専門マスター

「全身大トロ」な深海魚を釣りにいったら体力を使い果たして動けなくなった

茸本朗

野食ハンター

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※前編→「まるでトロみたいに美味しいけど、食べすぎると(社会的に)死ぬ魚」を食べた

ワックス魚ハントに行ってきた

そういうわけで、ぼくは先日、およそ9年ぶりとなる「全身大トロ魚」ことバラムツ・アブラソコムツのハントに行ってきました。これらの魚は種類こそ違いますが似た習性をしており、同時に狙うことができます。行先は前回と同じ静岡県清水で、ここから船に乗って駿河湾の沖合に向かいます。

深海魚らしく目の光るバラムツ
深海魚らしく目の光るバラムツ

前編にて書いた通り、これらの魚は普段は水深1,000m以下の場所に棲む深海魚なのですが、夜になると水深100mほどまで浮上します。これは、同様に昼間は深いところにいて夜間はエサを追って浮上する「ハダカイワシ」などの深海性の小魚を食べるために行っているものと考えられています。

この、浮上してきた個体を狙って釣らせてくれる船宿が、清水にはいくつかあります。

バラムツやアブラソコムツは水深1000mある場所なら広く分布しており、首都圏近郊では相模湾にも多く棲息しています。ただ、そのような深いところから釣り上げるのは機械(電動リール)を使わないと不可能です。

電動リールで釣る代表的な深海魚・アカムツ
電動リールで釣る代表的な深海魚・アカムツ

もちろん電動リールを使う「深海釣り」も楽しいのですが、それは釣れる魚にキンメダイやアカムツのような美味なものが多いから。バラムツやアブラソコムツといった一般的には食用にされないいわゆる「ゲームフィッシュ」を、わざわざ電動リールで釣り上げようという人はほとんどいません。

そのため、必然的にこれらの魚を狙う釣りは「深海があり、かつ夜釣りが許されている」駿河湾で行われることが多くなっているのです。

船着き場に到着し、船長に挨拶して船に乗り込みます。

ポイントは清水港から20分ほど走った場所で、おそらく富士川河口の真沖くらいになるでしょうか。岸からさほど離れていないように見えますが、水深は優に800mはあります。

駿河湾は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートがぶつかり沈み込むことで形成された「駿河トラフ」という海底の溝が走っています。そのためさほど面積の大きい湾でないにも関わらず、最大水深は2500mを超え、日本で一番深い湾となっています。オオグソクムシなどの深海生物漁が盛んにおこなわれているので、ご存じの方も多いかもしれません。この「岸から急に深くなる」という地形が、バラムツたちが浅場に浮上しやすい要因の一つともいえるでしょう。


ポイントに着くまでにハント道具を準備します。

使うのは船釣りで使うちょっと硬めの竿、そしてライギョやナマズを釣るのに使う武骨なデカいリール。釣り糸はPEの3号、リーダーは100lbを使います。釣りをやらない人にはちんぷんかんぷんだろうと思うので深く解説はしませんが、簡単に言うと「これはもう糸じゃなくてスパゲッティじゃん」って感じの糸です。成人女性がぶら下がっても切れません。

使う糸はめちゃめちゃ太い
使う糸はめちゃめちゃ太い

バラムツ・アブラソコムツは1mをはるかに超える大魚であるうえ、きれいな流線形のシルエットやマグロそっくりな尾びれが表す通り非常に遊泳力の高い魚です。ゲームフィッシュとしての人気は根強く、海外へと遠征するような大物釣り師がトレーニングのために釣るようなこともあるそう。そんな魚を釣るためには、それ相応の道具が必要になるのですね。

その一方で釣り方は非常にシンプル。魚の形をした錘(メタルジグといいます)に、エサとしてサバの半身を丸ごとつけて、ポイントまで落としていきます。船釣り用の糸は1mごとにマーキングがしてあるので、その目印を「いーち、にーい、さーん」と数えながら、糸が何m出たかをチェックします。

