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国会で明らかになったバス転換路線「利用者激減」の実態 バスは鉄道の代替交通としては機能しない

鉄道乗蔵鉄道ライター

 JR西日本やJR東日本のローカル線の赤字額の公表に端を発し、全国に危機感が広がっているローカル線の存続問題。こうしたJR各社のローカル線の存続問題を受けて、国会では地域交通活性化再生法を改正に着手。改正案では「ローカル鉄道の再構築に関する仕組みを創設・拡充」することなどが盛り込まれている。

 輸送密度が1000人未満のローカル線については、今後、国の再構築協議会で存廃が議論されることになり、鉄道の廃止が選択された場合は、地域の公共交通機関はバス又はBRT(バス高速輸送システム)への転換されることになるが、安易なバスやBRTへの転換は鉄道の代替交通として機能しないことが明らかになりつつある。

 2023年4月18日、参議院の国土交通委員会では地域交通活性化再生法の改正に向けて参考人質疑を行った。参考人として招聘された日本大学名誉教授の桜井徹氏からは、鉄道を廃止してバスに転換した場合の乗客の減少率について過去のデータに基づいた踏み込んだ発言がなされた。

国会で明らかになった鉄道転換バスの利用者激減の実態

参議院国土交通委員会に提出された資料(資料提供:桜井徹)
参議院国土交通委員会に提出された資料(資料提供:桜井徹)

 具体的な言及がなされたのは、バスに転換された名鉄三河線猿投―西中金間、JR北海道札沼線(学園都市線)北海道医療大学―新十津川間の2路線。そして、鉄道の廃線跡を専用道化しBRT化されたJR東日本気仙沼線前谷地―気仙沼間、JR東日本大船渡線気仙沼―盛間、そして鹿島鉄道線石岡―鉾田間の3路線の合計5路線だ。

 2004年に廃止された名鉄三河線の猿投―西中金間8.6kmは、1990年から合理化のため電気運転を廃止し小型のディーゼルカーによる運行を行っていた路線で、廃止直前の2002年度の鉄道利用者は約31万人であったが、鉄道廃止後の2004年度の代替バスの利用者は約15万人と、廃止前後で利用者は半減した。

 2020年に廃止されたJR北海道の札沼線(学園都市線)北海道医療大学―新十津川間47.6kmについては、鉄道廃止前の利用者115人/日から2022年度の38人/日に約7割減となり、それまで鉄道を利用していた乗客はマイカーなどへとシフトした形となっている。

 鉄道の廃止代替バスについては、一般的に停留所を増やしたり便数を増やしたりなど、鉄道時代よりも便利にするという建前とはなっており、バス転換直後は行政側もバスの利用促進を行うというポーズはとるものの、鉄道を廃止しバスに転換した瞬間に住民や観光客からは見向きもされない交通機関となり、地域によってはいつの間にかバス路線そのものが消滅してしまうということが実態のようだ。

BRT(バス高速輸送システム)も軒並み激減

 一方で鉄道の廃線跡をバス専用道に転換したBRT路線はどうか。2011年の東日本大震災で被災したJR東日本の気仙沼線BRT前谷地―気仙沼間は被災前の872人/日からBRT化後の1019年度には263人/日に約7割減。JR東日本大船渡線BRT気仙沼―盛間も被災前の426人/日から274人/日に約4割減となった。

 2007年に廃止となった鹿島鉄道線の廃線跡をバス専用道化した「かしてつバス」も、鉄道時代の2006年度の乗車人数83.5万人から2019年度の約35万人に約6割減となっており、仮に鉄道の廃線跡をバス専用道化して速達性をアピールしたところで、集客面では鉄道よりも劣る交通機関となっているのは間違いないようだ。

バス転換後の乗客減少率(資料:筆者作成)
バス転換後の乗客減少率(資料:筆者作成)

利用者の減り幅は鉄道よりもバスの方が大きい

 一般的に言われている、人口減少が鉄道の利用者減少につながっているという見方は一面では正しいが、鉄道を廃止しバスに転換した途端に人口の減り幅よりも大きい利用者の減少を招いているというのもまた事実である。

 国土交通省が作成した「路線バスと地域鉄道の利用者数」の推移をみても1990年(平成2年)を100とした場合、コロナ前の2018年(平成30年)には、鉄道利用者の落ち込みが80に対してバスが48とバスのほうの落ち込みが顕著な結果となっている。

 特にJRのローカル線の利用者の減少は、旧態依然のサービスのまま利便性向上などの顧客本位のサービス向上を放棄し続けた結果である。こうしたことからも、バスとの比較において既存の鉄道路線のポテンシャルは高いといえ、もともとある鉄道を再活用したほうが公共交通機関の利用促進や地域活性化の点からも成果を出しやすいと見ることもできる。安易な鉄道路線の廃止はその地域の活性化の機会を奪うことになるほか、バスドライバー不足の問題からも地域の交通崩壊を招きかねない。

(出典:「自動車輸送統計年報」「鉄道統計年報」より国土交通省作成資料)
(出典:「自動車輸送統計年報」「鉄道統計年報」より国土交通省作成資料)

▼参議院インターネット審議中継
この時の質疑の様子は下記リンクの参議院インターネット審議中継よりご覧になれます。
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
開会日:2023年4月18日
収録時間:約2時間31分
会議名:国土交通委員会

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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