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引退迫るJR北海道のキハ143形気動車! GW中に乗っておきたい札幌発東室蘭行乗車レポート

鉄道乗蔵鉄道ライター

 JR北海道、室蘭本線の苫小牧―室蘭間で活躍しているキハ143形気動車の引退が2023年5月19日に迫っている。現在、苫小牧―室蘭間の普通列車は、同区間が電化区間であるにも関わらず全列車がキハ143形とH100 形気動車で運転されているが、5月20日からは新型車両である737系電車が投入され、これらの気動車列車を置き換える。

 2012年の札沼線(学園都市線)桑園―北海道医療大学間の電化開業までは、キハ143形を含むキハ141系は札沼線の主力車両として活躍していたが、2023年現在、札幌駅からキハ143形に乗車できるのは6時18分発東室蘭行の1本だけだ。今回は、このゴールデンウィーク中に乗っておきたいキハ143形の乗車レポートを紹介する。

早朝に1本だけの札幌発東室蘭行普通列車

 2023年のゴールデンウィークが始まったばかりの4月30日朝6時、筆者は1日に1本しか運行がない東室蘭行の普通列車に乗車するために札幌駅へ降り立った。札幌と東室蘭を直通する普通列車は1日1往復のみの設定で、札幌発の列車は6時18分に発車し終点の東室蘭には9時8分に到着。一方で、東室蘭発の列車は20時22分に発車し23時11分に札幌駅に到着した後、苗穂運転所に回送され一夜を過ごす。

今回使用した「一日散歩きっぷ」(筆者撮影)
今回使用した「一日散歩きっぷ」(筆者撮影)

 筆者は、今回の乗車に当たって札幌近郊のJR路線の普通列車が乗り放題となる「一日散歩きっぷ」を購入。発売価格は2540円。札幌―東室蘭間の移動距離は129.2mあり、片道乗車券の価格は2860円。東室蘭まで片道を乗り通すだけでも十分に元が取れる価格設定だ。しかし、「一日散歩きっぷ」は発売箇所が札幌近郊の駅に限られている他、基本的には土休日しか発売されていないので、利用の際には注意が必要となる。

札幌駅7番線に入線するキハ143形東室蘭行(筆者撮影)
札幌駅7番線に入線するキハ143形東室蘭行(筆者撮影)

 筆者が、東室蘭行の普通列車に乗車するために札幌駅7番線へと上がると、すでにそこには一眼レフカメラを構えた鉄道ファンとおぼしき数名の乗客が列車を待っていた。その後、6時10分頃になり東室蘭行の普通列車は苗穂方面から2両編成で札幌駅へと入線。ここからおよそ3時間にわたる普通列車の旅が始まる。そして、東室蘭駅到着後は5分の待ち時間で室蘭行が接続することから、そのまま終着の室蘭駅まで乗り通す計画だ。

車内は余裕があった(筆者撮影)
車内は余裕があった(筆者撮影)

 ゴールデンウィーク期間中で、引退間近の車両ということで、鉄道ファン客の混雑が心配なところではあったが、各ボックス席に1人程度という乗車状況で比較的、ゆったりと終点まで乗り通すことができそうだ。

キハ143形とはどのような車両か

キハ143-153の車両銘板(筆者撮影)
キハ143-153の車両銘板(筆者撮影)

 キハ143形を含むキハ141系気動車が登場したのは1990年のこと。札幌都市圏の拡大に伴い沿線の都市化と宅地化が急速に進んだ札沼線(学園都市線)の輸送力増強を図るために、当時、客車列車の電車や気動車への置き換えによって余剰となっていたオハフ51形客車にエンジンと運転台を搭載する改造工事を行って誕生したのがキハ141系だ。

 2023年まで生き残ったキハ143形は、キハ150形気動車の駆動システムを用いて性能を強化し、1994年から1995年にかけて登場したグループだ。2012年の札沼線(学園都市線)の電化開業に伴って、キハ143形は2両1ユニットのワンマン車両として再改造の上、千歳線・室蘭本線の普通列車に転用され、それまで同路線で運用されていた711系電車を置き換えた。

 キハ141系のうち、キハ141形とキハ142形の最高運転速度が95km/hなのに対して、キハ143形は110km/hであることも快速列車や特急列車が行き交う千歳線・室蘭本線の高速ダイヤに適していたということも転用の理由であった。

 しかし、改造の種車となったオハフ51形客車の製造は1981年とすでに製造から40年以上が経過し車両の老朽化も進行してきていたことから、JR北海道は同路線に新型車両となる737系電車の投入を決めキハ143形は5月19日の運行をもって引退。新型の737系電車は5月20日から運行が開始されることになった。

札幌駅を力強く発車

キハ143形の運転席(筆者撮影)
キハ143形の運転席(筆者撮影)

 6時18分になり、キハ143形の東室蘭行普通列車は定刻通りに札幌駅を発車。天気はあいにくの雨模様ではあったものの性能強化型の車両であるだけに気持ち良い加速をみせる。

