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【ソロ温泉を楽しむ秘訣】温泉ライターが「大きな露天」より「小さな内湯」を好む意外な理由

高橋一喜温泉ライター/編集者

温泉の醍醐味といえば、自宅の風呂よりも広々とした湯船で思う存分に湯浴みを楽しむことだろう。開放感のある露天風呂などは非日常体験を味わえる。

しかし、3800を超える温泉につかってきた温泉ライターである筆者の経験からいえば、「狭くて小さな湯船にこそ名湯あり」だ。小さな湯船をひとりで独占する「ソロ湯船」が最高である。

「小さな湯船」が最高である2つの理由

理由は2つ。

ひとつは、湯船が大きいと定位置が決まらず、落ち着かないから。

これは個人的な好みとなるが、大きな湯船は開放感がある一方で、広すぎてかえって心が不安定になり、ソワソワしてしまうのである。だだっ広い湯船だと、自分にフィットする場所を探さなければならない。その点、小さな湯船はそうした気苦労がない。

温泉は鮮度が命

もうひとつは、小さい湯船のほうが新鮮な湯を堪能できるから。

これは、温泉を使い回さわない「源泉かけ流し」の湯船が条件となる。当たり前だが、湯船の容積が小さいほうが、どんどん湯があふれ出て入れ換わる。湯船が大きければ大きいほど、湯が滞留する時間が長くなる。

そもそも湯船の中の温泉は、均等に入れ替わるとは限らない。湯船の構造にもよるが、どうしても古い湯は湯船の底のほうに滞留し、水面の新しい湯が先に湯船からあふれていく。

入り組んだ形の湯船ほど、その傾向が強くなる。隅っこの落ち着く場所ほど「ここの湯はずっと流れずにとどまっているのではないか」と心がざわざわしてくる。

温泉も食材と一緒で鮮度が命。酸素に触れることによって酸化し、本来の成分の濃度が薄まってしまう。なにより不特定多数の人が入浴する湯船の湯が入れ替わらない、と考えるだけで居心地が悪い。

湯船の容積が大きければ、温泉が入れ換わる時間は長くなるので鮮度は落ちる。一方で、湯船は小さいほど湯が新鮮で、気持ちがいい。湯船からあふれ出ていく湯の量が多いほど、贅沢で幸せな気分になれる。

だから、よく温泉施設などで見られる、ひとり用の壺湯(釜風呂とも言う)は最高である。かけ流しという条件付きとなるが、体を沈めたときに「ザバーッ」と湯があふれ落ちる瞬間は快感ですらある。

「源泉供給量」がポイント

ひとり用の湯船でなくても、源泉の供給量が多ければ、新鮮な湯を堪能することができる。

山形県鶴岡市に湧く湯田川温泉にも、幸福感を得られる小さな湯船がある。1300年の歴史を誇る湯田川温泉は、毎分約1000リットルという豊富な湯量が自慢だ。

温泉街の中心に位置する共同浴場「正面の湯」の湯船は、数人で一杯になるサイズで、浴室もこぢんまりとしている。だが、湯口から投入される湯量がすごい。透明な湯(硫酸塩泉)がじゃばじゃばと注がれ、湯船から大量にあふれだす。もったないほどに、贅沢な湯の使い方である。

それもそのはず、浴槽面積に対する源泉供給量(4時間あたり)が全国でもトップクラスなのだ。正面の湯は、山形県内の他のかけ流し温泉の約4倍、標準的な湯船の8倍もの源泉供給量である。たちまち湯船の中の源泉が新しいものに入れ替わる。気持ちよくないはずがない。

「ソロ湯船」を満喫するには、同行者に気を遣わなくてすむソロ温泉が最適である。「小さいほどいい湯船」を合言葉に、ソロ温泉に出かけてみてはどうだろうか。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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