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交通空白地帯出現で途方に暮れる住民 「攻めの廃線」から4年で交通崩壊、最終日の夕鉄バス路線を追う

鉄道乗蔵鉄道ライター

 2023年9月30日限りで夕張市から札幌市方面を結ぶ夕鉄バスのバス路線が全廃された。廃止となる路線は、新札幌駅前を発着する3路線で、栗山駅前を経由して新夕張駅前に向かう3往復と栗山駅前折り返しの4往復、南清水沢の交通結節点「りすた」に向かう急行便5往復だ。

 筆者は、バス路線の最終日、新札幌駅前から新夕張駅前に向かう路線バスに乗車。その後、交通結節点「りすた」に向かい、そこからは知人のクルマに同乗し「りすた」発新札幌駅前行の最終急行便を追った。

新札幌駅からはおよそ10名が新夕張駅まで乗り通し

新札幌駅から新夕張駅に向かうバスは見納めに(筆者撮影)
新札幌駅から新夕張駅に向かうバスは見納めに(筆者撮影)

 筆者が、新夕張駅に向かう夕鉄バスが発車する新札幌バスターミナルに到着したのは10時30分頃のことだった。新札幌駅から新夕張駅に向かう初便のバスは10時50分発だ。新札幌から夕張方面に向かうバス路線の最終日ということもあり混雑が心配された。しかし、この時点ではまだ乗車列はまばらではあったが、発車時間が近づくにつれて列はどんどん伸び、最終的には10名ほどが新札幌駅始発のバスへと乗り込んだ。

 夕鉄バスを運行する夕張鉄道はもともとは鉄道会社で、函館本線の野幌駅から室蘭本線の栗山駅を経由し夕張本町駅までの約50kmを結ぶ私鉄路線であったが、石炭産業の斜陽化に伴い1975年に廃止され、その後はバス専業の会社となった。この夕鉄バス「新札幌ー新夕張線」はこの鉄道路線の流れを汲む路線で、野幌駅からはほぼ旧夕張鉄道のルートに沿って夕張までを結ぶ。

 歴史あるバス路線の廃止であるが、発車に際しては特に式典などは行われないようであった。筆者は、バスに乗車後、運転士さんに新夕張駅前までの運賃を尋ねるが、手元にある運賃表を何度も見返してくれて全区間の運賃が1830円であることを教えてもらうことができた。新夕張駅までの所要時間は2時間38分であるが、この区間をJRに普通列車で乗り通したとしても所要時間は1時間25分で運賃は1680円。普段はこの路線を通しで乗車する乗客は皆無であるように思われた。

 乗客を乗せると普段通りに発車。途中の停留所では、日常利用の乗客を拾いながら新夕張を目指す。乗客は、それぞれの地域内での短距離利用がメインのようだ。札幌圏の夕鉄バス路線は、札幌方面からは夕張鉄道の南幌駅があった南幌町の南幌ビューローまでは路線が残るが、その先は廃止される。また、新札幌駅から由仁駅経由で「りすた」に直通する急行便も廃止となり、これらの路線のうち長沼町や栗山町、由仁町の一部地域では公共交通空白地帯が生じることになるという。10月1日以降はデマンドバスによる運行に切り替わるというが、乗車には前日までの予約が必要となることや利用は町民に限られるなど、自治体によって利用には制限が加えられることから、事実上その自治体外の居住者の利用は排除されることになる。

苦しい夕鉄バスのドライバー事情

バス停には改正前、改正後、双方の時刻が掲示されていた(筆者撮影)
バス停には改正前、改正後、双方の時刻が掲示されていた(筆者撮影)

