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強迫性障害の治し方

竹内成彦心理カウンセラー(公認心理師)

こんにちは。
精神医学と性格心理学に詳しい
心理カウンセラー(公認心理師)の竹内成彦です。


今日は、強迫性障害についてお話したいと思います。
強迫性障害とは、神経症=ノイローゼである不安障害の一種で、自分でも「馬鹿馬鹿しいことだ」とわかっていても、そのことが頭から離れなかったり、わかっていながら何度も同じ確認をくりかえしてしまうという心の病です。この強迫性障害という心の病を発症させると、日常生活に支障が生じてしまうことが多いです。

意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考えを強迫観念
ある行為をしないでいられない、というのを強迫行為といいます。

たとえば、不潔に思えて過剰に手を洗うという手洗い症候群や、戸締りなど、何度も確認しないと気が済まないという症状も、度が過ぎると強迫性障害と言われます。

よく聞かれる質問で、「どこまでが健全で、どこからが病気か?」というのがありますが、グレーゾーンは大きく、その線引きは難しいです。概ね、15分以上も手を洗い続けるようになったり、15分以上も戸締りの確認に時間がかかるようになったら、強迫性障害と言えるのではないでしょうか。

強迫性障害という心の病は、誰もが、時には、たくさん手を洗ったり、何度も戸締り確認することあがあるので、なかなか心の病であるとは思われないのですが、強迫性障害は、治療によって改善する病気です。

「しないではいられない」「考えずにはいられない」ってことで、苦しくなり過ぎたり、生活に不便を感じるときには、「専門家に相談してみては如何でしょうか?」と、私は言いたいです。
専門家とは、精神科医・心療内科医、精神医学に詳しい心理カウンセラーのことです。スピリチュアルカウンセラーや人生相談の先生のことではありませんので、どうぞお間違えのないようにお願いします。

国内では、どのくらいの割合で、強迫性障害の方がいるのかは、まだハッキリしていません。欧米では、精神科外来に通う患者さんのうちの約9%が強迫性障害であるというデータがありますが、日本の精神科外来では、多くても4%前後、20人に1人弱、という報告がなされているに過ぎません。

ただしこれは、強迫性障害になっている人が少ないという意味ではなく、障害を性格の問題だととらえて受診せずにいる人や、精神科を受診することにためらいがあって、日常の不便を我慢している人が多いからではないか…と考えられています。

ここで代表的な強迫性障害を紹介します。

不潔恐怖
これは、汚れや細菌汚染の恐怖から、過剰に手洗ったり、入浴、洗濯をくりかえしたり、また、ドアノブや手すりや電車のつり革など、自分が不潔と感じるものを触れない症状です。

加害恐怖
これは、誰かに危害を加えたかもしれない…という不安が頭から離れず、新聞やテレビに事件・事故として出ていないかを確認したり、警察や周囲の人に聞いて回ったりする症状です。

確認行為
戸締まり、ガス栓、電気器具のスイッチ等を、何度も繰り返し確認する症状です。

儀式行為
自分の決めた手順でものごとを行なわないと、「恐ろしいことが起きるのではないか?」という不安から、どんなときも同じ方法で仕事や家事をしなくてはならないという症状です。

数字や字へのこだわり
不吉な数字・幸運な数字、不吉な文字や幸運な文字に、縁起をかつぐ等というレベルを超えて、異様にこだわる症状です。

物の配置へのこだわり
物の配置に一定のこだわりがあり、必ずそうなっていないと不安になる、という症状です。

強迫性障害は、誰もが生活のなかで、普通にすること、戸締まりの確認や手洗いなど、の延長線上にあります。よって、「自分は少し神経質なだけなのか?」「もしかしたらちょっと行き過ぎなのか?」という判断は、なかなか難しいところです。

ですから、私からは、「日常生活や社会生活に困難が生じるようになったら、また、家族や周囲の人を困らせるようになったら、専門家に相談することを考えて下さい」と申し上げておきたいと思います。

強迫性障害になる原因は、ハッキリしていません。
けれど、対人関係や仕事上のストレス、転職や引っ越し、結婚や妊娠や出産など、人生における大きな出来事が、発症のきっかけになる傾向は強いです。あと、規則を守るとか、手順や形式にこだわるとか、融通が利かない等といった、本人の生真面目な性格も、大いに関係があると言えます。よって、環境の変化と本人の性格による心理的な要因が、強迫性障害の発症に至ると考えられます。

強迫性障害を治すためには、患者本人の「治そう!」という意欲が大切です。
本人には、馬鹿馬鹿しいと思いながらも、考えることによって、もしくは行為を繰り返すことによって、恐ろしい事態を未然に防ぐことが出来る…、不安を低減させている…という考えがあるので、本気で治そうと思えないところが、この病気治療の難しいところです。

よって、専門家は、本人の苦悩にしっかりと共感しながらも、強迫性障害を持っていることによって、生活にどのような支障を生じさせているか、自覚させることが大切です。

強迫性障害のクライアントに対しては、再発予防効果が高い「曝露反応妨害法」が代表的な治療法です。これは、クライアントが強迫観念による、不安に立ち向かい、やらずにはいられなかった強迫行為を、しないで我慢するという行動療法です。

