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「宴もたけなわ」の“たけなわ”って何?-“竹縄”じゃない!実は日本酒のことだった!【慣用句】

高橋亜理香日本語教師/日本語・日本酒ライター

お読みくださってありがとうございます!日本語と日本酒の日本(二本)柱で生計を立てる、日本唯一(かもしれない)日本語教師の高橋亜理香です。

日頃よく使ったり聞いたりする慣用句や表現。その表現自体の意味は知っているけど、そもそもの語源がよくわからないという人、多いのではないでしょうか。

今回は、日本語教師であり日本酒学講師でもある高橋が、目からウロコだった慣用表現をご紹介。

パーティーや結婚式のクライマックスでよく聞く「宴もたけなわ」の“たけなわ”に迫ります!

盛り上がった宴会中に切り出す「宴もたけなわですが…」

盛り上がっている宴会やパーティー、結婚式などで幹事や司会が「宴(も)たけなわではございますが…」と切り出し、締めモード・お開きモードに入るフェーズ…。経験ありますよね?

「宴」は「えん」と読んでいますが、もちろん「宴(うたげ)」つまり宴会、飲み会といった意味です。

また、切り出されるタイミングから「たけなわ」は「盛り上がっているとき、真っ最中、最高潮」ということは、きっと想像がつくと思います。

そのとおり「宴(も)たけなわ」は

宴会の真っ最中、一番盛り上がっているとき

という意味で、「宴(も)たけなわですが」は「せっかく盛り上がっているところですが…」と言いたいときに使用する慣用表現です。

でも「盛り上がっているとき」をどうして「たけなわ」と言うのでしょう?そもそも「たけなわ」って「竹縄」?「武縄」?どう書くの?

そんな疑問へお答えです!

「たけなわ」は「酣」と書く!実は日本酒造りに関連したことば

どうして最高潮の状態のことを「たけなわ」と言うのでしょう。

まず「たけなわ」は、正しくは「酣」または「闌」という漢字を使用します。どちらも「最高潮」という意味なのですが、実は「酣」というのは、もともと日本酒造りに関連することばなのです。

日本酒造りは、日本酒の元となる酒母・蒸米・麹・水をタンクに投入して、タンク中で麹の酵素が働くことで米のでんぷんが糖化されブドウ糖になる工程と、そのブドウ糖が酵母によってアルコール発酵されて炭酸ガスとアルコールが生産される工程が、ふたつ同時に進行していきます。

その工程にはラグがあるため、タンクの中の将来の日本酒「醪(もろみ)」は、ざっくりと前半は甘く、アルコール発酵が進んでいくとともに糖分が減り、アルコールが増えていくプロセスです。

「酣(たけなわ)」は、この発酵の過程で醪が泡をブクブクと発生させ湧いていく様子の最高潮を意味するそうです。この泡が高く湧いている頃が糖分も多いため、酒を表す「酉」へんに「甘」という漢字が当てられているのであろうと思われます。ちなみに昔の酒は、時代や製法の背景から今よりもとても甘かったそうです。

日本語とともに日本酒を伝える立場の高橋は、最初に由来を知ったときは感激でした!

実際に醪(もろみ)に泡が湧く様子はとても神秘的で、呼吸をするようにブクブク静かな音を立てて動く泡は、本当に「酒は生きている」という実感があります。

そうしてできあがった酒を楽しむ宴会の最高潮が「宴たけなわ」…昔の人の表現は風流でセンスがありますね。

(※その他の説としては、「うたげなかば」が変形したという説などもあるそうです)

語源はロマン!知ればより楽しい慣用表現

知れば、その昔の表現力の豊かさがわかる慣用表現。今回は高橋が一押しの語源をご紹介しました!

次の宴会では、ぜひこれを話のネタにしてみてください。

知れば誰かに教えたくなるような、昔の人の英知が詰まった日本語たち。他にもまだまだあるはずです!

日本語教師/日本語・日本酒ライター

都内日本語学校の専任講師を経て、現在はフリーランスの日本語教師として留学生の日本語・進学指導やオンラインレッスンをしています。外国人の日本語学習を通して日本人の気づかない日本語を探究中。兼業で日本酒ライター・テイスターとして、父の故郷の秋田県をはじめとした日本酒の良さを伝えるお仕事もしています。保有資格:日本語教育能力検定試験、J.S.A.SAKE DIPLOMA、SSI日本酒学講師、SSI利酒師

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