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北海道は10/1からバス路線の大幅廃止・減便へ 鈴木直道知事よ、それでも「攻めの廃線」を続けるのか?

鉄道乗蔵鉄道ライター

 北海道内では2023年9月30日をもって多くのバス路線が廃止された。背景には年々深刻化するバスドライバー不足がある。最も注目されたものは、「攻めの廃線」として2019年にJR石勝線夕張線を廃止した夕張市の夕鉄バスの路線で、鉄道代替路線として増便した新夕張駅から旧夕張駅を結ぶバス路線を極力維持しつつ、夕張から札幌方面を結ぶバス路線は全廃。夕鉄バスの札幌圏の路線でも新札幌から江別・南幌方面を結ぶバスが、平日は改正前の26便から改正後の21便に5本減便となった。なお、新夕張駅から旧夕張駅を結ぶバス路線は、平日は改正前の12便から改正後の11便に1便削減にとどまっているが、今後の持続可能性については不透明な状況だ。

 夕鉄バス路線の状況については、以下の記事に詳しい状況を記している。

・2023年9月30日付記事(交通空白地帯出現で途方に暮れる住民 「攻めの廃線」から4年で交通崩壊、最終日の夕鉄バス路線を追う

・2023年9月29日付記事(「攻めの廃線」から4年で交通崩壊 明日廃止の夕鉄バス、「新札幌―新夕張線」を振り返る

バス路線の主な廃止・減便路線は?

 まず、特筆すべき点は、JR北海道の発足初期の1989年に廃止されたJR天北線とJR標津線の鉄道代替バスが廃止になったことだ。JR天北線の代替バスは音威子府ー中頓別間が、JR標津線の代替バスは中標津ー厚床間が廃止となった。なお、JR標津線の代替バスについては、中標津空港ー根室間を結ぶ空港連絡バスと路線を統合する形で公共交通はひとまず確保されることになった。しかし、10月1日からはこれまで空港連絡バスが対応していた航空便の遅延待ちに対応が出来なくなったことから、新千歳空港から中標津空港に到着する最終便が遅延した場合には、約20km離れた別海町や約90km離れた根室市にその日のうちに公共交通機関で向かうことは不可能となる。

 このほか、北海道庁が主導する北海道新幹線並行在来線対策協議会において廃止の方針が結論付けられた函館本線長万部ー小樽間の沿線である後志地方においても北海道中央バス積丹線の美国ー余別間が廃止となった。この他には、北海道中央バスグループのニセコバスが運行する寿都ー岩内間の路線バスについても便数が半減。並行在来線の廃止については、道庁が事前のバス会社との協議もなく、バスドライバー不足が深刻化する現状もかえりみず、一方的に廃止の方針を決定したことから、バス転換協議が泥沼化している。

 影響は地方の路線バスだけではなく、都市間高速バスにも及ぶ。北海道中央バスなど4社が共同運行する函館ー札幌間の都市間高速バス「高速はこだて号」は、1日8往復から4往復に便数が半減された。これまでは、北海道中央バス、北都交通、函館バス、道南バスの4社よる運行が行なわれてきたが、各社のドライバー不足が深刻化する中で、道南バスは共同運行から撤退した。

10月1日から便数半減となった「高速はこだて号」(筆者撮影)
10月1日から便数半減となった「高速はこだて号」(筆者撮影)

しかし鉄道路線の「攻めの廃線」は続く

 このようにバスドライバー不足が深刻化し、道内各地のバス路線の廃止・減便が進む中で、道庁は「攻めの廃線」をやめる気配はない。2023年3月31日限りで留萌本線の石狩沼田ー留萌間が廃止されたが、その翌月に鉄道代替バスとされた沿岸バス留萌ー旭川線が沿線自治体とバス路線の存廃協議を行っていることを公表。道庁やJR北海道の鉄道廃止と代替交通の確保についての杜撰な仕事ぶりが露呈している。留萌本線の廃止から1年後となる2024年3月31日限りでは、根室本線の富良野ー新得間も廃止となるが、こうした状況では鉄道の代替バスはそう遠くない将来に破綻することになりかねない。

 近年の鉄道路線の存廃協議のケースでは、その路線が赤字か黒字かという単純な収支の議論だけではなく、鉄道があることによって生み出される地域に対しての経済波及効果なども総合的に判断され、公費投入による存続が妥当と判断され存続に至るローカル線も多い。例えば、2022年10月1日に豪雨被害から11年ぶりに復旧した福島県のJR只見線がそれにあたる。只見線の被災区間の輸送密度は49人であったが、観光に対する経済効果が鉄道単体の赤字額を上回るという判断が下された。 

 一方で、道庁は財政難を理由に、鉄道への公的支援はびた一文たりともだそうとはしない。関係者の証言によると、鉄道路線の存廃協議の場では「北海道庁は自治体間の利害を対立させる方向で巧妙に議論を誘導し、鉄道路線を存続させる場合には自治体の財政規模を上回る多額の財政負担が必要になると突きつけ鉄道をはがし続けてきた」という。

 しかし、北海道のインフラ整備に充てられる国土交通省北海道局の北海道開発予算は、2023年度は約5700億円の予算規模があり、このうち道路整備に充てられるのは例年約2000億円程度。道路整備に関しては、潤沢な財源を基に人家のない人里離れた山奥で巨額の予算が投じられ採算という概念なく粛々と整備が進む道路も多い。こうしたことから、道庁の「攻めの廃線」に対する姿勢は、単純に予算の執行体制が硬直化しているだけで、余計な仕事の手間を増やしたくないという理由で、これまでの仕事の進め方を変える気が全くない道庁側の内向きの理由であるとも言える。

留萌駅に到着した最終列車。しかし、廃止翌月には鉄道代替バス路線の存廃問題が表面化した(筆者撮影)
留萌駅に到着した最終列車。しかし、廃止翌月には鉄道代替バス路線の存廃問題が表面化した(筆者撮影)

それでも「攻めの廃線」を続けるのか

 明治政府は、外国からの脅威が増す中での緩衝地帯をつくるために多額の国費を投じ北海道の開拓事業を行い、鉄道網の整備も併せて行ってきた。すでに鉄道の代替交通をバスで担える時代ではなくなり、国としてもトラックドライバーの労働規制が強化される2024年問題を見据えて今後10年間で鉄道貨物の輸送量を2倍に増やす方針だ。このまま北海道の鉄道網の縮小を続けていけば、日本の食料基地として機能する多くの北海道の農水産物を本州方面に出荷できなくなるリスクも大きくなる。

 こうした中で、単純な目先のコストカットのみで「攻めの廃線」を続けることは、様々な苦難のもと北海道開拓事業を行ってきた先人の努力を否定すること、そして道民の経済活動を将来的にさらに停滞させてしまうことにもつながる。道民の経済活動を停滞させてしまえば、結果、税収減ともなりかねず、行政機関が実施する戦略なきインフラへのコストカットは経済活動の破壊行為に外ならない。鈴木直道知事よ、それでも「攻めの廃線」を続けるのか?

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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