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【片付けのプロは見た】実録!ごみ屋敷の現場レポート~依頼主の過去と再出発~

高桐久恵整理収納アドバイザー

岐阜県で整理収納アドバイザーとして活動している私だが、仕事柄お客様から信頼のできる業者さんを紹介して欲しいとお願いされることが多い。そんな時にたまたま知人の紹介で、大垣市で活動しているNPO法人清爽力という清掃会社とつながりを持つことができた。その業者さんは、大きな企業や介護施設の清掃など業務は多岐にわたっており近頃は特殊清掃も行っているとのこと。機会があれば見学をさせて欲しいとお願いをしていた。

その日は突然やってきた。

ある夏の暑い日、その業者さんからごみ屋敷の清掃業務が入ったのでよかったらお手伝いに来ませんか?と連絡が。ごみ屋敷というとテレビで見ることはあっても実際には見たことがなかったので、勉強がてらお手伝いに行かせてもらうことにした。

その日は午後から他のお宅で片付け作業が入っていたので、午前中の2時間ほどの手伝いになったが私にとって衝撃的な体験をさせてもらうことになる。

気温30度超え。朝からぐんぐん気温が上がり、何もしていなくても汗ばむ陽気だった。現場は賃貸アパートの1階。外には大きなトラックが待機していた。「よろしくお願いします。」とスリッパとゴム手袋を手渡される。開けっ放しの入り口ドアから中をのぞいて驚愕した。

玄関入り口にはすでにたくさんの物が。
玄関入り口にはすでにたくさんの物が。

まずこれまで嗅いだことのないツンと鼻をつく匂い。大量のごみで埋め尽くされている床。入るのを躊躇してしまう状態だが気を引き締めて中に入った。中に入ると依頼主と思われる中年の男性がちょこんと座っていた。特に身なりなど変わった様子はなく、ごく普通の男性という印象。(以下Kさん)

床には大量のごみが。
床には大量のごみが。

やっぱり置かれているものが違う。

これまでも床が物で埋め尽くされている家は何度も片付けをしてきたが、やはり置いてあるものが違う。通常の生活をしているお宅は衣類や書類など使っているものが落ちていることが多いが、このお宅の床に落ちているのは全て明らかなごみだった。それもごみが何層にもなって重なっていて、ほとんどがコンビニでもらう箸やスプーンのごみ。毎日の食事はコンビニ弁当なのか食べかけの弁当やスーパーで買ってきたと思われるお惣菜が腐ったもの。それに混ざるように丸まった靴下やベルト、卑猥なDVDや雑誌が落ちていた。

とにかくひたすらごみを集めていく。
とにかくひたすらごみを集めていく。

判断を仰ぐ状況ではない。

私が普段行っている片付けは、ただ捨てるのではなく依頼者に要不要を確認しながら進めていくのだが、ここでそんな事をやっていては日が暮れてしまう。ごみ屋敷での作業は、ごみを処分するのがメインの作業で依頼者に要不要の判断をしていただく状況にないんだということに軽く衝撃を覚える。依頼者のKさんも一緒に作業しているのだが、特に確認することもなく落ちている物を全てごみ袋に入れていく。ときには判断を仰いだ方がいいのかな?と迷う書類なども出てくるが、まず物を全て捨てる!という雰囲気なので戸惑いながらも必死に目の前の物を袋に入れていった。時折、台所の方から奇声があがる。

台所や浴室はさらに大変な状態。

台所の掃除をしている様子
台所の掃除をしている様子

作業の途中で何度もゴキブリが出現!
作業の途中で何度もゴキブリが出現!

台所はゴキブリが何匹も走り回っていて、何度も女性スタッフの方の叫び声が聞こえてきた。トイレや浴室などの水回りは業者の男性スタッフが担当し、カビだらけの浴槽やトイレに塩素を振りかけていく。ちょこっと覗かせてもらったのだが、びっくりするくらいカビで真っ黒になっていて、聞くと現在進行形でこのお風呂を使っているようだった。

現在進行形で使用されている浴室
現在進行形で使用されている浴室

彼の一番大事なモノとは…。

1時間ほど作業を続けると床が見えるようになってきた。Kさんの不安げな表情に気づいた私はこそっと「全部捨てられてしまうから大事なものはとっておいた方がいいですよ。」と声を掛けた。するとKさんは「そうだなぁ。」とおもむろに袋を手にしてあるものを集め始めた。それは彼にとって一番大事な物なのであろう【スケベなDVD】であった。その姿を見て「明日着る服は大丈夫ですか?」と聞いたが「また買ってくるから大丈夫。」という返事だった。

