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「温泉宿に滞在しながら仕事もできる……」温泉ライターが東京から札幌に移住した理由

高橋一喜温泉ライター/編集者

筆者は2021年1月、雪が降り積もる札幌に家族とともに移り住んだ。移住してから3年が経とうとしているが、東京に住んでいた頃よりも、充実した日々を送っている。

縁もゆかりもない札幌への移住を決断したのは、「子どもの教育環境のため」「北海道は日本一温泉地が多いから」という理由もあるが、もうひとつ大事な理由がある。

それは、リモートで仕事ができる環境になったことだ。

「東京に住み続ける必要があるのか?」という疑問

編集・執筆業を生業とする筆者はフリーランスの立場で活動している。納期などは決まっているが、いつ、どこで、どのように働くかは基本的に自由。当然、打ち合わせや取材など対面で人に会うこともあるが、コロナ禍前でさえ、仕事の7割は執筆・編集作業で、だいたいはPC上で完結していた。

したがって、作業場所は自宅やコワーキングスペース、カフェなどさまざま。ときには温泉宿で仕事をするときもあった。

もともと、だいぶ自由度が高い仕事のスタイルだったわけだが、コロナ禍によるリモートワークの拡大 によって、さらにその自由度が加速する結果となった。

打ち合わせや取材が軒並みリモートになったため、人と対面で仕事をする機会がさらに減り、ほぼ毎日ひとりで作業をする状況になった。それでも、仕事の内容はほぼ同じ。特に支障が出ることはなかった。すると、こんな疑問が心の中に芽生え始めた。

「これなら東京の都心に住む必要はないのではないか」

「高い家賃を払って、わざわざ人の多い場所に住む必要性はあるのか」 

たしかに、若い頃は東京に住むことは刺激もあって楽しかった。しかし、年齢を重ねたからか、近年は人の多さに疲弊する機会が多くなっていた。そして、「東京を離れて、もっと自然が豊かで、ゆっくり暮らせる場所に移住したい」という欲望がむくむくとわいてきたのである。

一般的には、いざ移住しようとすると、仕事が壁になる。新たな土地で食べていく手段を見つけなければならないからだ。しかし、筆者の場合すでにどこで仕事をしてもいい環境になっていた。もちろん、対面が必要なときは東京に行く必要はあるけれど、リモートワークによってその頻度も大きく減ることが予想された。

幸運なことに、「仕事はそのままでも移住できる」という状況になっていたのだ。

コロナが移住を後押し

コロナがなかなか収束しないことも、決断を後押しすることになった。移住を決断した2020年の秋は、感染状況も一時的に落ち着いてはいたが、ワクチン接種の目途はたたず、簡単には収束しないことはあきらかだった。少なくとも、あと1~2年はコロナに振り回されることが予想された。

仮に予想に反してコロナが短期で収束したとしても、リモートワークが後戻りすることは考えにくい、という読みもあった。

リモートワークでできる仕事とできない仕事はあるものの、意外なほど多くのことをリモートワークで済ませられることに、多くのビジネスパーソンが気づいた。だから、仮にコロナが収束しても、対面の機会は復活するものの、リモートワークが廃れることはない。人は便利なものを手放そうとはしないだろう。そう考えたのだ(実際、リモートワークはすっかり定着した)。

また、東京はコロナと共存するには人口が多すぎる、と感じていたこともある。コロナ禍でも満員電車は相変わらずだし、どこに行っても人があふれている。

どれだけコロナに感染しないように気をつけても、部屋から出れば完全には防げない。当時は生活するだけでナーバスになっていた。

娘も幼稚園に入って、集団生活をすることになれば、コロナ感染のリスクが一気に高まる。制限されることも多い。

もちろん、どこに住んでもコロナからは逃げられないが、できることなら感染のリスクがもう少し低い場所で生活させてあげたい、というのも素直な気持ちだった。

もともと仕事の自由度が高いということも移住の決め手となったが、「コロナ」がそれを後押ししたともいえる。

温泉宿で執筆&打ち合わせ

札幌に移住してから「いつでも、どこでも仕事ができる」というスタイルに拍車がかかっている。

じつはこの原稿を書いているのも、ある温泉宿のワークスペースである。昨日はリモートワークで打ち合わせもこなした。仕事で一段落したり、行き詰まったりしたら、すぐに温泉で気分転換もできる。

温泉地に滞在して仕事をする、いわゆる「温泉ワーケーション」も、すっかり筆者の中では当たり前の働き方となっているのだ。

筆者の場合、仕事が少々特殊なので、このようなスタイルが成立している面もあるが、これからの時代、仕事によってはますます住む場所にとらわれないことも可能になっていくはずだ。すでにそういう状態になっている人もいるだろう。

今の場所に住み続けることがベストなのか? 一度、立ち止まって考えてみるのも楽しいかもしれない。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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