苗穂運転所を横目に(筆者撮影)
苗穂運転所を横目に(筆者撮影)

 列車は先日引退したばかりのキハ183系気動車が留置されている苗穂運転所を横目に駅間の長い区間では最高運転速度の110km/hで北の大地をぐんぐんと駆け抜けていく。

島松駅で4分停車(筆者撮影)
島松駅で4分停車(筆者撮影)

 この3月に開業したばかりのプロ野球・日本ハムファイターズの新球場。エスコンフィールド北海道が右手側に見えると列車は北広島駅へ。隣の島松駅では4分間停車し後続の新千歳空港行快速エアポート号に道を譲る。 

南千歳駅を過ぎると車窓は一面の原野と湿地に(筆者撮影)
南千歳駅を過ぎると車窓は一面の原野と湿地に(筆者撮影)

 南千歳駅を過ぎると右手に多くの旅客機が駐機された新千歳空港ターミナルビルが車窓に広がる。その後、しばらく原野の中を走り岩見沢方面から伸びてきた室蘭本線の線路をオーバークロスし合流すると沼ノ端駅へ。沼ノ端駅では8分間停車し後続の函館行特急北斗号へ道を譲る。そして札幌駅を発車しておよそ1時間半で列車は苫小牧駅へと到着した。苫小牧までは車掌が乗務していたが、ここから先の区間はワンマン列車となる。

苫小牧からはワンマン列車に

特急すずらん号に使用される785系電車は1990年の登場だ(筆者撮影)
特急すずらん号に使用される785系電車は1990年の登場だ(筆者撮影)

 苫小牧駅では6分間の停車後、7時50分に定刻通りに発車。苫小牧駅での停車中、室蘭方面からやってきた特急すずらん号と離合した。苫小牧市は、王子製紙や石油化学コンビナートが立地する北海道屈指の工業都市であることから市街地は広い。苫小牧市街地となる沼ノ端駅からもそこそこの乗車があり、苫小牧駅隣の青葉駅やその先の糸井駅など市内での区間利用客も多い様子だった。

苫小牧から先で時折、離合するH100形普通列車は1両編成だった(筆者撮影)
苫小牧から先で時折、離合するH100形普通列車は1両編成だった(筆者撮影)

 苫小牧駅を過ぎると時折、H100形の普通列車と離合する。現在、苫小牧―東室蘭―室蘭間の普通列車に充当されている車両は、キハ143形とH100形の2種類であるが、H100形の方は基本的に1両編成で運転がされているようで、車内を見ると非常に混雑している様子であった。5月20日以降は、2両編成の737系電車がこの1両編成のH100形で運行されている列車も置き換えることになるので、混雑が緩和されることを願いたい。

黄ばんだ外側窓を全開に、内側窓を閉めて景色を楽しむ乗客たち(筆者撮影)
黄ばんだ外側窓を全開に、内側窓を閉めて景色を楽しむ乗客たち(筆者撮影)

 今回、乗車したキハ143形は、北海道の冬期間の保温性を考慮して客室窓が2重窓となっていることも大きな特徴であるが、2重窓の外側の窓が激しく黄ばんでおり景色がよく見えなかった点は非常に残念な点であった。しかし、乗客の方々も考えたもので黄ばんだ外側の窓を全開にして、内側の2重窓を閉めることによって視界を確保し、車窓を楽しんでおられる方が多かったのも印象的であった。

ドーム型の屋根が特徴的な登別駅(筆者撮影)
ドーム型の屋根が特徴的な登別駅(筆者撮影)

 日本屈指の温泉街の登別駅でも5分停車し、後続の特急すずらん号に道を譲る。鷲別駅が近づくと家がびっしりと立ち並んだ室蘭市街地へと入り、左手側にコンテナ貨物列車が多く並んだJR貨物の東室蘭駅を過ぎると、列車は終点の東室蘭駅へと到着した。

東室蘭駅には9時8分に到着した(筆者撮影)
東室蘭駅には9時8分に到着した(筆者撮影)

さらに終着駅・室蘭へ

キハ143形の運賃表示機(筆者撮影)
キハ143形の運賃表示機(筆者撮影)

 東室蘭駅では5分間の待ち時間で室蘭行に接続するため、ここからさらに足を延ばして終着駅、室蘭駅へと向かう。東室蘭―室蘭間は今でこそ朝夕1時間に2本、日中1時間に1本程度の旅客列車しか運行されていないローカル線であるが、線路設備は堂々の複線電化となっており、かつて室蘭駅が石狩炭田で産出された石炭の積み出し港として多数の貨物列車が運行されていた時代の名残である。

今は1面2線の頭端駅となった室蘭駅(筆者撮影)
今は1面2線の頭端駅となった室蘭駅(筆者撮影)

 室蘭駅へ到着したのは9時26分。最盛期は、室蘭駅は多数の側線で埋め尽くされ多くの貨物列車が出入りしていたというが、現在は、1面2線の頭端式終着駅となっている。

室蘭駅の線路終端部(筆者撮影)
室蘭駅の線路終端部(筆者撮影)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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