Yahoo!ニュース

4人に1人の若者が本気で自殺を考える国。「フォローを外された」細かなストレスの積み重ねで起こる悲劇

高島太士FIRST APARTMET代表/ドキュメンタリスト

日本の若者の死因で最も多いのが、自殺。

< 自殺という社会課題 >
2018年度の厚生労働省の自殺対策白書によると、1年間で2万840人、1日平均57人が自ら命を絶っている。さらに、日本財団の調査では、若者の4人に1人は、本気で自殺を考えたことがあるという。しかし、この事実はあまり知られていない。自殺を考える人は、大きなトラブルが原因で精神的に追い込まれていると思われることが多い。だがこの数字は、愛情に溢れた生活を送っている人たちが、日常の中で自殺を考える状態に置かれていることを意味している。

自殺防止対策に取り組むNPO団体などに取材すると、自らの命を絶つ人に共通することは、「同時に複数の問題を抱えてしまっている状態」であることだ。そしてその問題は、仕事のことであったり恋愛のことであったり、日常生活を通じて誰にでも起こりうる他人から見れば些細ともとれるような出来事の積み重ねだという。つまり、死にたいと思う気持ちは、私たちからそう遠くない感情とも言える。

この国が抱えている自殺という問題については、ニュースなどで見聞きしても、どういう意見を持つべきかわからない人が多いのではないか。問題が深すぎて、日常会話から遠ざけたくなるのが一般的な心情だ。

 私は「 生きづらさ 」を抱える20代前半の男女にインタビューを行い、ストレスに対する自覚や過去の実体験など、それぞれの会話から見えてくる課題を引き出すことにした。

< ストレス対策への知識 >
ストレスの度合いを測る世界的に有名な測定法がある。それは、米国の社会学者ホームズと内科医レイによって1967年に作られた『ホームズとレイのストレス度表(社会的再適応評価尺度Social Readjustment Rating Scale:S.R.R.S.)』と呼ばれるものだ。この測定法のひとつの特徴は、一般的に祝い事とされるような愛情に溢れたことであっても、その出来事の大きさによっては、本人が気づかぬうちにストレスを溜め込む可能性があるということ。つまり、アンハッピーなことだけがストレスの原因ではないということだ。
今回のインタビューを通して20代の若者にこの事実を伝えたところ、参加した全員がグラスに自分のストレスの分だけ水を注ぎ足した。夢や希望を追いかけ、大切なパートナーのためを思い、日々の生活を送っているような人でも、これまで自分では認識していなかったストレスにふと気づいた様子だった。

< この映像を通して伝えたいこと >
生きづらさを感じているのは、自分だけではないということ。そして、自分の心と向き合い、溜まっているストレスを自覚したうえで、勇気を持って誰かに話してほしい。もし、自分の中にあるストレスとの向き合い方がうまくいかなければ、些細な悩みを抱えたまま3つ、4つ、5つと積み重なり「自殺」という判断に繋がる危険性があるからだ。この映像では、ストレスを可視化する方法として「グラスに水を注ぐ」アイデアを取り入れた。自分のストレスを「水」に見立て、溜め込んでいると感じるストレスをグラスに注ぐ。そしてグラスに溜まったストレス、つまり自分の中に溜めこんでいたエピソードを言葉に紡ぐことができたら、その人にグラスを空にしてもらう。こうした誰にでも出来そうなコミュニケーションアイデアを、この映像を通じて1人でも多くの方に届けたい。

====
本作品は【UPDATE DOCUMENTARY PROJECT】で制作された作品です。
【UPDATE DOCUMENTARY PROJECT】の他作品は下記URLより、ご覧いただけます。
http://original.yahoo.co.jp/collection/movie/feature/updatedocumentary/
====

受賞歴

Canne Lions、One Show、New York Festival、AdFest、Spikes Asia、AD STARS、PR AWARD ASIA、ACC 等

クレジット

ドキュメンタリスト
高島 太士

協力
emiri
大内 真佑花
大手 泰寛
崎間 りえ
鈴田 修也
田中 美奈子
中村 幸志朗
原 貴士
東山 純一
丸山 湧輝
宮川 朋子
山田 峻佑
山西 英二
渡邉 怜也

FIRST APARTMET代表/ドキュメンタリスト

1979年 大阪生まれ。人の一度しかない瞬間や感情を引きだし、映像に切りとる。心を動かす強さと透明感のあるメッセージが特徴。ソーシャルグッドに特化した演出で、これまで手がけた作品は国内はもとより海外広告祭での受賞も多数。代表作はP&Gパンパースの「ママも1歳、おめでとう。」など。最近の取り組みは、広告映像で培った表現手法やアイデアを、社会課題解決の分野に応用し、人の心に届く映像をひとつでも多く生み出すこと。ドキュメンタリストの育成にも力を注いでいる。

高島太士の最近の記事