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北海道医療大学、北広島市移転の衝撃! 懸念される学園都市線末端区間の存廃議論

鉄道乗蔵鉄道ライター

 2023年9月27日、北海道当別町の北海道医療大学は北広島市への移転を正式決定した。当別町にはキャンパスの一部を残す方針だというが、教育機能については北広島市のキャンパスに全面移転。また、札幌市北区あいの里にある附属病院も北広島市に移転する。移転先は、北広島市のボールパーク敷地内でJR北海道が計画するボールパーク新駅からほど近い場所になるといい、移転の時期は新駅が開業する2028年を目途にしている。

交通アクセスの悪さが学生募集の障壁だった?

 大学側は、日本ハムが北広島市から購入した土地を有償で借り受け新しい校舎や病院を建設。移転にかかる費用はおよそ420億円にのぼる。移転の背景には、近年の志願者数の減少があり、今後、大学の経営が財政的に厳しくなる見通しがあったことから札幌市内や近郊などに利便性の高い移転先を探していた。現在は、JR札沼線(学園都市線)の北海道医療大学駅まで札幌駅から約50分かかるが、移転後はボールパーク新駅まで約20分の所要時間となり利便性が大きく向上する。さらに、札幌だけではなく、小樽、苫小牧、岩見沢からも1時間程度で通学が可能になることから志願者の増加も期待できる。

 当別町では、北海道医療大学に対し、これまでに1993年の新学部設置の際に5億円を支援しているほか、水道料を大幅に減免するなどかなり手厚い支援を行ってきていることから、移転を断念するように申し入れを行ったが思いは届かなかった。なお、当別町には約1000人の学生が居住している。

 大学側が、学生募集の障壁と見ていたのは札幌からのアクセスだった。近年、JR北海道は降雪時の札幌都市圏の列車運休を頻発させており、学園都市線も例外ではなかった。こうしたことから、学園都市線は降雪時に運休になりやすいという認識が広がり、受験生のアンケートでも「通いにくい」という指摘が多かったという。2010年代のJR北海道の相次ぐ不祥事以降、特に冬の鉄道の利便性の低下が著しい。

 また、学園都市線は、2012年に北海道医療大学駅まで電化開業しているが、使用車両をそれまでのディーゼル車から電車に置き換えただけで、快速運転を行う気配が全くないなど所要時間短縮に対する取り組みも積極的ではなかったことから、近年の札幌都市圏の冬季間の運休頻発に加え、こうしたJR北海道側の姿勢も北海道医療大学の意思決定に影響をあたえた可能性も考えられる。

北海道医療大学駅の改札口の様子(筆者撮影)
北海道医療大学駅の改札口の様子(筆者撮影)

学園都市線の今後はどうなるのか

 北海道医療大学の移転により心配されるのが、JR北海道の学園都市線への影響だ。現在、学園都市線の終着駅は北海道医療大学駅となっているが、駅周辺には大学以外はほぼ何もないことから、大学の移転が駅利用者の消滅に直結することになる。大学には約3600人の学生と約800人の教職員が在籍しており、北海道医療大学駅の1日当たりの乗車人数は約2300人。大学移転により、学園都市線の当別ー北海道医療大学間が閑散線区並みの輸送密度に陥ってしまう恐れがある。JR北海道側は、北海道新聞の取材に対して「駅名の変更や列車本数の見直しを検討せざるを得なくなる」と回答している。

 JR学園都市線は2012年に130億円の事業費をかけて北海道医療大学駅まで電化開業した。事業費の内訳は、地上設備の工事費が46億円(桑園ーあいの里公園15.1kmが35億円、あいの里公園ー北海道医療大学間13.8kmが11億円)で車両費が84億円(電車42両)であった。大学の移転により当別ー北海道医療大学間の利用者の大幅減は避けられない見通しだが、多額の費用を投資した電化開業からは日が浅い。これまでの北海道内各地でみられるような安易な存廃議論に走らず、新たな利用者を確保する方向で前向きな鉄路の活用が議論されることを期待したい。

北海道医療大学ー新十津川間廃止前の駅名標(筆者撮影)
北海道医療大学ー新十津川間廃止前の駅名標(筆者撮影)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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