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原理不明の無限エンジン「EMドライブ」遂に論争に終止符!?(後編)

加速原理が不明の無限エンジン「EMドライブ」©NASA

前回の記事では、半永久的に加速し続けられる「EMドライブ」が、世界で実証が続々と成功した事例を紹介しました。

本記事では、原理が不明であったEMドライブの正体と、その論争の結末までをご紹介します。

無限エンジン「EMドライブ」原理は不明だが、燃料なしで半永久的に加速し続けられる!?(前編)

■EMドライブのおさらい

EMドライブ©SPR Ltd.
EMドライブ©SPR Ltd.

EMドライブは、テーパー形状の密閉された導波管の中に、マイクロ波を継続的に放射することにより、推進力を獲得できると言われているエンジンです。密閉された容器の中でマイクロ波を反射させるだけで、自らは何も失うことなく物体に加速度を与えるエネルギーが生まれるということです。これは、太陽電池などで電力を確保できれば、半永久的に加速が続けられることを意味しており、実現するのであれば画期的なエンジンになると考えられていました。

しかし、肝心の「なぜ推進力が発生するのか」については、考案者のロジャー・ショーヤー氏からは今まで満足な説明がなされることはなかったとのことです。逆にどうやって考案できたのか非常に気になりますね。

■EMドライブの鍵を握る「ウンルー効果」

その後もEMドライブの論争は激化していく訳ですが、謎だった推進力を得る原理の答えに近いものが提唱され始めます。それは「ウンルー効果」と呼ばれる理論で、加速する物体は加熱されるという説です。1976年に初めて記述された理論ですが、これが観測された実例は明確にはなく、論争が続いています。なぜなら、この現象は地球上での実証が難しく、重力のない宇宙空間で観測できる現象と考えられているからです。

そしてEMドライブの場合は、マイクロ波という圧力を導波管にかけ続けることで、このウンルー効果により慣性が発生しているという説が提唱されています。円錐状のコーンでこれを発生させることで、一方向に力を及ぼすことができるということです。

■ところがどっこい、やっぱり間違いだった?

加速原理が不明の無限エンジン「EMドライブ」©NASA
加速原理が不明の無限エンジン「EMドライブ」©NASA

しかし、EMドライブが優勢と思われていたところ、2018年に残念なお知らせが発表されます。

それは、ドイツのドレスデン工科大学による実験です。NASAがEMドライブを検証したものと同じ実験モデルを組み上げ、同様の推力測定試験を行いました。すると、結果は4マイクロニュートンの推力を観測したのです。「推しのEMドライブしか勝たん」とドヤ顔の皆さん、ここで驚愕の事態が発覚します。

なんと、EMドライブの向きを変えても同じ推力が観測できてしまったのです。更には、EMドライブを駆動せず、実験装置だけ動かしても同じ推力が発生していました。一体何がなんやらという感じですね。

この研究チームによると、この推力は地球磁場と電源ケーブル間に発生する電磁力なのではないかと推測しています。この効果を理論式から計算したところ、実験で得られた4マイクロニュートンとほぼ一致したとのことです。そして、2021年には実験装置を改善し再度試験に臨んだところ、遂にEMドライブからの推力は完全に消滅してしまいました。

この発表により、20年続いたEMドライブの論争は、一旦の終結を迎えます。NASAの試験で推力が確認できた際にはテンションが上がったのですが、残念ですね。ウンルー効果とかで盛り上がっていた時期が懐かしいです。

しかし、電力さえあればどこまでも飛んでいけるEMドライブは、宇宙探査における夢の技術であり、今も皆さんの心の中で加速し続けていることでしょう。宇宙開発のさらなる発展とともに、今後の物理学における新たな理論の発見にも大注目です!

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