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秋の定番臨時列車、「特急ニセコ」乗車で見えた函館本線の旅の魅力

鉄道乗蔵鉄道ライター

 2023年9月2日から24日までの週末を中心に札幌―函館間を函館本線(山線)経由で運転された特急ニセコ号。秋の臨時列車として定番化している特急ニセコ号は、昨年は引退間近のキハ183系ノースレインボーエクスプレスを使用して運転され注目を集めたが、今年からは使用車両がキハ261系はまなす編成に一新された。

 函館本線の山線と呼ばれる小樽―長万部間140.2kmについては、北海道新幹線の並行在来線として、新幹線の札幌延伸開業時に廃止される方針が決定されているが、バスドライバー不足が深刻化し沿線にバス路線網を展開するバス会社が鉄道代替バスを引き受けられる状況にないことが表面化し、バス転換協議は中断している。

 山線については廃止の方針が決定されていることから今年の特急ニセコ号の運転は行われないものと感じていた方々も多かったようであるが、キハ261系はまなす編成による運行が発表されたときには筆者も驚いた。

 今回は、筆者が実際に特急ニセコ号に乗車した時に感じた函館本線の魅力について振り返りたい。

筆者は2023年9月23日の列車に乗車した(筆者撮影)
筆者は2023年9月23日の列車に乗車した(筆者撮影)

札幌駅2番ホームより発車

特急ニセコ号の発車標(筆者撮影)
特急ニセコ号の発車標(筆者撮影)

 特急ニセコ号の札幌駅の発車時刻は7時56分とやや早い。函館駅の到着は13時23分で所要時間は5時間27分だ。札幌駅を発車すると、手稲、小樽、余市、倶知安、ニセコ、昆布、黒松内、長万部、森、新函館北斗、五稜郭、函館の順に停車する。

 後続の札幌駅を8時43分に発車する千歳・室蘭本線経由の特急北斗6号は3時間51分で函館駅までを結んでいることから、倶知安駅を経由する函館本線(山線)まわりのほうが、所要時間は大幅に伸びる。とはいっても、沿線にはニッカウヰスキー余市醸造所や羊蹄山ろくに広がるニセコリゾートエリアなど観光資源が豊富で風光明媚な車窓風景を楽しむことができることから、特急ニセコ号が発車する札幌駅2番ホームは列車を待つ多くの観光客で賑わっていた。

 特急ニセコ号は、発車5分前となる7時51分に入線し定刻通りに発車。一路、小樽を目指す。小樽駅までは、普通列車の合間を縫って走ることから速度は控えめだ。しかし、日本海に面した区間ではのんびりと車窓風景を楽しむことができた。札幌―小樽間は快速エアポートであれば33分の所要時間であるが、特急ニセコ号では45分かかる。

銭函ー朝里間では車窓に日本海が広がる(筆者撮影)
銭函ー朝里間では車窓に日本海が広がる(筆者撮影)

 小樽では4分間停車し、特急ニセコ号のハイライトとなる山線区間へと入る。

キハ261系はまなす編成とは

はまなす編成の特徴とも言うべき1号車フリースペース(筆者撮影)
はまなす編成の特徴とも言うべき1号車フリースペース(筆者撮影)

 特急ニセコ号に使用されたキハ261系はまなす編成は、それまで観光列車やイベント列車として運行されていたキハ183系「クリスタルエクスプレス」とキハ183系「ノースレインボーエクスプレス」エクスプレスの事実上の代替車両として、2020年に、キハ261系ラベンダー編成とともに新造されたイベント車両である。

 はまなす編成、ラベンダー編成ともに5両編成で、1号車がフリースペース、2~5号車が普通座席車となっておりグリーン車は連結されていない。車内はWi-Fiが完備のうえ全席でコンセントが利用可能となっている。

はまなす編成普通座席車の様子(筆者撮影)
はまなす編成普通座席車の様子(筆者撮影)

