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「余市ー小樽間」鉄道再生は可能、協議会で黙殺された有識者提案

鉄道乗蔵鉄道ライター

 2022年3月、北海道新幹線並行在来線対策協議会後志ブロックでは、2030年度末に予定されている北海道新幹線の札幌延伸開業に伴いJR北海道から経営が分離される函館本線長万部―小樽間140.2km全線の廃止の方針が決定された。

 このうち余市―小樽間19.9kmについてはコロナ前の輸送密度が2000人を超えており十分な利用者がいる区間である。ローカル線問題を抱えているJR北海道が「単独では維持が困難」と発表した路線や、JR西日本がローカル線見直しの意向を示した路線の輸送密度はいずれも2000人未満であることから、余市―小樽間については鉄道として存続させることが妥当な区間として、余市町長が最後まで鉄道による存続を訴えかけていた。

 しかし、北海道庁が主導した協議会では、特に輸送密度の高い余市―小樽間についても第三セクター鉄道として存続する場合には約45.4億円の初期投資に加えて年間約5億円の莫大な赤字が出るとされ廃止の方向に持ち込まれた。

 こうした動きに対抗して、余市観光協会会長や有志の町議会議員では「余市駅を存続する会」を結成。余市―小樽間第三セクター鉄道化の試算について「経費があまりにも過大に見積もられている」と余市町内在住のJR北海道OBなどのメンバーで数値の精査を行いホームページ上で草の根的な情報発信を行っていることは、2023年2月3日付記事(余市―小樽間19.9kmの鉄道維持に社員80名!?「余市駅を存続する会」北海道庁試算に苦言)でも触れたとおりだ。

日中の余市駅の様子。車両は新型のH100形(写真:余市駅を存続する会)
日中の余市駅の様子。車両は新型のH100形(写真:余市駅を存続する会)

▼余市駅を存続する会ホームページ
https://yoichi-railway.com/
▼余市駅を存続する会ツイッター
https://twitter.com/JrJr47919919

鉄道再生プランが提案されていた

 並行在来線対策協議会では、余市―小樽間について余市町長が鉄道存続の強い意向をしめしたことから、2021年、同区間の鉄道存続の可能性について、別途、北海道庁、余市町、小樽市の3者での個別協議の場に持ち込まれることになった。

 この個別協議の場には、鉄道に関する有識者として交通コンサルタントの阿部等氏が招へいされ、「並行在来線リバイバルプラン」として、余市―小樽間の鉄道再生を中心に、長万部―小樽間の全線存続に向けての詳細なプランが提案されていた。

 阿部等氏は東京大学大学院を修了後の1988年、国鉄分割民営化直後のJR東日本に第1期生として入社。保線部門を中心に鉄道の実務と研究開発を積み重ね後、2005年に交通コンサルタント会社の株式会社ライトレールを創業したという経歴を持つ。

(株)ライトレールの阿部等氏(写真:本人提供)
(株)ライトレールの阿部等氏(写真:本人提供)

余市ー小樽間は列車本数増加と駅増設で黒字化可能

 その提案は、現行の制度を変えることなく、地元の大きな負担も要さずに財源を確保し、長万部ー小樽の全区間及び周辺まで含めた公共交通の利便性を画期的に向上させようとするものだった。

 財源の確保については、まず長万部ー余市間の鉄道を一旦休止として早期にバスに転換。この区間では年間25億円の赤字が発生していることから、この赤字回避分を財源として、その1/3となる8.3億円ずつを鉄道とバス双方に投資し利便性向上を図ろうとするものだ。

 余市―小樽間については、鉄道を運行する第三セクターの鉄道会社を設立。列車本数を現行の概ね1―2時間に1本のダイヤから、平日朝夕20分おき、その他を30分おきとするパターンダイヤ化。これまで列車が通過していた余市町内と小樽市内の市街地に新駅を設置。車両と乗務員は早期にバス転換する長万部―余市間から転換することにより確保。JR北海道から用地・施設と車両を有償で借用し、要員を出向受け入れして人件費を三セク会社で負担。売上については1.8億円から5.4億円にまで段階的に引き上げる計画で、黒字経営も可能と試算されていた。