 10月から札幌と夕張を結ぶ夕鉄バスの広域路線は全廃となるが、それぞれ飛び地路線としてのこる札幌圏と夕張市内の減便も進む。まず、札幌圏の便数については、新札幌から南幌方面に向かう路線について、平日は改正前の26便から改正後の21便に5本減便。バスを便利にするとして2019年のJR石勝線夕張支線、新夕張ー夕張間の「攻めの廃線」の鳴り物入りで充実させた夕張市内のバス路線についても、新夕張駅から旧夕張駅方面に向かう路線について、平日は改正前の12便から改正後の11便に1便削減される。広域バス路線を全廃するにもかかわらず、存続となるバス路線さえも大幅減便せざるを得ない状況に陥っていることから、夕鉄バスの苦しいドライバー事情が垣間見える。こうした状況から、残りもバス路線についてもいつまで持続できるかは不透明な状況だ。

 なお、夕張市民によると、新夕張ー夕張間の所要時間は鉄道時代の28分から夕鉄バスの41分に大幅に伸びているといい「時間のかかるバスは市内では短区間でたまに乗ることはあっても全区間で乗り通すことは考えられない」と話す。運賃も鉄道時代と比べてかなりの値上げとなっており、「自家用車であれば20分程度で移動できる距離をわざわさ高いカネを払って倍の時間がかかるバスに乗る意味はない」という。こうしたことから夕張市内に入り、バスを日常利用している客層をみると、クルマの運転ができないと思われる後期高齢者が主な客層となっているようであった。

夕張「りすた」からは、最終新札幌行急行便を追う

このバスの発車をもって「りすた」は交通結節点としての機能を失った(筆者撮影)
このバスの発車をもって「りすた」は交通結節点としての機能を失った(筆者撮影)

 新夕張駅到着後は、折り返しとなる13時56分発の新札幌駅前行に乗り、「攻めの廃線後」のJR北海道からの手切れ金などを財源に約10億6000万円の費用を投じ建設した公共交通結節点「りすた」へ向かう。「りすた」到着は14時10分で、その5分後に新札幌駅前の急行便に接続する。なお、「りすた」で急行便に乗り換えたほうが新札幌駅には36分はやく到着できる。なお、新札幌駅前行の急行便は「りすた」14時15分発が最終便だ。

 筆者は、「りすた」からは知人のクルマに同乗し、この最終の急行便を追うことから「りすた」で下車。新夕張ーりすた間は約7kmであるが夕鉄バスの運賃は370円で、JR時代が近隣の南清水沢駅まで200円程度だったことを考えると割高感は否めない。なお、新夕張駅方面から「りすた」で急行便に乗り継ぐ場合は、事前に車内で乗継券を購入すれば通しの運賃が適用となるが、こうした措置についてもこの日限りとなる。

 筆者が「りすた」でバスを下車後、しばらくすると赤い車体の高速仕様の急行便のバスが到着。およそ15名が急行便のバスへと乗り継いだが、こうした「りすた」の交通結節点としての役割も本日で終了だ。「りすた」の開業は「攻めの廃線」の翌年の2020年であるが、交通結節点としての役割はおよそ3年で終了となる。

 急行便のバスは、旧夕張鉄道沿線の室蘭本線栗山駅ではなく同線の由仁駅を経由する。こうしたことから、「りすた」で急行便のバスを見送った後、知人のクルマで由仁駅へと向かうことにした。由仁駅にはバス到着の10分ほど前に到着。ちょうど夕鉄バスのバス停でバスを待っていた高齢女性に話を聞くことが出来た。女性によると、「普段は札幌方面に在住しており由仁町内に90歳を超える兄がいることからこのバスを頻繁に利用していた。夕鉄バスがなくなるとバス路線ではとなりの長沼町までしかこれなくなり、そこからは誰かに送迎してもらうほか由仁まで来る手段がない」と話す。デマンド交通についても「原則として由仁町民の利用に限られる」ということから、「これから兄のもとに来るためにはどうしたらいいのか」と途方に暮れていた。

由仁駅のバス停には廃止を告げる旨の掲示がされていた(筆者撮影)
由仁駅のバス停には廃止を告げる旨の掲示がされていた(筆者撮影)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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