船長から魚のいる水深の指示が出るのですが「大体120から220mくらいのところにいると思うから、そのへんでやってみてー」と非常にあいまいなもの。彼らワックス魚が鰾(うきぶくろ)を持たないために、釣り人の最大の武器である「魚群探知機」にその存在が映らないので、船長と言えども的確な指示が出せないのです。続けて「エサがあるとこに群れがやってくるから、がんばってー」というアドバイスも。

この釣りには技術の介入できる要素が少ないため、釣れるか釣れないかは腕というよりは運次第です。とはいえわざわざ駿河湾まで行き、さらに新型コロナ症候群の感染拡大を防ぐために、乗り合いではなく船をチャーターしています。これで釣れなかったら泣くぞ。。

魚が掛かった! けど、デカすぎ……

釣り始めて30分。船の逆サイドにいた友人が1本目をかけたものの、残念ながら糸切れでバラしてしまいました。こりゃあ苦戦もあるかな……と思っていた矢先、突然ぼくの竿の先がグッと抑え込まれました。波や潮の動きによるものかとも思いましたが、試しに竿を持ち上げてみると「ググン」とさらに引き込まれます。ヤツか…!?

すかさず「アタった!」と叫び、竿を握りしめ、手前方向に向かってグイっと引き寄せます。これは釣りにおける「アワセ」という行為で、これにより「ただエサを咥えた状態」の魚の口に釣り針を刺すことができます。

しかしその瞬間に船長から「あと4回!」という掛け声が飛んできました。バラムツやアブラソコムツといった魚たちは口の周りの骨が硬く、また釣り針が非常に太いのもあり軽く合わせただけだと口を貫通してくれないので、巻いているうちに魚がバレて(離れて)しまうのです。そのため何度も繰り返しアワセて、針掛かりを確実なものとします。

もはや凶器と呼べるサイズのハリ
もはや凶器と呼べるサイズのハリ

すでに魚が走り出していましたが、2回、3回、4回と必死で竿を立て、追いアワセをくれてやります。

5回目のアワセを入れたとき、魚が走るのをやめて、まるで海中の岩であるかのように止まりました。背後から船長の「イヨッシ! 掛かった!!!」と威勢の良い声が浴びせられます。

こうなれば後は魚との綱引き。彼らのパワーもすごいですが、こちらの道具も頑強です。糸切れなどは考えず、ひたすら糸を巻けばよい。

……良い、のですが、しかし巻けません。えっなにこれマジで糸巻けないんだけど。経験したことのない引きです。まるで糸の先に軽自動車でもついているかのよう。

大物が掛かった時はまず竿を立てながらグイっと引っ張って、その竿を倒しながら持ち上げた分の長さの糸を巻き取っていく「ポンピング」という技術が用いられるのですが、そもそも竿が立てられません。リールには、糸が切れそうなほどの張力がかかったときに自動的に糸を排出する「ドラグ」という機能がついているのですが、これがウィーンとけたたましい音を立て続けます。

3m巻いたら5m引きずり出され、5m巻いたら10m引きずり出されの繰り返し。リールには念のため1000mほどの糸が巻いてありますが、これがすべて出てしまったらそこでゲームオーバーです。

つま先から手の先まで、すべての筋肉を動員します。足の底で船べりを突っ張りながら両腕で竿を支え、体幹で魚をいなしながら背筋で持ち上げます。デッドリフトをしながらボートを漕ぐかのようなバッチバチの無酸素運動。10分もすると当然ながら限界を迎え、竿が上がらなくなってきます。

