たに作ったサウナは「導線」に拘った。

サウナを出たすぐそばに水風呂を設置し、その前には休憩用の椅子を並べた。こうすることで、サウナ、水風呂、外気浴(休憩)の移動距離が少なく済み、少ない歩数で外気浴まで辿り着くことができるためサウナの満足度が上がるのだ。

「導線に拘る部分については、この時のリニューアルから出来ていたのですが、それ以外は正直まだまだで、日々改善点や問題が出てきました。例えば、サウナ室の温度がドアの開閉によって、急激に下がってしまうのは大きな改善点でした」と翁さんは振り返る。

こうした日々浮き彫りになる改善点や問題点は気づいた時点からすぐに改善をしていった。
その甲斐があってか、少しずつ新規のお客さんやリピートしてくれるお客さんが増えていった。

しかし、最初はとても不安だったという。

「リニューアルオープン当初は宣伝してもなかなか認知がされず、かなり厳しいなっていう感じではありました。しかもちょうどコロナ禍だったということもあって、不安な立ち上がりで。それでも、日々出てくる改善点や問題点を改善していく中で本当に少しずつお客さんが足を運んでくれるようになっていきました」

好調だった男性サウナ室を一時休止し、再リニューアルに踏み切った理由とは?

ところが2022年5月好調だった男湯のサウナ室を急遽一時休止した。

理由は再リニューアルのためだ。

「リニューアルしてから1年後位からですかね、その頃になると順番待ちが頻繁に発生して、お客様をお待たせしてしまうことが増えてしまっていたんです……これを1番解消したかったのが大きな理由でした。せっかくお越しいただいたのに、フロントで順番待ちをしていただくのが本当に申し訳なくて。遅かれ早かけれリニューアルする必要はあったので、思い切って1年半しか経っていませんが、再リニューアルすることを決意しました」と翁さんは明かした。

どこも壊れているところはないことから、再リニューアルについて設計士の方に相談するとびっくりされて、「まだどこも壊れていないのだから、このタイミングでまだ建て直さなくても良いんじゃないですか?」と言われたが、それでも翁さんの気持ちは揺るがなかった。

再リニューアルするにあたっては少しでもサウナ待ちが発生しないようにするためにサウナ室を広くするのは大前提だったが、1度目のリニューアルを踏まえて、サウナに通いなれた方でも更に満足してもらえるサウナ室を作りたかったのだ。

温度と湿度に拘った新しいサウナ室

男湯サウナ室
男湯サウナ室

一時休止から約2ヶ月後の7月2日に再オープンした。新たなサウナ室は以前よりも広く、10人が余裕で入ることができるスペースとなった。

「正直なところ、もっと広くしたかったんですよ(笑)。でも、建物の構造上これが限界で、可能な限り限界一杯まで広げてもらいました」と翁さんは笑った。

サウナ室をただ広くしただけではなく、サウナストーブも新しいものに変えた。

以前よりも2回り大きい遠赤外線サウナストーブ
以前よりも2回り大きい遠赤外線サウナストーブ

「サウナストーブも特に故障しているわけではありませんでしたが、ドアの開閉による温度低下問題はもうコリゴリだったので、このサウナ室に対してかなりオーバースペックにはなるのですが、2回り大きい遠赤外線サウナストーブを導入しました(笑)」

遠赤外線サウナストーブを新しいものに変えたうえで、隣には新しくオートロウリュ型サウナストーブも設置した。

オートロウリュ型サウナストーブ
オートロウリュ型サウナストーブ

このオートロウリュ型サウナストーブは20分に1回自動的に温められたサウナストーンに水が注がれ水蒸気を発生させる。水蒸気が発生することでサウナ室の湿度が上昇する仕組みだ。湿度が上がることで、体感的に温度が高く感じられる

さらに、オートロウリュ後には3分間オート熱波が出るので、サウナ室全体に熱さを広げることができる。

「再リニューアルをしようと思ったきっかけの1つがこのオートロウリュ型サウナストーブでもあるんですけど、改栄湯のサウナを担当しているサウナ業者さんから『オートロウリュ型ストーブを初めて完成させた』とちょうど聞きまして、この情報を聞いて、リニューアルするならこのストーブを入れるのが良いんじゃないかと思ったんです」

オートロウリュ型サウナストーブと遠赤外線サウナストーブの2台を設置することによって、遠赤外線サウナストーブで一定の温度を保ちながら、オートロウリュ型サウナストーブで湿度もより保つことが可能となり、以前よりもさらにパワフルなサウナ体験が可能になった。

熱を逃さない二重扉
熱を逃さない二重扉

ドアの開閉による温度低下の問題を解消するために念には念を入れて二重扉もしっかりとしたものを作り、温度の低下を徹底的に防ぐようにした。

こうして、温度低下問題は無くなり、満足してもらえる熱々のサウナが提供できるようになったという。

「やっぱりサウナブームというのもあって、控えめだと皆さん物足りないと思うので、色々な意見聞きながら平均よりはちょっと刺激的な感じにサウナ室の温度は設定しています」

