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ひとり旅に慣れた人は「部屋数が少ない温泉宿」を選ぶ理由とは?

高橋一喜温泉ライター/編集者

ひとりでの温泉旅(ソロ温泉)は、忙しない日常から解き放たれ、非日常の時間を味わえるのが魅力だ。何かに追い立てられることもなく、温泉や自分とじっくり向き合うことで、心身ともに整っていく。

では、そんなひとりの時間を満喫するために、どんな温泉地の、どんな宿を選べばよいだろうか。特にひとり旅の初心者は迷うかもしれない。そこで、今回はソロ温泉に適した温泉地や宿について考えてみたい。

人気の温泉地よりも静かな温泉地

一人の時間に集中したいのであれば、遊興施設がなく、人が少ない温泉地を選ぶべきである。

たとえば、日本を代表する温泉地である箱根温泉や熱海温泉は、首都圏からのアクセスがよく、観光スポットも充実している人気温泉地である。温泉に興味があるなら、ぜひ一度は訪ねてもらいたい温泉地である。

しかし、観光地としてトップレベルのポテンシャルを有するがゆえに、観光客も多い。最近ではインバウンドの復活で、温泉街を歩けば多くの外国人客を見かける。平日でもあれほど人でにぎわう温泉地はめずらしい。

そうした環境を考えると、ひとりの時間を愉しむにはあまり向いていない。自分や温泉と向き合うには少々にぎやかすぎる。また、ひとり旅の初心者だと、大勢の中にひとりでいることに気後れするかもしれない。

だから、ソロ温泉に出かけるなら、箱根温泉や熱海温泉よりも静かな温泉地がふさわしい。箱根や熱海よりも、近くの伊東温泉や湯河原温泉のほうが向いているし、さらに伊豆半島の南に足を延ばせば、もっと落ち着いた温泉地もある。

「8部屋」くらいがベスト

ひとりになる時間を大事にするなら、人が少なく、鄙びた温泉地を選ぶべきである。そういう意味では、滞在する宿も小さいほうがいい。

100部屋もある大きな宿に泊まると、館内で必ず人と遭遇することになる。キャパシティーが大きい分、温泉も大浴場になるため、ひとりで湯船を独占するのはむずかしい。湯船が大きくなれば、循環ろ過をせざるをえず、肝心の湯の質も落ちてしまう。もちろん、部屋にこもればひとりになれるわけだが、それでははるばる温泉地に来た意味が薄れてしまう。

食事についても、大きなや宿はビュッフェや大広間で提供されることが多く、ひとりだと肩身が狭い思いをする。ぼっち飯に孤独感を覚えるタイプの人にとっては、苦痛でしかないだろう。

だから、大資本の宿ではなく、家族中心で経営しているような小規模な宿がいい。筆者の感覚では、8部屋以下の小さな宿がおすすめである。多くても15部屋以下の宿を選びたい。

キャパシティーが小さければ当然、館内で他の客と顔を合わせることも少ないし、かなりの可能性で湯船を独占できる。大きな湯船にひとりでつかる「独泉」は、ソロ温泉の醍醐味である。

小さな宿であれば、お世話をしてくれる仲居さんもいない。誰かといっしょに贅沢をする旅であれば仲居さんの存在も意味はあるが、ソロ温泉では必要な要素とはいえない。

何かと部屋に入ってこられるとリラックスできないし、こちらも「何か話しかけないと」などと余計な気を遣ってしまう。対人関係のストレスをなくすのがソロ温泉のねらいのひとつであるから、本末転倒だろう。

家族経営の規模の宿だと、いい具合に放っておいてもらえる。宿の立場になれば手が回らないということに尽きるが、ソロ温泉にはちょうどいい塩梅になることが多い。反対に、困ったことがあれば親身になって対応してもらえるのも家族経営の宿のいいところである。

以前、素泊まりで宿泊したときに、あてにしていた外の食堂が休業していて途方に暮れたことがあった。宿の人に相談すると、おすすめのお店を教えてくれたうえに送迎までしてくれた。小さい宿の主人や女将は、見知らぬ土地を旅する人にとって心強い味方になってくれることが多いのである。

せっかく非日常の空間をひとりで楽しむ旅なのだから、静かな温泉地の、静かな宿でゆっくり時間を過ごしてはいかがだろうか。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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