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ひとり旅だからできる! 「ソロ温泉」の達人が宿滞在中に大事にしている時間とは?

高橋一喜温泉ライター/編集者

ソロ温泉(ひとりでの温泉旅)だからこそできることがある。いろいろあるが、そのひとつが、ひとりで考える時間をもつこと。

忙しない日常では、ただただ考える時間はそう確保できるものではない。温泉に入りながら、将来のことを考えたり、これまで手つかずのままだった人生の課題について熟考したりするのもありだろう。

つまり、ソロ温泉は「ひとり合宿」の絶好の機会だ。ひとり合宿とは、「日常を離れてひとりで思考を深めたり、日常や人生を見つめ直したりすること」と定義している。思考を深めたいときに、隣りに連れがいたら、おそらく思考は止まってしまうだろう。

マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は定期的に1週間、完全に業務から離れ、川辺のロッジに大量の本を持ち込み、読書に没頭することを習慣にしていた。そして、自らの頭の中を整理し、経営に影響を与える重要なテーマについて検討していたという。

ゲイツ氏はこれを「Think Week(考える週)」と呼ぶ。同じことを温泉地で実践してみてはどうだろう。

ゲイツ氏と同じように、宿に書籍を持ち込んでひたすら読書に没頭してもいいし、ただ、ぼんやりと自分を見つめ直すだけでもいい。思いを巡らせる時間そのものが日常では確保しにくい貴重な時間である。

筆者も人生の節目節目で、温泉地でひとり合宿をしてきた。30歳のときに会社から独立し、趣味である温泉めぐりを究めることを決めた。日本全国3016湯をめぐる旅を思い立ったのだ。この決断をしたときのひとり合宿の舞台は、群馬県にある沢渡温泉だった。

「草津温泉の仕上げ湯」として知られ、数軒の宿と共同浴場が並ぶ小さな温泉地で。遊興的な施設はゼロ。ひとり合宿には最適の温泉地だ。

3泊4日のスケジュールで滞在した宿の浴室は、ひとり思いを巡らせた。外では、セミがしきりに鳴き、源泉かけ流しの透明湯が窓から差し込む光によってキラキラ輝きを放っていたのを今もよく覚えている。何度入っても飽きない、居心地のいい空間だった。

4日間の滞在で、何度、温泉に入っただろうか。朝食前、朝食後、昼下がり、夕食前、就寝前……最低でも1日に5回は入っていたはず。

温泉に入る以外は、近くを流れる沢渡川の河畔にある公園で、ボーッと川の流れを見つめたり、散歩をしたりした。部屋に戻れば、本を読んだり、昼寝をしたり。ひとりで考える時間はたくさんあった。

そして、温泉に入りながら「独立して好きな温泉を究める道を歩んでみよう」と思い至った。温泉でのひとり合宿の結果、私の人生は大きく舵を切ったのである。

それから十数年後、2021年に筆者は東京から札幌に移住した。筆者にとっても家族にとっても大きな決断となったが、これもまた温泉地でのひとり合宿の結果だ。

「毎日忙しくて、日々の生活や自らの人生を振り返る時間なんてない」という人には、非日常の空間である温泉宿にこもって強制的に思考する時間をつくってみることをおすすめする。

高橋一喜|温泉ライター

386日かけて日本一周3016湯を踏破/これまでの温泉入湯数3800超/著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)/温泉ワーケーションを実行中/2021年1月東京から札幌へ移住/InstagramnoteTwitterなどで温泉情報を発信

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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