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【泉南市】どれだけ待たされても「客が笑顔」のそば屋。“滞在時間10分”で感じたその理由に驚き

旅する日々の記憶と記録。matka08ライター(泉南市・泉佐野市)

ここ最近、立て続けに3度通ったそば屋があります。

一度目は、久しぶりに美味しいおそばが食べたくなってふらっと昼時に入店。その時に感じた「違和感」が忘れられず、取材を申し込んで再訪(二度目)。そしてとんでもないこの店の魅力を発見してしまい、懇願して再度撮影(三度目)をさせてもらうことに。

「違和感」とは、料理が運ばれてくるまでかなり時間がかかっているのにどのお客さんも笑っていること(とても楽しそう)。なんで? という違和感。

再訪時、“滞在時間10分”で感じたその理由に驚き、しばらくその余韻に浸ることになったのです。

*料理の提供時間は時間帯によって異なります。混雑時以外は比較的早く提供されることもありますのでご安心を。

今回ご紹介するお店は、信達牧野に店を構える「そば処 泉庵(いずみあん)」

JR「和泉砂川」駅から徒歩10分ほどのところにある地元で人気の手打ちそば店です。

「そば処 泉庵(いずみあん)」は、“元呉服屋” という異色の経歴をもつ 店主 殿谷 忠正(とのや ただまさ)さんが2009年から営むお店。お昼時には店の外に行列ができるほど市内外から多くのお客さんが訪れます。

店の入り口付近にはこんな “お願いごと” が…

【お客様へお願い】
当店は少人数で営業しております。そのため混雑時にはお席へのご案内、料理のご提供にかなりお時間を頂いております。お時間に余裕がないお客様は又の機会にお越し下さいませ。また、ご注文頂いた料理の内容により、調理時間が異なるため、お出しする順番が前後する場合がございます。何卒ご理解、ご協力の程よろしくお願い致します。

「お時間に余裕がないお客様は又の機会にお越し下さいませ」とは、なんとも正直で親切な案内。そういえば、一度目に訪れた時も料理が運ばれてくるまで15分~20分は待ったっけ? でも、待っていたお客さんはみんな笑顔で和やかムードだったんだよな~と、その時の様子を思い出しました。

お昼時を過ぎているのに店内には談笑するお客さんの姿が。
梁むき出しの趣のある店内は、ガラス窓の面積も広く開放的な雰囲気です。冬でもポカポカ陽気なら暖かいだろうな~なんて呑気に想像していたら、「おススメは『すだちそばやで~!』」と厨房あたりからなにやら明るく威勢のいい声が。

あ…これのことね? 「すだちそば」1300円(税込)。

「今日は外あったかいやろ? 冷たいのにしとき!」

あ…はい…って、あなた誰? 笑

あまりのフレンドリーさに「この店に知り合いおったっけ?」と頭にバンダナを巻いたおじさんに目を遣ると…

でん! と構えていたそのお方こそ「そば処 泉庵(いずみあん)」の店主でもあり、そば打ち職人の 殿谷 忠正さんなのでした。

御年76歳のスーパー“イケおじ”、あ、失礼、ジェントルマン店主です。
「わし、写真撮られるの苦手やねん!」の声にちょっと怯んだ様子が、水平がとれていない写真をみてよくわかります。
入店から10分、この殿谷さんの存在感がすごいのなんのって。

「来てくれてありがとう!」

「うちのそば美味しいやろ?」

「そば、ちょっとかためやねん」

「お前、いくつになった?!」

客に お、お前…?!  ど、どうか知り合いであることを願いたい 笑。(後から知り合いであることがわかり安堵)

厨房から何度も顔を出し、お客さんと談笑する姿に、「この人ほんまにそば打ち職人か…?」と失礼な感情が湧き上がるほど。

「今日もおっちゃんのそば美味しかったわ~!」の声に「そやろ!」とすかさずニコニコ笑顔で反応する姿を見て、「人の心をほぐす破壊力が半端ないな…この人」と驚き、笑顔でそばを待つお客さんは「そば処 泉庵(いずみあん)」のそばを食べに来ているというより「殿谷さんのそば」を食べに来ているのかもしれないな…と感じました。それは、イコールなのだけれど心の持ちようが少し変わる気がします。

いや~、それにしても(厨房から)顔 出すわ、顔 出すわ。

後日、お昼時にお伺いして、お仕事の邪魔にならないようにその「顔 出しっぷり」をこっそり撮影させていただきました。

その様子がこちら。

紫の暖簾の奥にある厨房で、慌ただしく作業をする殿谷さん。
朝7時から仕込みをするそうですが、現在は “30食分” のそばを打つのが精一杯といいます。(お歳を考えてもそりゃそうですよ…)
お昼時の厨房では、そばを茹で、料理を盛り付け、洗い物などをバタバタとされています。

