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「元テロリストを受け入れる」紛争地ソマリアで、イスラム過激派を更生させる日本人の若者

鈴木総平

ドキュメンタリーディレクター

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「彼らはかなり孤独ですからね」。アフリカ大陸の東端、ソマリア連邦共和国は世界最悪の紛争地ともいわれる。その場所で日本人の若者が、イスラム過激派組織アル・シャバーブの投降者、逮捕者たちに対し、社会復帰の支援をしている。「元テロリスト」とどう向き合っているのか。「誰もできないんだったら、自分がやる」。29歳の奮闘を追った。

■「危険すぎる」紛争地、ソマリア
1991年に勃発した内戦で国土が分断されたソマリア。2012年に正式な政府が発足するまで、無政府状態が続いていた。紛争に加えて飢饉や洪水も起こり、ケニアやエチオピアなど周辺国へ大量の難民を生み出して、“破綻国家”と呼ばれてきた。

ソマリア南部に台頭したアルカイダ系のイスラム過激派組織アル・シャバーブは、国内外で自爆テロ攻撃をくり返し、“アフリカで最も人を殺している組織”だといわれている。今もアル・シャバーブによるテロが、年間480件以上も発生している。

ソマリア中央刑務所には、約750人のアル・シャバーブの元メンバーが収容されている。ここで、彼らの脱過激化と社会復帰を支援しているのが、NPO法人アクセプト・インターナショナル代表の永井陽右さん(29歳)だ。

永井さんがソマリアに関わるようになったのは、2011年。大学1年生だった永井さんは、ソマリアで起きた飢饉のニュースを目にする。長年の紛争や無政府状態に、歴史的な大飢饉が重なり、“比類なき人類の悲劇”とまで形容されていた。学生団体を立ち上げて、支援活動を開始。サッカー用品を集めて送ったりしたが、「ソマリアを救う」という目的からは遠い。

ソマリアで活動するにはどうすればいいか、NGOの関係者などへ手当たり次第に相談したが、ことごとく反対される。国際協力のスキルも経験も豊富な大人たちでさえ、「危険すぎる」という理由で、誰もソマリアでは活動できていなかった。

■ 排除するのではなく、同じ若者として
2012年の終わり、永井さんは隣国のケニアで、難民として逃れてきたソマリア人のギャングたちと出会う。犯罪行為をくり返し、テロ組織ともつながりがあるとされるギャングたち。彼らの存在が、大人には解決策を見出せない深刻な問題となっていた。

翌年、永井さんはケニアでソマリア人ギャングの更生支援を開始する。彼らが自分と同年代だと知り、同じ若者としてできることがあるのではないか、と考えた。

「排除するのではなく、同じ若者として受け入れる。『何があったのか』と聞いていくと、好きでギャングになった人はあまりいない。『若者として復活していこうぜ』と更生支援が始まりました」

支援のもと、ギャング自身が自分たちの問題点を挙げ、解決策を考えるようになった。更生と社会復帰を後押しすることに成功し、永井さんは“受け入れる”ことの大切さを学んだという。

■「口うるさいオカン」として見守る
永井さんは早稲田大学を卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで紛争解決や紛争後政策などを学び、2016年にソマリアの地へ向かった。

「誰もできないんだったら、自分がやる」

アル・シャバーブの投降者、逮捕者たちに対し、脱過激化と社会復帰の支援をスタートした。まずは一人一人にケアカウンセリングを行い、それぞれの思いや課題と向き合い、共に新たな人生を考えていく。そして、出所後に待ち受ける困難をグループで話し合い、その対策を準備する。

出所しても仕事を得るのは難しい。そのため、職業トレーニングを行ったり、各自のスキルを把握して、どう就業につなげるか一緒に考えたりしている。履歴書の作成や、推薦状の用意も行う。

アル・シャバーブ元メンバーのアハメドは、アル・シャバーブの支配領域に近い田舎で生まれ育った。紛争下に生まれ、教育を受けず職もなく、怒りや不満を抱えた若者は、アル・シャバーブに勧誘され、自然と加入していく。アハメドもその一人だった。

永井さんが「出所したら、何がしたい?」と尋ねると、アハメドはこう答えた。

「とにかく彼女と結婚したい」

出所後は、アル・シャバーブから再び勧誘される恐れがあるため、故郷には戻らなかった。彼女と無事に結婚し、首都モガディシュで、トゥクトゥク(三輪タクシー)のドライバーをして生活している。

永井さんたちは、ソマリアでの支援活動を「DRRプロジェクト」と名付けている。DRRとは、「脱過激化」「社会との接点構築」「社会復帰」の英語の頭文字。紛争地では、国連機関などによりDDR(武装解除・動員解除・社会復帰)が行われてきた。しかし、DDRはすでに戦闘行為が終息し、和平合意がなされた場所でなければ実施できない。

永井さんが新たに取り組むDRRは、和平合意がなく、今もテロ行為がくり返されているソマリアのような場所での試みだ。テロ組織からの投降者や逮捕者の脱過激化と社会復帰を支援し、彼らが再び武器を取り、テロ組織に再加入してしまうことを防ぐ。

テロが毎日のように起きている状況下で、「元テロリスト」の社会復帰には、拒絶反応や差別感情も大きい。そんななかでも永井さんが大切にしているのは「受け入れる」姿勢だ。

「助けが必要な時は電話してね」と永井さんはアハメドに声を掛ける。

「彼らはかなり孤独ですからね。誰も頼る人がいない。やばくなったら電話できる、やばくない時にも電話がかかってきて、近況を聞いてくるうるさいやつ、ぐらいな存在でいることで、いろんなリスクを潰せるのかなという気がしていて。細々と、『口うるさいオカン』的な存在で見守っています」

クレジット

プロデューサー:牧 哲雄
撮影:齋藤 悠太
協力:日向 史有
EED/MA:織山 臨太郎
編集・ディレクター:鈴木 総平

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