魚は相変わらず好き勝手走り回り、船べりに現れるような気配はありません。鰾を持たない彼らは水圧の変化に強く、浅いところでも全力で泳ぎ回ることができるのです。

「(竿が)立たない立たない! もうこれ以上立たないって!!」
「(糸が)アァーッ出る出る出る! 出しすぎ! 止まんない!」

……いったいぼくは何をしているのだろうか(釣りです)。

船長から常に「これデカいんじゃない?」「だいぶデカいよ!」と声を掛けられ続け、なんだかボディービルダーのような気分になってきました。

20分ほど経つとさすがのワックス魚も多少ヘタってきたようで、ポンピングをしなくてもリールの力だけで巻けるようになってきました。しかし、実は本番はここから。

糸が残り20mほどになったところで、いきなり魚が全力で突進し始めました。これまでの引きはリミッターがかかっていたのだということがわからされます。実は彼らは光を嫌う習性があり、ぼくらの乗る漁船の明かりが目に入ったことでパニックになって逃げだしたのです。

ドラグが鳴り響き、それまでの頑張りが無になりそうな勢いで糸が出ていきます。すでに全身の筋肉は限界を超え、足先などは感覚すらなくなっていましたが、最後の力を振り絞ってこちらも巻いていきます。糸を出されるたびに「いま切れてくれたら楽になれるのに」という思いが脳裏によぎりますが、自分の釣りを中止して見守ってくれる友人たち(魚が暴れているので釣りにならない)のためにもと気合を入れなおします。

釣れた! でも、ヘトヘト……

針掛かりしてから30分を優に過ぎたころ、ようやく船べりにその姿が浮かび上がってきました。船長が「やっぱりデカいよ!」と興奮します。

ふつう、大きい魚が釣れた時は糸が切れないようにタモ網ですくい上げますが、それ以上に大きな魚だとタモに入りません。そのため、そのような魚は「ギャフ」と呼ばれるフック船長のフックみたいな金具でひっかけて持ち上げます。

そこからまた、糸の結び目が竿に引っかかったり、一気に20mくらい糸を出されて絶望したりなどひと悶着ありましたが、なんとか友人二人がギャフ入れに成功。無事、キャッチすることに成功したのです。

デカーい!! 説明不要!!
デカーい!! 説明不要!!

釣れたのはバラムツ。161cm、30kgの化け物級です。調べてみると日本記録は34kg台だそうなので、これはかなりのサイズだということがわかります。持ち上げてカッコよくポーズを取りたかったのですが、無理……マジでひとかけらの握力も残っていません。

怪魚と死闘
怪魚と死闘

友人と船長の助けを借りて膝に乗せ、写真撮影したところでそのまま後ろに倒れこみました。達成感で胸がいっぱいになります…

(……あーこれあれだ、バトル漫画でよくあるやつだ……)

(ライバルと力の限り殴り合った後、二人で寝っ転がって夜空を眺めるやつだ……ありがとうバラムツ……ってアレ

オロロロロロロロロ
気づいたらぼくは船首から海に向かって頭を突き出し、全力で嘔吐していました。

人間、力の限りバトルすると、そのあと訪れるのは爽快感ではなく猛烈な吐き気なんですね。初めて知ったわ。あれか、ベッカムがワールドカップでピッチにゲロ吐いてたのと同じようなやつか。

ご存じの通り、嘔吐するのって結構筋肉使うんですよね。もう吐くたびに腹筋がプチプチ切れるのを感じます。本当に死にそう。とことんまで自分を追い込む遊びだなこの釣りは……
まあ、相手は文字通り命を懸けてくれたんだから、こちらだけが余裕というわけにもいかないでしょう。ありがとう、バラムツ。

なお、バトルの様子は動画でも記録しました。よかったらこちらもご参照ください。

視聴者の皆様からは「イヤホン推奨」「PCで見てたら妻が『何見てんの?』と怪訝そうに声をかけてきた」などといったコメントをいただいております。

ゲームフィッシャーの皆さんは、バラムツやアブラソコムツを釣ったら、写真を撮影してからリリースします。水圧の変化に強いので、リリースしたら深海まで帰っていくのですね。

でもぼくはそもそもキャッチ&リリースの釣りはしない主義です。今回だって食べるために釣りに来たのですから、もちろん持ち帰り、隅から隅まで美味しく食べてやろうという所存です。

果たして数日後、このバラムツはとあるところに持ち込まれ、美味しく調理してもらったのですが、その話はまた次回に。