改栄湯の新サウナ室は、よりパワフルで心地良いサウナ体験を求める人々にとって、魅力的なサウナに生まれ変わり、評判も更に良くなった。

導線が完璧な地下120mから汲み上げたまろやかな井戸水の水風呂

営業時間になるとバイブラが出る
営業時間になるとバイブラが出る

サウナ室から出ると数歩で水風呂にたどり着ける。
改栄湯のサウナ体験をより一層充実させるため、サウナ室から数歩で到達できる水風呂も重要な要素となっている。

水風呂は気持ちよく入れるようにちょっと深めで、バイブラが付いている。
地下から汲み上げられた井戸水をチラーで冷やして15度に設定してある。

実はこのチラーも何度か強化した。
水風呂は露天に設置されているので外気の影響を受けて、お客様も多かったりするとどうしても水温が低くく保てないことがあった。

「暑い時期には温度が上昇してしまうことがあって、営業開始時には10度前後までうんと下げておくのですが、夜につれて18度前後になってしまうこともあるんですよね。今後大掛かりな改良をするとしたらチラーかなと思っています」

ちなみにこの水風呂はしっかり汗を流せば潜水もOKだ。

「水風呂に潜水したい人は多いだろうなと思っているので、しっかり汗を流してマナーを守ってもらえるなら全く問題ありません」と翁さんは笑顔で教えてくれた。

利用価値のないスペースがサウナ利用者専用の休憩スペースとして生まれ変わった

至高のととのいスペース
至高のととのいスペース

サウナ室の改良だけではなく、サウナ利用者専用の休憩スペースの増設も以前とは大きく変わる点だ。

「この休憩スペースのために残しておいたわけではなくて、『利用価値がないな』って思って物置として最初は使っていたんです(笑)。でも、実際はそんなに使ってもいなくて。何かに使えるかなとは思っていたんですが、使うには壁を取り払ったりと大掛かりな工事が必要だったので断念していました」

しかし、再リニューアルのタイミングで『サウナ利用者専用の休憩スペースするのが良いのでは』と考え、このために壁を取り払って作り直したのだ。

「サウナ室を広げると今までよりもサウナ利用者が増えることは予想できたので、このままだと水風呂の前の露天スペースだけでは椅子が足りずにゆっくり休むことが出来ないなと思い、その改善のために奥のところにサウナ利用者専用の休憩スペースを作ることを決めました」

この休憩スペースにはゆったり深めに座ることができるちょっと良い椅子(アディロンダックチェア)を置き、壁には扇風機も設置してサウナ、水風呂後にゆったり休憩できる。

短期間での再リニューアルだったが、発生していたサウナ待ちも改善され、お客様からの満足度も更に高めることができた。

女湯もアロマ香る熱々のサウナが満喫できる

女湯サウナ室
女湯サウナ室

再リニューアルのメインは男湯のサウナだったが、実は改栄湯では女湯でも熱々のドライサウナを満喫できる。

女湯のサウナ室は6人前後のコンパクトなサウナ室で、設定温度は高めの設定。女湯のサウナ室でも湿度を高めるためにサウナストーブの上にアロマ水を入れた鍋(通称サウ鍋)置いている。男湯と同じように温度と湿度には拘っている。

「できれば女湯のサウナもリニューアルしたいという気持ちはあるのですが、男湯とは違い道路側に面しているので、スペースの余地がなく根本的にサウナ室を改良することは難しいんですよね……なので、サウ鍋にアロマを入れてみたり、サウナ以外にもドライヤーやシャワーを新しい高級なものにしたり、アメニティに拘ったりと少しでも満足していただけるように心掛けています。

また、以前1度定休日を利用してレディースDAYを開催した際には多くの方に喜んでもらえたので、体制が整えばレディースデイもまた実施したいと考えています!」

街のお風呂屋さんとして大切にしていること

男湯同様に綺麗に整った女湯浴室
男湯同様に綺麗に整った女湯浴室

最後に「常に心掛けている大切にしていることとは?」と質問をしたところ、「清潔感」だと翁さんは答えた。

「設備を新しくしたり、サービスを増やしたりすることはもちろん大事なんですが、綺麗であることが大前提だと思うんです。いくら設備やサービスが充実していても、清潔であってこそだと思います。それに、やっぱりいつ来ても綺麗で浴室が定期的に整っているとお客様も嬉しいと思うんです」

この言葉を聞いて、営業時間内に浴室の見回りを行い、桶や椅子、サウナ室の前に置いているビート板を整えたり、浴槽のごみ取りなどを定期的に行う翁さんやスタッフの姿を思い出した。

今回の取材を通して改栄湯が人気な銭湯になった理由は決して浴室やサウナが新しくなっただけではなく、このような日々の意識や日々の改善を怠らない翁さんの姿勢や想いにあると私は改めて思った。

今日もきっと綺麗に浴室を整え、良い湯を沸かし、熱々にセッティングしたサウナを準備して、あなたが訪れるのを待っているはずだ。

【三ノ輪 改栄湯】
住所:〒110-0011 東京都台東区三ノ輪2-10-15
アクセス:三ノ輪駅3番出口 徒歩3分/南千住駅 徒歩9分
営業時間:月-金 14 : 00 - 24 : 00 土日 12 : 00 - 24 : 00
料金:入浴料520円+サウナ料金(男湯 ¥680/女湯 ¥480)
※paypay・suica支払い対応

サウナについてより詳細なインタビュー内容については、以下の記事で紹介しています。こちらも良かったら読んでみてください!

<取材・レポ>都内屈指の人気銭湯「三ノ輪 改栄湯」のサウナの魅力とリニューアルに掛ける想い

サウナー/サウナ・スパ健康アドバイザー

エレガント渡会さんと磯村勇斗さんから同時に熱波を受けたことがある数少ないサウナー|サウナに関する情報をブログ「書士ろぐ」で発信中|こちらでも週末サウナに行きたくなる情報を発信していきます!

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