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ひとり旅だからおすすめ! 「ソロ温泉」であえて訪ねたい「ちょっと不便な温泉地」

高橋一喜温泉ライター/編集者

筆者が提唱する「ソロ温泉(ひとりでの温泉旅)」の目的には、「ひとりの時間を過ごす」「何もしない空白の時間をつくる」「人間関係のスイッチを切る」などがある。あえて、ひとりを志向するのである。

こうしたソロ温泉の目的をとことん突き詰めるのであれば、「不便」な温泉にあえてチャレンジするという選択肢もある。不便である分、観光客が多くなく、温泉や自分自身と向き合う静かな時間を享受することができる。

現代人はスマホなどの通信手段、電車や車などの移動手段といった文明の利器を当たり前のように活用し、不便とはほど遠い生活をしている。だが、ひとたびそうした便利な手段をとりあげられたら、目の前のものや自分自身と向き合わざるをえなくなる。

旅先に温泉しかなければ、ひたすら温泉につかり、自分自身と対話する以外にない。不便な温泉地は、日常から自分を切り離し、心身をリセットするのに最適な環境である。

徒歩でしか到達できない温泉へ

「不便」な温泉の筆頭といえば、車や電車などではアクセスできない温泉だろう。

たとえば、登山道の途中にあるような温泉は、山登りも含めて自分と向き合う時間が長い。さらに、山の頂上で食べるおむすびが格別の味であるように、登山後に入る温泉の気持ちよさは最高である。

八ヶ岳山麓にある本沢温泉(長野県)につかったときの感動は今も忘れられない。標高2150mの日本最高所に湧く野天風呂で、荒々しい硫黄岳を望みながら入浴できる絶景温泉である。2時間を超える登山のあと、白く濁った湯に身を沈めると、体中の筋肉がすっと弛緩していった。

山登りを趣味にしている人なら、登山とソロ温泉を組み合わせてもいいだろう。自分と向き合うという意味では、登山とソロ温泉の相性はいいはずだ。

登山に自信がない人なら、奥鬼怒温泉郷(栃木県)がおすすめである。鬼怒川の源流付近にある山中の温泉で、八丁の湯、加仁湯、日光澤温泉、手白澤温泉という4つの一軒宿が点在する。いずれもすばらしい湯をもつ温泉宿であるが、基本的にアクセスは徒歩にかぎられる(八丁の湯と加仁湯は宿泊の場合送迎あり)。

その道中は、自然の宝庫。原生林が広がり、ダイナミックな滝や巨大な岩など見どころが多い。シカやニホンザルがひょっこり顔を出す。忙しない日常を忘れてくつろぐには最高のロケーションである。

「スマホ圏外の宿」でデジタルデトックス

スマホ圏外の宿は年々少なくなっているが、あえてそういう宿に狙いを定めると、充実したソロ温泉旅となる。

青荷温泉(青森県)はランプの宿として知られ、スマホの電波はおろか、電気も通っていない。当然、テレビもコンセントもない。風情のある浴室とピュアで透明な源泉もすばらしく、人間関係をはじめさまざまなスイッチをオフにするにはもってこいの環境である。

そのほか「日本三秘湯」のひとつである谷地温泉(青森県:ロビーでのみWi-Fi利用可)、トロッコ電車でしかアクセスできない黒部峡谷の黒薙温泉旅館(富山県)などもスマホ圏外の宿である。

圏外ではないが、近年では〝スマホ断ち〟をサービスとして取り入れている宿もある。

星野リゾートが展開する「星のや」は、「脱デジタル滞在」をテーマにしたプランを提供している。宿泊者はチェックインと同時にデジタル機器を宿に預け、自然の中の散策や乗馬などを体験する。デジタル機器を受け取るのはチェックアウト時だ。人気リゾートホテルでこのようなサービスが提供されているのは、一定のニーズがある証しだろう。

黒薙温泉
黒薙温泉

離島は「ソロ温泉」に適したロケーション

「不便」という点では、離島の温泉も負けていない。ふだん船に乗る機会はほとんどないので、大海原に向けて船が動き出すと、それだけで一気に旅情が高まる。離島への旅は空間的にも精神的にも普段の生活から隔離される。まさにソロ温泉に適したロケーションだといえる。

首都圏に住んでいる人におすすめなのは式根島(東京都)である。伊豆諸島を構成する島のひとつで、周囲12キロと小さな島ながら、美しい絶景スポットも多数ある。

東京の竹芝桟橋から式根島までは、大型客船さるびあ丸で約11時間、季節により運航する高速ジェット船で約3時間の距離である。

式根島は一般的に海水浴などマリンスポーツのイメージが強いが、野趣あふれる温泉が湧くことでも知られる。

なかでも「松が下雅湯」は、式根松島と称される海の景色を眺めながら湯浴みができ、赤茶色の濃厚な湯がかけ流されている。温泉で体が火照ったら海の風にあたって涼む。そんなことを繰り返していると、日々の時間から解放される感覚になる。

松が下雅湯
松が下雅湯

なお、式根島は小さな島なので、基本的に民宿に宿泊することになる。海の幸に舌鼓を打ちながら、宿の人やお客さんと交流するのも楽しい時間である。

そのほか、屋久島(鹿児島県)も温泉好きなら一度は訪れたい離島である。海の干潮時のみ地上にあらわれる平内海中温泉、素朴な共同浴場ながら足元湧出泉である尾之間温泉など、横綱級の温泉を堪能したい。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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