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並行バス路線「存廃協議中」に鉄道廃止を強行した留萌本線 「鉄道代替交通」は前途多難

鉄道乗蔵鉄道ライター

 JR北海道・留萌本線の留萌―石狩沼田間35.7kmが2023年3月31日限りで廃止となった。JR北海道と留萌市は、留萌本線に並行して走る沿岸バス留萌旭川線を留萌本線の鉄道代替交通機関として発表していたが、沿岸バスはその翌月の4月28日、関係自治体と同路線の存廃協議を進めていることを公表し、社会に衝撃を与えた。

 さらにその後、8月17日になり沿岸バスは、留萌旭川線の存廃協議を、留萌本線の廃止が決まるかなり前から行っていたことも公表。バスドライバーの高齢化が深刻化し、各社がバス路線の減便を進める中で、関係自治体とJR北海道は、鉄道廃止後の代替交通の継続性を担保することなく留萌本線の廃止を強引に推し進めた疑惑が浮上している。

鉄道代替交通の責任を放棄した北海道庁とJR北海道

 一般的に、鉄道の存廃問題が表面化する地域は財政力が脆弱な自治体が多く、市町村の補助金のみで公共交通機関を維持していくことは難しい。こうした中で、公共交通機関を維持していくためには都道府県が市町村に対して果たす役割が重要となる。

 2022年10月に、新潟・福島豪雨での被災から11年ぶりに災害復旧を果たした福島県のJR東日本・只見線では、福島県が主体となり上下分離により鉄路が存続した。上下分離されたのは、特に被害の激しかった会津川口ー只見間27.6kmであるが、この区間の被災前の輸送密度は49人/日で年間の赤字額は約3億円であった。しかし、福島県は只見線の利活用による観光面での経済効果が大きいと判断。年間3億円の負担額については、県も財源面で積極的な姿勢をみせ、会津川口駅のある金山町では約1300万円、只見町では約1900万円の負担で決着した。

 しかし、留萌本線のケースでは、北海道庁は財政支援を放棄し、鉄道存続の場合は沿線自治体の4市町で約9億円を負担することを前提に協議が行われ、財政力の脆弱な自治体では新たに年間数億円にものぼる鉄道維持のための財政負担ができないことから、沿線自治体の首長は留萌本線の廃止に合意させられている。

 留萌本線廃止後の鉄道代替交通については、留萌本線にほぼ並行する沿岸バス留萌旭川線が担うものとして、留萌市とJR北海道から発表がなされ、こうした案内が、廃止前の留萌駅や深川駅などの各所に掲示されていた。しかし、この沿岸バスの留萌旭川線については、すでに沿岸バスが沿線自治体と存廃協議を進めている最中であり、沿岸バス留萌旭川線を今後も継続的に運行を続けられるのかが不透明な中、留萌本線の廃止強行に導いた北海道庁とJR北海道の姿勢は大問題だ。

沿岸バス留萌旭川線を鉄道代替交通として案内する掲示。しかし当該バス路線は存廃協議中で利用者を騙し討ちにした形となった(筆者撮影)
沿岸バス留萌旭川線を鉄道代替交通として案内する掲示。しかし当該バス路線は存廃協議中で利用者を騙し討ちにした形となった(筆者撮影)

地域の実情を無視し、鉄道廃止を強行か

 北海道のバスドライバーの高齢化問題は、年々、厳しさを増す。警察庁が公開する運転免許統計によると、路線バスを運転できる大型2種免許保有者は、2023年度のデータでは83.3%が50代以上。前年の2022年度は80.9%が50代以上であったことから、この1年間で2.4ポイントも高齢化が進行している。

 こうした傾向はすでに北海道内のバス路線の大幅減便や廃止という形で問題が表面化している。北海道中央バスなどが共同運行する札幌―函館間の都市間高速バス高速はこだて号はこの10月から便数が半減。石勝線夕張支線の「攻めの廃線」を行った夕張市でも10月から夕張市から札幌市方面を結ぶ夕鉄バスの広域バス路線が全廃される。 

 沿岸バス本社へ電話取材を試みた大手経済紙では、沿岸バスが「留萌旭川線のバス路線について鉄道代替バスという認識はない」「JR北海道からの拠出金を原資に留萌市からの委託を受けて運行を行っている高規格道路経由の高速バスについても鉄道代替バスという認識はない」と答えていたことが明らかにされており、JR北海道と留萌市の公式発表と食い違う。

 留萌本線の廃止は、路線廃止を進めたいJR北海道と、鉄道の維持にびた一文たりとも出す気のない北海道庁が、地域の実情を無視し強引に主導した可能性が否定できない。利用者をいわば騙し討ちにしたといっても過言ではない。

政府はモーダルシフトを推進

 トラックドライバーの労働規制が強化される2024年を前に、今後はバスだけではなくトラックドライバーの人手不足がより一層深刻化することが懸念されている。こうしたことから、政府にはトラックから鉄道や船舶などへの物流のモーダルシフトを推進させようとする動きがある。

 留萌港は需要港湾に指定され、石油や石炭、原木や農産物などさまざまな貨物が取り扱われている。こうしたことから、今後、トラックドライバー不足も深刻化すれば、留萌港での貨物取り扱いが困難となり留萌地方全体の経済活動が停滞することが危惧される。

 なお、1945年8月15日の終戦直後、旧ソ連軍は北海道占領を計画し、日本領だった南樺太と北方領土4島を含む千島列島を占領。旧日本軍による自衛戦闘がなければ、8月24日には留萌に上陸し、留萌―釧路ラインを結ぶ北海道の北半分を占領しようとしていたことを忘れてはいけない。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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