もう一度言いますが御年76歳です。これだけでも大変そうなのに、お客さんがレジでお会計をされる度に、厨房から顔をのぞかせて声を掛けます。

ありがとうやで~
ありがとうやで~

おおきに~
おおきに~

また来てや~
また来てや~

満席時に入店されたお客さんのために、きょろきょろと席を探してあげている姿も。

あそこ、あくんとちゃうか~
あそこ、あくんとちゃうか~

どんだけ…。
ちなみにホールには、ちゃんとスタッフさんがいらっしゃいます。

そしてこの日も、お客さんは混雑した店内で談笑しながらそばを待っていました。

満席と知ってもお客さんは帰ることはありません。席が空くまで外で待つといいます。
そばが運ばれてくるまで席で待つお客さん、席が空くまで外で待つお客さん、みんな「殿谷さんのそば」を待っています。

一度目に訪れた時に感じた違和感の伏線が一気に回収されたような気がして、胸にストンと落ちました。

さて、その そばとは一体どんなそばなのでしょう。

二度目の訪問時は、お昼時を過ぎていたので、注文後5、6分で運ばれてきましたよ。

「すだちそば」(冷)  1300円(税込)
「すだちそば」(冷) 1300円(税込)

この日は暑かったので、*冷たい「すだちそば」がいい感じです。

*温かい「すだちそば」もあります。

山盛りのすだちをかき分けると見えてきたのは細い麺。

殿谷さん こだわりの「二八の細麺」です。

出汁に絡みやすく見た目も綺麗、のどごしや風合いの良さが格別など、殿谷さんの “細麺” へのこだわりはかなりのもの。スルスルと食べやすく、これだけのスダチの量にもかかわらず、酸味に負けない豊かな出汁の香りがします。

それもそのはず、自慢の出汁は、土佐清水のカツオ厚削り北海道の利尻昆布京都の老舗店の樽仕込み醤油で仕上げた浪速風味。やさしい甘さは “関西人好み” の味と感じます。
細麺はしっかりとコシもあり食べ応え抜群。出汁がよく絡むからちょっと得した気分になります。殿谷さんの人間味あふれる雰囲気と美味しいおそば、この店で過ごす時間がつい笑顔になってしまうのもわかる気がします。

細く長く、コシのある人生を送ってこられた殿谷さん。

生まれも育ちも泉南市で、元々はお父様の後を継ぎ「呉服屋」をしていたといいます。

50歳の時にはじめた泉州特産の水なす漬けのネット販売が好評だったことや、60歳を機に泉南市の農業公園にそばの花を植えたことがきっかけで「そば屋 開業」を志すようになったこと、その後 独学でそば打ち技術を学んで現在に至ることなど、楽しそうに話してくださいました。

「俺、職人ちゃうで~」と、めちゃめちゃ職人の風貌で笑う殿谷さん。“取材”という堅苦しい雰囲気は一切なし。まるで漫才をしているかのようです。
5、6分雑談をした後、「芸人になりたかったんよ」とポツリ。え?!

「でもな~、本番で舞台に上がったら緊張して失敗するタイプやねん」と笑います。

“師匠”っぽい殿谷さんが言うからまた可笑しくて吹き出してしまいました。

店をはじめた時に、心に誓ったことがあるそうです。

お客さんの顔を見て挨拶をする” ということ。

「おいしかった!」といってもらえることが何よりうれしい、と話します。

「そば処 泉庵(いずみあん)」のメニューは「すだちそば」(温・冷) 1300円(税込)のほかにも、平日数量限定の「泉庵御膳」(おそば・ご飯・ミニ揚げもの)小鉢色々+ミニデザート 1800円(税込)や、定番メニューもいろいろあります。

混雑時を避けると、さほど待つことなく食べられます
混雑時を避けると、さほど待つことなく食べられます

「昔は、待たせてしもたお客さんによう怒られたわ。今はありがたいことに怒るお客さんはほとんどおらん。店の外でも待ってくれはるもん」と殿谷さん。

そんなお客さんへの感謝の気持ちが、あの「顔 出しっぷり」に反映されているのかもしれませんね。

そばの美味しさはもちろん、殿谷さんの温かさも魅力の「そば処 泉庵(いずみあん)」。

ちょいちょい飛び出す「おやじギャグ」もいい塩梅で心を和ませてくれます。

「顔 出しっぷり」がパーフェクトでなくてもそこはどうかご愛嬌で。

そばは間違いなく美味しいので。

現在は自家栽培のそば粉は使用しておりません
現在は自家栽培のそば粉は使用しておりません

【基本情報】
店名:「そば処 泉庵(いずみあん)」
公式ホームページ(外部リンク)
住所:泉南市信達牧野832-1 ブレスガーデン内(Googleマップ参照)
Tel:072-485-4108(よいおそば)
営業時間:11:30~14:30(L.O.14:00)

*そばがなくなり次第終了
定休日:水曜・木曜
駐車場:あり(共有18台)
取材協力 「そば処 泉庵(いずみあん)」
店主 殿谷 忠正様
*「そば処 泉庵(いずみあん)」様のご協力により、撮影用商品を無償でご用意いただきました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。
*記事内容は取材当時のものです。詳細は公式ホームページでご確認をお願いいたします。

ライター(泉南市・泉佐野市)

なんでもない日々を旅するように暮らす日常写真家。「ローライ35s」という小さなフィルムカメラでささやかな日常を記録しています。私たちの町のちょっとうれしくなるあんなことこんなこと。皆様の日常がもっともっと楽しくなりますように。

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