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現代人は「自分時間」が足りない! 「ソロ温泉」だから確保できる貴重な時間とは?

高橋一喜温泉ライター/編集者

仕事や家族、他人に振り回されない「自分だけの時間」を確保できているだろうか?

11月15日の『あさイチ』(NHK)では「自分時間」が特集されていた。SNSで「#METIME」の投稿が世界で1000万件以上にのぼるほど、「自分時間」が注目されているという。

忙しない日常では、自分ひとりの時間をもつことは簡単ではない。

そういう意味では、ひとりで温泉に出かける「ソロ温泉」は、絶好の自分時間といえる。

非日常だからこそ「ひとり合宿」

ソロ温泉では、忙しない日常ではできない時間を確保できる。

たとえば、ひとりでじっくり考える時間。日常生活では、ただただ考える時間はそう確保できるものではない。

温泉に入りながら、将来のことを考えたり、これまで手つかずのままだった人生の課題について熟考したりするのもありだろう。

筆者は温泉地でひとり、思考する時間に充てることを「ひとり合宿」と呼んでいる。「日常を離れてひとりで思考を深めたり、日常や人生を見つめ直したりすること」と定義している。

「毎日忙しくて、日々の生活や自らの人生を振り返る時間なんてない」という人には、非日常の空間である温泉宿にこもって強制的に思考する時間をつくってみることをおすすめする。

実は、筆者も人生の節目節目で、温泉地でひとり合宿をしてきた。30歳のときに会社から独立し、趣味である温泉を究めることを決めた。日本全国3016湯をめぐる旅を思い立ったのである。この決断をしたときのひとり合宿の舞台は、群馬県にある沢渡温泉だった。

集中できる鄙び温泉宿の湯船

沢渡温泉は、強酸性の草津温泉で荒れた肌を整える効果があるとされ、「草津温泉の仕上げ湯」として知られる。その美肌効果から「一浴玉の肌」とも称される名湯だ。数軒の宿と共同浴場が並ぶ小さな温泉地で、遊興的な施設はゼロ。ひとり合宿には最適の温泉地といえる。

夏真っ盛りの8月、有休をとった筆者は3泊4日の予定で沢渡温泉の「まるほん旅館」に投宿した。こちらの混浴風呂がすばらしい。床、壁、天井すべて檜づくりの湯小屋には小ぶりの湯船が2つ。

湯船の底にはモザイクタイルが敷かれ、どこか昭和を感じさせるレトロな雰囲気が漂っている。外ではセミがしきりに鳴き、源泉かけ流しの透明湯が窓から差し込む光によってキラキラ輝きを放っていたのを今もよく覚えている。何度入っても飽きない、居心地のいい空間だった。

ただひたすら温泉に入って決断したこと

4日間の滞在で、何度、温泉に入っただろうか。朝食前、朝食後、昼下がり、夕食前、就寝前・・・最低でも1日に5回は入っていたはず。温泉に入る以外は、近くを流れる沢渡川の河畔にある公園で、ボーッと川の流れを見つめたり、散歩をしたりした。部屋に戻れば、本を読んだり、昼寝をしたり。ひとりで考える時間はたくさんあった。

ちょうどこのとき「このまま今の会社で仕事を続けるか」「転職するか、独立するか」などと悩んでいた時期だった。そして、温泉に入りながら「独立して好きな温泉を究める道を歩んでみよう」と思い至った。温泉でのひとり合宿の結果、筆者の人生は大きく舵を切ったのである。

それから十数年後、2021年に筆者は東京から札幌に移住した。自分にとっても家族にとっても大きな決断となったが、これもまた温泉地でのひとり合宿の結果である。

札幌移住を決断した「ひとり合宿」

このときは、宮城県の青根温泉をひとりで訪ねた。伊達藩ゆかりの歴史ある温泉地。少し熱めのやさしい湯に入りながら、これからの人生を家族とともにどう過ごそうか、ひたすら思考を重ねた。その結果、札幌への移住がベストだという確信がもてたのである。

もし仕事のこと、人生のこと、将来のことなどゆっくり考える時間が必要なら、「自分時間」をもてるソロ温泉は絶好の機会となる。思考を深めたいときに、隣りに連れがいたら、おそらく思考は止まってしまうだろう。

人生、あるいは仕事についてゆっくり考えたいときは、温泉地で自分時間を確保し、「ひとり合宿」を実践してみてほしい。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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