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ひとり旅がおすすめ! 「ソロ温泉」が仕事の成果につながる意外な理由

高橋一喜温泉ライター/編集者

ベストセラー『思考の整理学』で知られる外山滋比古さんは同書の中で、文章を練ったり、思考を巡らせたりするのにふさわしいシチュエーションとして、「馬上(ばじょう)」「枕上(ちんじょう)」「厠上(しじょう)」の3つを挙げて、「三上」と呼んでいる。

現代でいえば「移動中」「寝る前」「トイレ」ということになるだろう。

実際、「旅先で散策している最中におもしろいアイデアを思いついた」「帰りの新幹線の中でずっと懸案だった問題を解決するヒントが見つかった」といった話もよく聞く。

筆者は、この「三上」に「湯上」を付け加えたい。

温泉に入っていたら、ずっと頭の中でモヤモヤとしていた考えが整理されたり、新しいビジネスのアイデアを思いついたりする――。このような経験をしたことはないだろうか?

なぜ、このようなことが起きるのだろう? 単なる偶然や気のせいにすぎないのだろうか? 実は、この現象は日常から遠く離れた空間に身を置くことと関係している。

早稲田大学大学院教授で、『世界標準の経営理論』『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』などのベストセラーの著者としても知られる入山章栄氏は、「移動距離に発想力は比例する」と述べている。

経営者やイノベーターが、イノベーションを次々と起こせるのは「知の探索」を怠らないからだ。入山氏は『日経ビジネス』の「イノベーションが止まらない『両利きの経営』とは?」という記事の中で、知の探索についてこう説明している。

イノベーションの源泉の1つは「知と知の組み合せ」です。たとえば、自社の既存のビジネスモデルという「知」に、他社が別事業で使っていた手法などの「別の知」を組み合わせることで、新しいビジネスモデルや商品・サービスを生み出していくことです。そのためには色々な知の組み合せを試せた方がいいですから、企業は常に「知の範囲」を広げることが望まれます。これを世界の経営学では「Exploration(知の探索)」と呼んでいます。   

筆者が知っているビジネスエリートや経営者もよく旅をする。出張も厭わず、飛び回っている。ある売れっ子のコンサルタントは1年に150回以上飛行機に乗るという。

これは彼らが、新しい知を求めて、いつもの自分の行動範囲から離れた場所に足を運び、これまで認知してこなかった土地や現場、空気、人に触れることが重要だと気づいているから。ビジネスパーソンにとって「知の旅」をして、自らの知の範囲を広げることは大切なのだ。

遠く離れた温泉地に足を運ぶ「ソロ温泉」(ひとりでの温泉旅)もまた、日常とはまったく異なる世界に身を置くことになる。

温泉街という異空間、旅館の佇まい、豊かな自然環境、滞在先で出会う人、のんびりとした時間の流れ、都会とは鮮度の異なる空気……。日常を離れたひとりきりの時間だからこそ見えてくるもの、気づくものがある。

いつもの行動範囲で見聞きするものとは異質なものに触れることで、新しい「知」や「感覚」を得られ、それがビジネスにプラスとなるアイデアやイノベーションにつながるのかもしれない。

ソロ温泉では、ただひとり、静かに温泉につかる行為こそが、結果的にアイデアやイノベーションを生むのかもしれない。

会社のデスクでPCとにらめっこしながら頭を捻ってみても、ユニークなアイデアは生まれない。温泉入浴のように脳がリラックスした状態だと、ふとした瞬間にブレイクスルーするアイデアが天から降りてくるかもしれない。

「移動」×「温泉」の組み合わせは、あなたの発想力を刺激し、仕事の成果につながるポテンシャルをもっているのだ。

高橋一喜|温泉ライター

386日かけて日本一周3016湯を踏破/これまでの温泉入湯数3800超/著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)/温泉ワーケーションを実行中/2021年1月東京から札幌へ移住/InstagramnoteTwitterなどで温泉情報を発信中

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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