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「サーファーマー」ライフスタイルで「家業」をアップデートするショウガ農家

杉岡太樹 / TAIKI SUGIOKA

ドキュメンタリー映画監督

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仲間と楽しく畑で働き、雨が降ったらサーフィンへ――。そんなライフスタイルから自らを「サーファーマー」と呼ぶ高知県のショウガ農家・刈谷真幸さんのもとには、共感するサーファーたちが全国から働き手として集まってくる。就農人口の減少や高齢化といった日本の農業が直面する問題はみじんも感じられない刈谷さんの農園は、都市生活者による短期労働を支えに生産量を伸ばし続けている。ショウガ生産量日本一を誇る県内でも異彩を放つこの農園、その求心力をひもとくと、若者たちが求める「新しい働き方」が見えてくる。


高知県・いの町。四国のほぼ中央の山間地で豊かな自然が残るこの町は、映画『竜とそばかすの姫』の舞台となったことで知られている。この町で60年以上ショウガを作り続けてきた刈谷農園では、植え付けや収穫の繁忙期になると若者たちが働く声が響き渡る。パタゴニアやノースフェイスといったアウトドアブランドを身に付け、一次産業につきまとう「3K(きつい・きたない・きけん)」のイメージからかけ離れた彼らの多くは、県外からやってきたサーファーたちだ。その中心にいるのが刈谷真幸さん。この農園の3代目代表だ。

「いつも泥だらけで帰ってくる両親を見て、カッコイイと思えたことがなかったね」

2人の姉を持つ末っ子の長男として生まれた真幸さんだが、家業を継ぐことに当初はあらがっていた。リーゼントが自慢の工業高校生活を終え、1度は農機具メーカーに就職したが、2年で退職。この頃からサーフィンに没頭し、アルバイトを転々とする生活を続けた。ようやく家業を継ぐ覚悟を決めた時には、26歳になっていた。

「農家だったら自分の好きなタイミングでサーフィンに行きやすいからね。波のコンディションは自然の巡り次第。人に決められた休日に行くのでは物足りなかったんだ」

就農からしばらくは、祖父母、父母とともに切り盛りする家族経営の「農家」としてやってきたが、12年前に転機が訪れる。1年で最も忙しい11月の収穫期に父がガンを患い、入院。にわかに直面した人手不足をきっかけに、経営方針を改めた。老いていく父母の労働力に頼ることなく、働き手を外から受け入れていく。そこで重要な手がかりとなったのがサーフィンだ。

東西の端から端まで約200kmに及ぶ海岸線が太平洋に面する高知県は、国内有数のサーフスポットがあることで知られ、シーズンになると全国からサーファーたちが集まってくる。サーフカルチャーに魅了されてきた真幸さんは、農地に隣接する敷地内にトレーラーハウスを設置し、旅人たちが宿泊できる環境を整えた。高知を訪れるサーファーたちは真幸さんを頼って宿泊するついでに、畑に立ち寄り、働く。ガイドブックでは決して手に入れられないローカルのつながりや情報を求めて、刈谷農園が高知を訪れるサーファーにとって「入口」になりつつある。

「2021年の収穫にはおよそ30人が県外から集まってくれた。1カ月の人もいるし、1週間の人もいる。日当の人もいれば時給の人もいる。働き方は人それぞれ。かつて働いていた人が同窓会のように集まって収穫を手伝ってくれたり、数日だけお手伝いした分のショウガを持って帰ったりするような人もいる。お金だけでは測れない『愛』としか言えないエネルギーをみんなが外から持ってきてくれるんだ」

農業は季節によって繁閑差が激しく、繁忙期に短期的な労働力を集める能力がそのまま生産量に現れる。周囲の農家が労働力不足に苦しむ一方で、真幸さんは耕作放棄地を次々と引き受けて農地を拡大し、先代に比べて約3倍、年間50トンにまでショウガの生産量を伸ばしてきた。

高知県は日本一のショウガ生産量を誇るが、その中でも数が限られる有機栽培に取り組んでいるのも刈谷農園の特徴だ。なぜオーガニックなのか。10年前に大阪から移住し、都市でのイベント出店やショウガのキャンディーやシロップといったオリジナル商品の開発に携わることで真幸さんとともに「サーファーマー」のライフスタイルを広めてきたKOCHI GOOD FOODSの市吉秀一さんがその理由を教えてくれた。

「サーフィンは、自然との調和。その感覚を農業に持ち込むと、自ずと環境負荷の低い農法が増えていくはずだし、消費する側もそうして作られた野菜を好んで選ぶはず。全国のサーファーが農業を通してつながることで、子供たちにより良い未来を残すことができるはずです」

収穫作業にいそしむ若者たちにここに集まる理由を聞くと、口をそろえるのが「人との出会い」だった。自然と共生する未来を志向し、太陽の下で土に触れながら、仲間と過ごす時間を大切にする。サーフィンを軸に醸成された世界観に共鳴する類が友を呼び、その輪がSNSを介して広がり続けている。

集まったサーファーたちが畑作業をインスタグラムで発信し、それにひかれた都市生活者たちがまた畑に集まってくる。かつて「3K」だった農作業は、若い世代の憧れにすらなりはじめている。この農園には、先細りする日本の農業に漂う閉塞感は感じられない。これを引っ張っているのは真幸さんの生き方、ライフスタイルにほかならない。

「大もうけがしたい、なんて気持ちはないんです。なによりも大切にしたいのは、自然の恵みと仲間たち。みんなで楽しく仕事をして、雨が降ったり休みの日にはサーフィンに行く。僕にとって百姓は『百笑』、1日100回笑うことを心掛けているし、ここの農園に来る仲間も同じように100回笑かしたろうと思ってます」

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