余市町内の新駅構想。現状は余市駅と蘭島駅のみ(画像提供:ライトレール)
余市町内の新駅構想。現状は余市駅と蘭島駅のみ(画像提供:ライトレール)

小樽市内の新駅構想。現状は塩谷駅と小樽駅のみ(画像提供:ライトレール)
小樽市内の新駅構想。現状は塩谷駅と小樽駅のみ(画像提供:ライトレール)

 長万部―余市間のバスについても年額8.3億円を投じ、北海道中央バスグループを中心に運行。中央バスグループは、鉄道との相乗効果を見越してバス路線を再編し同社の収益性の向上にも寄与。余市では、倶知安・ニセコ方面とともに岩内・積丹等の各方面へ、余市-小樽の鉄道と同本数のバスを運行し短時間かつ同一平面で接続する。ニセコ-長万部も案内上は同本数のバスを運行する。

 残り1/3の年額8.3億円については、仮に鉄道が廃線となった場合には、JR北海道に対して最大で100億円に上る鉄道施設の撤去義務が生じることから廃線撤去費として積み立て。この提案は「JR北海道にとっても大きなメリットをもたらす」と阿部氏は話す。廃線が不要となった場合には、その積立金を地域交通の更なる改善に回すという内容だ。

 さらに、北海道新幹線の札幌延伸開業後は、倶知安と長万部に新幹線新駅ができ、世界リゾートとして名を馳せるニセコ地区を中心に沿線への来訪が大幅に増える見込みであることから、新幹線開業と同時に長万部―余市間の鉄道を復活。阿部氏は「現在、構想中の貨物新幹線のフィーダー路線としても長万部―小樽間を再活用すれば、全区間で客貨ともに十分な売上を上げることができ、鉄道経営が成立する」という。

本当にバス転換が出来るのか?

 しかし、この画期的なプランは世に出ることはなく、結果として長万部―小樽間全線での鉄道廃止前倒しの議論のみが独り歩きすることになった。阿部氏の提案では、北海道庁の試算について「新幹線開業効果を配慮せず人口激減と想定」「鉄道の利便向上を放棄し低利便のまま需要推計」「全国の同規模鉄道と比べ費用を過大に試算」の3点について合理性を欠いていることも指摘をしている。

 また、阿部氏は「徹底的に現地を調べ、机上検討を重ね、多くの方と意見交換した上で練り上げた」。さらに「夢物語でも他人事でもなく、鉄道実務を踏まえ、自らが手掛ければ成就できるものとしてまとめあげた」と提案内容について自信を持つ。 

 2022年冬の観光シーズンからは、ニセコをはじめとした北海道後志地区にはインバウンドを初めとした相当数の旅行者が戻ってきており、長万部―倶知安―小樽間の在来線では連日、混雑が続いている。その一方で、2022―2023年の年末年始にかけて、北海道中央バスでは余市-小樽線や小樽市内線の終日運休や大幅な間引き運転が相次いだ。

 警察庁の運転免許統計によると、路線バスを運転できる大型2種免許の保有者の81%が50代以上であり、バスドライバーの高齢化と人手不足は年々深刻化している。こうしたことから、特に余市-小樽に関しては「バス転換しても利便性を確保するよう努力する」とした道庁の約束が果たされるのか、地元関係者の間に懸念が広がっている。

2021年度版運転免許統計を基に筆者作成
2021年度版運転免許統計を基に筆者作成

 「余市-小樽の鉄道は活かせるのでは」との全国からの多くの声を受け、阿部氏の提案が日の目を見ることを願いたい。詳細は『並行在来線リバイバルプラン』としてhttps://www.LRT.co.jp/heizai/に公開され、また地域情報誌『後志よみうり』に毎週連載されている。

特に余市ー小樽間の鉄道は2022年冬の観光シーズン以降、連日激しい混雑が続いている(筆者撮影)
特に余市ー小樽間の鉄道は2022年冬の観光シーズン以降、連日激しい混雑が続いている(筆者撮影)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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