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衆議院議員会館に乗り込み鉄道軌道整備法改正にクレーム 根室本線災害復旧の芽を摘んだ道庁幹部の罪と罰

鉄道乗蔵鉄道ライター

 2024年3月末限りで廃止となるJR北海道・根室本線の富良野―新得間81.7 km。このうち東鹿越―新得間41.5kmは2016年8月の台風10号による被害を受け不通となったままバスによる代行輸送が続いており、鉄路としての復旧がないまま廃止される見通しだ。

 一方で、2011年7月の新潟・福島豪雨で甚大な被害を受けたJR東日本・只見線は福島県の会津川口―只見間27.6kmで運休が続いていたが、2022年10月に11年ぶりに運行を再開。全国各地のローカル線は都道府県の方針によって復旧格差を生む現状がある。

JR只見線は鉄道軌道整備法の改正により復旧

 JR只見線が被災した2011年当時の鉄道軌道整備法では、民営鉄道の災害復旧費用は、原則として鉄道会社の全額負担で、赤字会社であるなどの一定の要件を満たした場合のみ国や地方自治体からの補助が2分の1まで認められるというルールであった。当時のJR東日本は安定した黒字経営を続けていたことから、只見線の復旧費用についてはその全額がJR東日本に求められることとなった。

 只見線の被災区間は輸送密度が49人とJR東日本屈指の閑散路線であったことから、およそ90億円とされた復旧費用をJR東日本は負担する意思がなく、只見線はそのまま廃線になるものと思われた。しかし、只見町長をはじめ沿線からの只見線復旧に対する強い要望を受けた会津若松市出身の菅家一郎衆議院議員は、自民党有志の国会議員とともに「赤字ローカル線の災害復旧等を支援する議員連盟(通称:鉄道議連)」を立ち上げ、黒字の鉄道会社であっても一定の要件を満たせば国や地方自治体からの補助が認められるよう法改正を実現。只見線はこの法改正により災害復旧が実現した。

北海道庁幹部は法改正について衆議院議員会館にクレーム

 鉄道軌道整備法の改正については、只見線のある福島県知事だけではなく、熊本地震や九州北部豪雨での被災路線を抱えた福岡、大分、熊本の各県知事からも強い要請があり実現した。しかし、こうした動きの中で北海道庁幹部が鉄道軌道整備法の改正について衆議院議員会館にクレームを付けに来たという。

 当時の様子について菅家一郎衆議院議員に取材を行った大手経済紙によると「当時の北海道では日高本線鵡川―様似間と根室本線東鹿越―新得間の被災区間があるにもかかわらず、道庁の担当部長が衆議院議員会館に乗り込み、地方自治体の補助率の引き上げについて『道庁で策定している計画内容に変更が生じ負担額が増えるようなことがあっては困る』と主張してきた」という。しかし、鉄道の復旧費用については、道路や河川の予算と比較すれば大きな金額ではなく、起債や交付税措置などにより都道府県の負担額を減額する方法はあるそうだ。

 こうして、根室本線や日高本線の災害復旧の芽は道庁担当部長の手によって摘み取られてしまい、北海道の「攻めの廃線」は加速することになる。その後、北海道内ではバス路線の減便・廃止も加速し、北海道は交通崩壊の危機に瀕することとなってしまった。

 2023年3月31日限りで一部区間が廃止された留萌本線では、廃線の翌月に鉄道の代替バスとされた沿岸バス留萌旭川線が沿線自治体とバス路線の存廃協議を行っていることを公表。廃止の方針が決定された北海道新幹線「並行在来線」の長万部―小樽間についても、バス会社との事前の協議なく、事実上、北海道庁が一方的に廃線の方針を決定したことから、バス転換協議は泥沼化し沿線関係者からの道庁批判の声が噴出している。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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