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日本が「水エンジン」の宇宙実証に成功、月や火星での推進剤補給も可能となる革新的な技術に迫る

普段皆さんも飲んでいる「水」実は、宇宙での推進剤としても利用することができるのです。

本記事は、近年新たに登場した「水エンジン」をご紹介していきます。

日本が世界で初めて宇宙実証に成功「デトネーションエンジン」

■宇宙で「水」を推進剤とするメリット

近年、月や火星でも水の痕跡が多く見つかっています。特に、月の南極に位置している一部のクレータの内部は、永久に日光が当たらない日陰の部分があり、氷が豊富に存在する可能性が高いのです。氷が見つかれば、推進剤である水を補給することができます。月、火星、小惑星等における宇宙資源の活用は、宇宙開発の可能性を大きく広げることができるのです。その中で、「水」を利用できるエンジンを実現することで、宇宙資源利用時代に旋風を巻き起こすことができるんですね。

その他にも水を推進剤とする利点はたくさんあります。通常の衛星のスラスターはヒドラジンという有毒の燃料を使用しており、安全性に大きな欠点があります。一方、皆さんも良くご存じの水は、値段が安く、流しに捨てられ、もし喉が乾いたら飲んだって大丈夫です。なんて安全な燃料なのでしょう。また「水」は常温で液体でありながら低い分子量を持つため、小型化と高い比推力を可能にします。更に、周囲で発熱した機器の温度を冷やす役割を担うことだったできます。まさに水を推進剤とすることで、一石四鳥、という優れものなのです。

■日本初の水エンジンを東京大学が開発

AQT-D©東京大学
AQT-D©東京大学

日本で水エンジンを開発しているのは東京大学 小泉研究室です。

小泉研究室が開発した実証衛星「AQT-D」は、重さ3.7kg、大きさが10x10x34cmの超小型衛星です。超小型の推進系として、気化させた水を排出して推進力を得る水エンジンが搭載されています。2019年、宇宙ステーション補給機「こうのとり8号機」と共に種子島から打ち上げられました。水エンジンを搭載した衛星として世界で初めてISSに持ち込まれ、宇宙空間へと放出されました。

その後、2022年4月には地球の大気圏へ再突入したことが記録されていますが、AQT-Dの水エンジンが軌道上での実証結果については公式発表がされていないようです。

■深宇宙探査機「EQUULEUS」が水エンジンを実証

超小型探査機EQUULEUS©東京大学 / JAXA
超小型探査機EQUULEUS©東京大学 / JAXA

次の水エンジンの挑戦は、超小型探査機「EQUULEUS」です。EQUULEUSは、NASAの新型巨大ロケット「SLS」に搭載されている10個の相乗りペイロードの内の一つです。

超小型探査機としては世界初となる、月、地球、太陽の重力が釣り合うラグランジュ点のうちの月の裏側に位置する点へ向かう計画で、そのための軌道変換技術の開発・実証と、月・地球周辺の磁気圏プラズマ、微小隕石・ダスト環境の観測を行います。

超小型の推進系として、気化させた水を排出して推進力を得る水レジストジェットAQUARIUSを開発しました。AQUARIUSは、1.2kgの質量で4mNの力を出すことができます。4mNというと非常に小さい力のように感じますが、全ての水を使用すれば、4kgの超小型衛星を秒速60mまで加速できるとのことです。

EQUULEUSが撮影した月面画像©EQUULEUS Project Team
EQUULEUSが撮影した月面画像©EQUULEUS Project Team

2022年11月16日、NASAのSLSロケットが打ち上げられたEQUULEUSは、月へ向かう軌道に投入されました。JAXAの発表によると、EQUULEUSはAQUARIUSを使用して軌道変更に成功し、無事に月フライバイを行ったとのことです。

「水」エンジンにより、地球低軌道以遠で軌道変更に成功したのは世界初となります。そして、月フライバイ中には月の裏側表面の撮影が行われており、月の高度5550kmで撮影された昼夜の境界線の画像が公開されています。

日本で遂に宇宙実証に成功した「水エンジン」次回の記事では、東京大学発のベンチャー企業「Pale Blue」の水エンジン開発についてご紹介します。お楽しみに!

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