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結局「いい温泉」の基準は何? 「理想の温泉は足元から湧いている」

高橋一喜温泉ライター/編集者

「いい温泉ってどんな温泉ですか?」と聞かれることがよくある。

何をもって「いい温泉」とするか、その基準は人それぞれだ。浴室の清潔感を重視する人もいれば、デザインや雰囲気を重視する人もいる。宿で提供されるサービスや設備、料理を重視する人もいる。

温泉ライターである筆者の場合、譲れない条件がひとつある。

それは「温泉の鮮度」である。

源泉の質を決める「鮮度」

源泉の質を決める要因のひとつは、湯が新鮮で、その個性がいきいきと感じられるか、にある。

生まれたての鮮度の高い湯は、入浴したときの居心地のよさが違う。やさしい泉質の湯は肌にすっとなじむ。成分の濃い湯は、肌を直接刺激し、個性を訴えかけてくる。

最高の温泉は「足元」から湧いている

「温泉の鮮度」という観点から最も理想的とされる形は、「足元湧出泉」である。

温泉は空気に触れることで酸化が進み、劣化していく。温泉情緒をかきたてる濁り湯も、もともとは透明の状態で湧出したものが、大気などと化学反応を起こして変色した結果である。つまり、ビールと同じように温泉も時間が経てば経つほど、鮮度は落ちていくのである。

足元湧出泉は、別名「足元ぷくぷく温泉」とも言われるが、その名の通り、湯船の底からぷくぷく湧き出す湯である。

たいていの温泉施設では、湧出した場所から湯船まで源泉を引いてくるのが通常であるが、なかには、源泉が湧き出す岩のすきまや川底の上に湯船を設えた温泉が存在する。湧きたての湯が酸素に触れることなく、直接湯船に注がれれば劣化することはない。

足元湧出泉は、一般的な源泉かけ流しの湯船と比べても別格の気持ちよさである。たえず湧き出るピュアな湯に全身が包まれると、思わず笑顔がこぼれてしまう。百聞は一「浴」に如かず。温泉旅の目的地として、足元湧出泉をぜひ候補に入れてほしい。

「足元湧出泉は全国に30カ所くらいしかない」という記述をよく見かけるが、私の知る限り100弱存在する。それでも日本には2万以上の温泉施設があるとされるから、ほんのひと握りの貴重な湯船である。

壁湯温泉の足元湧出泉
壁湯温泉の足元湧出泉

全国でも珍しい足元湧出泉

有名なところでは、以下の温泉が足元湧出泉に該当する。一部であるが、紹介するので、ぜひ足元から湧く湯の気持ちよさを体験してみてほしい。

  1. 丸駒温泉(北海道)
  2. 酸ヶ湯温泉(青森県)
  3. 蔦温泉(青森県)
  4. 鉛温泉・藤三旅館(岩手県)
  5. 乳頭温泉・鶴の湯(秋田県)
  6. 蔵王温泉・川原湯共同浴場(山形県)
  7. 木賊温泉・岩風呂(福島県)
  8. 法師温泉(群馬県)
  9. 湯の峰温泉・つぼ湯(和歌山県)
  10. 湯原温泉・砂湯(岡山県)
  11. 岩井温泉・岩井屋(鳥取県)
  12. 壁湯温泉・福元屋(大分県)
  13. 尾之間温泉(鹿児島県)
温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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