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「余市―小樽間」路線バスの現状、鉄道20分に対してバスは50分

鉄道乗蔵鉄道ライター

 2022年3月、北海道新幹線並行在来線対策協議会後志ブロックでは、2030年度末に予定されている北海道新幹線の札幌延伸開業に伴いJR北海道から経営が分離される函館本線長万部―小樽間140.2km全線の廃止の方針が決定された。

 このうち余市―小樽間19.9kmについては輸送密度が2000人を超えており十分な利用者がいることから、鉄道として存続させることが妥当な区間として余市町長が最後まで鉄道による存続を訴えかけていた。

 しかし、北海道庁が主導した密室の協議会では、協議の場に招へいされた交通コンサルタントから提案されていた詳細な鉄道再生プランを黙殺し、道庁による過大な経費試算に基づき一方的に鉄道廃止の方向に持ち込んだことは、2023年2月17日付記事(「余市―小樽間」鉄道再生は可能、協議会で黙殺された有識者提案)でも触れたとおりだ。

▼余市駅を存続する会ホームページ
https://yoichi-railway.com/
▼余市駅を存続する会ツイッター
https://twitter.com/JrJr47919919

朝ラッシュ時の余市駅の様子(写真:余市駅を存続する会)
朝ラッシュ時の余市駅の様子(写真:余市駅を存続する会)

北海道庁は鉄道廃止後のバスダイヤ案を発表

 2022年11月、北海道庁は鉄道を廃止する方針の長万部―小樽間のバスダイヤ方針案を発表した。その内容はバス路線を長万部―黒松内、黒松内―倶知安、倶知安―余市、余市―小樽間に4分割し、特にJRの輸送密度が高い余市―小樽間については現行のJRと同等以上の確保する一方で、長万部―黒松内、倶知安―余市については減便し、一部についてはデマンド型交通で補完をするというものであった。

 余市―小樽間については、単純に現在の鉄道便に代わるバス便を設定しただけという単純なもので、特に朝ラッシュ時の鉄道代替便とされるバス便は、塩谷・最上経由で小樽潮陵高校方面に直結するものとなり、これまでの小樽駅利用者にとっては大幅な所要時間の増加を伴い大きく利便性を損なう内容だった。

 余市駅ー小樽駅間の所要時間については、これまでの鉄道20ー25分に対してバスが45分前後とおよそ2倍の所要時間となることから、これまで可能だった余市から札幌方面の高校や大学への通学が難しくなる恐れがある。

 さらに、所要時間の増加に加え、交通体系が各地で分断されることになるため、公共交通としてはより使いにくいものになり、これまで仁木町や共和町、倶知安町などから小樽方面に通学していた高校生にとっては、自宅からの通学を諦めて高校近くでの下宿を余儀なくされるケースも想定される。

平日朝の余市の路線バスの現状

朝ラッシュ時の余市ー小樽間のバスダイヤ(北海道中央バスHPより引用)
朝ラッシュ時の余市ー小樽間のバスダイヤ(北海道中央バスHPより引用)

 余市駅最寄りのバス停となる余市駅前十字街から小樽駅前へと向かう平日午前7時台のバスは5本存在する。所要時間は、高速バスと路線バスのどちらも45分前後。一方で、余市駅から小樽駅に向かう列車は2本しかないが、特に朝ラッシュ時は加速性能が高い車両が投入されていることから余市―小樽間の所要時間は20分となる。バスは鉄道に対して2倍以上の所要時間を要する。

 筆者は実際に2月のとある平日朝、余市駅前十字街ー小樽駅前間の路線バスに乗車した。このバスに乗るために余市駅前十字街のバス停にたどり着いたのは、午前7時過ぎ。バス停は、小樽駅前を経由し札幌駅前に向かう高速バスと、小樽駅前を終点とする路線バスで乗り場が分かれており、初見では分かりにくい。

 まず、国道5号線に面した高速バスが発着するバス停を見ると、そこではすでに数名の乗客が札幌駅前ターミナル行の高速いわない号を待っていた。7時10分過ぎになりバスはほぼ定刻通りに満席の状態で到着。しかし、バス停の乗客はこのバスへは乗車することはなく、2台運行となる高速いわない号の続行便へと乗車し、札幌方面へと向かっていった。

満席の状態で到着した高速いわない号。余市からは2台運行となり乗客は続行便へと乗車していった(筆者撮影)
満席の状態で到着した高速いわない号。余市からは2台運行となり乗客は続行便へと乗車していった(筆者撮影)

7時14分発の路線バスで小樽駅前へ

小樽駅前行の路線バス(筆者撮影)
小樽駅前行の路線バス(筆者撮影)

 一方で、小樽駅前を終点とする路線バスは、ニッカウヰスキー余市蒸留所正門近くのバス停から発車する。筆者は7時15分発の小樽駅前行のバスに乗車。定刻通りだと小樽駅前には8時1分の到着。所要時間は46分だ。

 バスは、余市駅前十字街発車時点では、それほど混雑はしていなかったが、余市駅から遠ざかるにつれて徐々に混みはじめる。余市駅から隣の蘭島駅までは5.3kmの距離があり、徒歩で余市駅にアクセスしにくい地域の住民が主なバスの利用者のようだ。

余市駅から離れるにつれて混雑が増していく(筆者撮影)
余市駅から離れるにつれて混雑が増していく(筆者撮影)

 余市町から小樽市内に入る頃には、立ち席客が出るほどの混雑状況となった。そして、小樽市内では、商店街があり市街地が集積しているにもかかわらずJRの駅がない長橋地区で大半の乗客が下車していった。しかし、小樽駅前へは若干の遅れで8時5分ごろに到着。実質的な所要時間は50分であった。

所要時間の倍増で観光客の客足が遠のく懸念も

 現状の路線バスの利用者は、JRの駅が徒歩圏内にない余市町内から小樽市内の相互間を移動したい層がメインの客層であると考えられ、現状でも立ち席客ができるほどの利用があることがわかった。鉄道が廃止となった場合には、これに1日2000人の鉄道利用者がシフトすることになり、バスの混雑に拍車をかけ、かつ狭い車内に鉄道の2倍以上の時間閉じ込められ、苦痛を伴いながら小樽までの移動を迫られることになることは想像に難くない。

 これに対して、余市駅を発車する7時台の列車は、7時2分発と7時40分発の2本しか設定がないが所要時間はわずか20分だ。小樽駅に8時頃に到着しようとした場合には、余市駅を7時40分に発車する札幌行の列車に乗ればいいが、バスの場合だとそれよりも26分も早い7時14分の便に乗らなければいけなくなる。特に冬期間であれば、今回のようなバスの遅延も常態化していると考えられることから、町民の利便性は大きく低下し、通勤や通学に対する負担も増えることになりそうだ。

 また、観光振興の面からも、鉄道廃止は悪影響があると考えられる。現在は、小樽ー余市間を鉄道で20-25分程度で移動できることから小樽観光のついでに気楽に余市を訪問することができ、多くの観光客が鉄道を使って余市を訪れているが、これがバスで片道50分かかるとなると小樽観光のついでに気楽に立ち寄れない観光地となってしまい、客足が遠のいてしまうことが懸念される。

 いずれにしても余市ー小樽間の鉄道廃止については、住民生活と観光振興の双方に重大な問題を引き起こしかねない。

余市駅前十字街から50分かけて小樽駅前に到着したバス(筆者撮影)
余市駅前十字街から50分かけて小樽駅前に到着したバス(筆者撮影)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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