私達の脳は視覚から入ってくる情報を日々処理し続けているという。あまりにも情報量が多いと次第に脳からこれ以上の情報を入れないようにという指令が出され、目の前の情報しか脳には伝わらないようになってくるらしい。おそらくKさんも明日着る洋服のことより目の前の自分が必要にしているものの方が重要だと思ってしまうくらい視野が狭くなっているのかもしれないなと思った。

それにしてもどうしてこんな状態になってしまったのか、ここまで来るのにどんな過程があったのかすごく気になってしまった。2時間ほど作業して私は次の仕事に向かうために帰らせていただいたのだが、ずっとKさんのことが気掛かりだった。

リセットされていく部屋
リセットされていく部屋

Kさんの過去。

後日、お世話になった業者さんと会う機会があり、どうしてKさんの家はごみ屋敷になってしまったのかを聞くことができた。彼は元々とても真面目な方で、地元では有名な大手企業に40年ほど勤務していたそうだ。その時にある女性に出会い、彼の人生は変わっていく。詳しくは聞かなかったがその女性に大金をだまし取られ、自暴自棄になり酒に走るように。最終的には仕事も辞め、酒に入り浸りの生活を送るようになったらしい。部屋は足の踏み場もなくなり異臭もするようになったことで近隣に迷惑を掛けたらいけないと、みかねた親族が業者に依頼してきたというのだ。Kさんがどれだけ辛い思いをしてきたのかを考えるとあの状態になっても仕方がないかもしれないとも思った。

ぴかぴかの浴室
ぴかぴかの浴室

キレイに清掃された台所
キレイに清掃された台所

後日談

実はこの話には後日談があり、作業の数か月後にKさんの信じられない変わりぶりを聞くことができた。作業が終わってまっさらになった部屋で、やはりまた酒に溺れる日々を過ごしていたというKさん。親族の方が体を心配して、アルコール依存症の方が更生する為に入る施設に入居をすすめたそうだ。しばらくして帰宅したKさんに健康的になって欲しいという想いから業者の清爽力さんが仕事を与えホテルの部屋の清掃をお願いしたところ、人が変わったように働き始め、今では週に数回勤務しているというのだ。アルコールも一滴も飲まずきっぱりやめたというから驚きを隠せない。

人が変わったように働くKさん
人が変わったように働くKさん

さいごに。

この姿を見て、人は何かのきっかけでこんなにも変わることができるのかと感心した。人間とは常に誰かに必要とされたい、認められたい、分かってほしいと思っているもの。その欲求が満たされない時に物を買うことで寂しさを埋めたり、酒を飲んで忘れたりすることは誰にでもあると思う。でもどこかでセーブしないとKさんのように自分を見失ってしまう。

自分を見失い、生きること自体がどうでもよくなった彼が一旦全てを手放してリセットすることで自分の価値をもう一度確認することができたのかと思うと感慨深い。

片付けで困っている人はたくさんいる。物の量は違えど、一歩間違えばごみ屋敷にぐっと近づくお宅も実際にある。そうなると自分一人の力では解決できなくなってしまう。そうならないためにもモノにたいしての意識、快適な暮らしとは何か?を一人でも多くの方に伝えられるよう精進していこうと心に決めた、そんな体験をさせていただいた。

Kさんの再出発を心から応援しています。

※今回写真の提供や過去の話など全てKさん本人の了承を得て掲載させていただきました。

筆者:高桐久恵(たかぎりひさえ) 整理収納アドバイザー
岐阜県で講座やセミナーのほか、個人宅の片付けサポートを行う。
生前整理アドバイザーの資格も持ち、収納よりも整理に特化したサポートを心がけています。
Instagram(@restart.138)ではお片付けビフォーアフター画像や元バスガイド時代の漫画も描いています。最近YouTubeも開設しました。

整理収納アドバイザー

新しい自分に出会うお手伝いを!の言葉をモットーに今の自分を変えたい方のサポートをしています。整理収納アドバイザー1級、整理収納アドバイザー2級認定講師、生前整理アドバイザー、発達支援教育士。講座セミナー受講者 1600人以上/片付け作業実績 1500時間以上/岐阜県大垣市在住。小学生2人の男の子ママ。

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