たとえば、汚いと思うものをわざと触って、手を洗わないで我慢させたり…、また、鍵をかけて外出したら、たとえ留守宅が心配でも、施錠を確認するために戻らないで我慢させる…、等です。こうした課題に繰り返し挑戦していくと、強い不安が徐々に弱くなっていき、やがては強迫行為をしなくても大丈夫になっていきます。

また強迫性障害のクライアントに対しては、薬物治療も有効です。
患者さんの多くは、強迫症状や抑うつ、強い不安感があるので、まずは抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)で、精神状態を安定させてから、それから心理療法である認知行動療法に入るのが王道です。いきなり行動療法をやってもいいのですが、行動療法がうまくいかないと、症状を強めたりする恐れがあるので、最初は薬を用いて行うほうが安全です。

強迫性障害は、直ぐに良くなることは期待できないので、根気よく、長期間に渡って薬を飲むことが求められます。最初は少量から始め、薬との相性を見ながら、徐々に服用量を増やしていきます。
SSRIは、他の抗うつ薬に比べると、副作用は軽いものですが、「服用を始めてから体調がよくない気がする」等の不安があれば、すぐに医師に相談するようにして下さい。そういった意味では、長きに渡ってお付き合いすることもあり、医師との信頼関係は非常に重要ですね。

今日のまとめです。
強迫性障害は、薬物療法と心理療法で治す です。
強迫性障害を治す心理療法は、来談者中心療法認知行動療法森田療法です。

来談者中心療法は、強迫性障害のクライアントに苦悩にひたすら共感を示すという心理療法です。暖かい共感を寄せられたクライアントは、やがて自らが持つ内在力によって、回復の道を歩み始めるでしょう。
でも、来談者中心療法だけで、強迫性障害を治すのは困難です。よって私は、認知行動療法を使ったり、森田療法を使ったりして、クライアントを援助しています。認知行動療法は、クライアントの認知を変えることによって、クライアントの強迫観念や不安感情を減少させようとします。
いっぽう、森田療法では、クライアントの感情は直接扱わず、クライアントの行動を変えることによって、やがてクライアントの不安感情が減少していくのを、クライアントに自身に体感させようとします。

要するに、
認知行動療法は、認知を変え、行動を変え、不安を変えようとする心理療法であり、森田療法は、行動を変えることによって、不安感情が減少していくのを体験させる心理療法ということです。

ちょっと事例を述べて説明します。
「ガスコンロの火を消したかどうか?」「水を出しっぱなしにしていないか?」「玄関のドアのカギをきちんと掛けたかどうか?」非常に不安になっているクライアントがいるとして、カウンセラーは、そんなクライアントに対し、
認知行動療法では、「ガスも水道も玄関も、指差し呼称しながら確認したのだから、間違いない」と自分で自分を説得し、不安感情を減少させるようにするのですが、
森田療法では、不安な気持ちを持ちながらも、感情はそのままに、家に戻らず、やるべきことを淡々とやっていき、やがて不安な気持ちが減少していくのを体験させるようにする…といった感じです。

ちなみに、人間には全行動というものがあり、それは生理反応感情思考行為の4つと言われており、もっとも変容させるのが難しいのが生理反応、その次が感情、そして認知・行動と言われております。

認知行動療法では、自分がどのような認知を持っており、その結果、どのような感情になり、どのような行動を取るか、自分自身が認識することが大切であり、さらに、感情は、認知を変容させることによって変わっていく…と教えますが、森田療法では、感情に振り回されずにやるべきことをやっていく、建設的な行動が大切だ、感情はあとから変容する…と教えます。

今、認知行動療法と森田療法、その違いについてザックリ説明しましたが、どちらが優れているとかはなくて、最終的にクライアントが良くなればいい…と私は思っています。

私(竹内成彦)は、認知を変えるより、行動を変えるほうが簡単だと思うので、強迫性障害のクライアントに対しては、認知行動療法よりは、森田療法使って、カウンセリングすることが多いです。

最後に、強迫性障害を治す心理療法ですが、これは、誰がやっても同じということはありません。このあたりは、誰が処方しても、基本、同じ効き目を発揮する薬と、大きく違うところです。よって、強迫性障害で苦しんでらっしゃる方は、どうぞ精神医学に詳しい、腕のいいカウンセラーから、心理療法を受けるようにしてください。


今日も最後までお読みくださって、どうもありがとうございます。
心から感謝申し上げます。

      この記事を書いた人は、心理カウンセラー(公認心理師)の竹内成彦です。

心理カウンセラー(公認心理師)

1960年、愛知県名古屋市で生まれ育つ。1997年06月、地元愛知でプロのカウンセラーとして独立開業を果たす。カウンセリングルーム「心の相談室with」名古屋 の室長。臨床歴25年、臨床数15,000件を超える。講演・研修回数は800回、聴講者は10万人を超える。【上手に「自分の気持ち」を出す方法】など、電子書籍を含め、20数冊の本を出版している。カウンセリング講座などを開催し、カウンセラーを育てることにも精力を尽くしている。

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