山線停車駅ではおもてなしイベント

余市駅ホームでの特産品販売は大盛況(筆者撮影)
余市駅ホームでの特産品販売は大盛況(筆者撮影)

 小樽駅を過ぎ山線区間に入ると、蘭島駅で5分間運転停車し、小樽行の普通列車と離合する。そして、列車は次の停車駅である余市駅に到着した。筆者の左隣に座っていたインバウンド客のグループは、余市駅で下車していった。不定期列車であってもこうした乗り心地の良い観光特急は、インバウンド客に対しても十分な需要があるようだ。余市駅では10分間の停車時間があり、駅ホーム上では、おもてなしイベントが行われており特産品販売も行われていた。

 余市駅を発車すると、北海道ニセコ高等学校の生徒による沿線の魅力を紹介する案内放送が流される。車内での案内放送は、事前に録音したものの放送ではあったが、特定日には北海道ニセコ高等学校の生徒が考案したベーグルの車内販売も行われたようだ。さらに、別の特定日には北海道小樽未来高等学校の生徒による車内での観光ガイドが実施されるなどの力の入れようだ。

 その後、特急ニセコ号は稲穂峠と倶知安峠を越え倶知安駅へ。国際的なニセコリゾートエリアの玄関口である倶知安駅が近づくと車窓には雄大な羊蹄山の風景が広がった。倶知安駅の次の停車駅のニセコ駅では、地域関係者によるおもてなしイベントが行われており、ホーム上では特産品の即売会が行われていた。ニセコ駅からは、蘭越町関係者が乗車し乗客に「らんこし米」を無料配布するなど、地域PRに熱心な様子であった。

 そして、小樽駅を発車してから3時間弱の11時半ころに特急ニセコ号は長万部駅に到着。長万部駅では14分停車し、ホームでは事前予約を受け付けていた「かにめし」の販売や、ゆるキャラ「まんべくん」によるおもてなしイベントが盛況で、各駅ともとても廃止の方針が決定されている路線とは思えないような力の入れようだ。

長万部駅では、まんべくんがおもてなし(筆者撮影)
長万部駅では、まんべくんがおもてなし(筆者撮影)

長万部を過ぎると函館まで一直線

車内販売で購入した珍味(筆者撮影)
車内販売で購入した珍味(筆者撮影)

 長万部駅からは長万部観光協会の関係者が車内に乗り込み車内販売を実施。筆者は、珍味とミネラルウォーターを購入し、函館までの旅のお供とすることにした。長万部―函館間は、札幌対本州の貨物列車の幹線ルートであり、一部区間では複線化が行われていることから、長万部駅を過ぎると貨物列車とすれ違う頻度が急に増えた。

 長万部―函館間では、内浦湾や駒ケ岳、大沼公園などの雄大な車窓風景を眺めながら函館駅までの2時間弱を楽しむことができた。現在、新函館北斗駅から札幌駅に向けて延伸工事の進む北海道新幹線は、その大半がトンネル区間となり、在来線がなくなればこうした車窓風景を楽しみながら、各駅でゆったりとおもてなしイベントを受けながら北海道の旅を満喫することは難しくなる。

 鉄道在来線をなくしても2次交通はバスで十分という意見もあろうが、鉄道車両はバスと比較して車体が大きいことから居住性は総じて良く、窓からの景色もよく見える。さらに昨今はバスドライバー不足が深刻化し都市部や都市間高速バスであっても減便や廃止せざるを得ない状況が生じている。タクシー業界においてもドライバー不足が深刻化していることから安易な在来線廃止はせっかく開業した新幹線駅からの2次交通を失うことにもつながりかねない。

 北海道へ旅行者は、本州以南ではなかなか見られない雄大な風景も旅の魅力として訪れる方も多いが、新幹線やバスでは味わえない、こうした鉄道在来線ならではの旅も十分に魅力的な観光コンテンツとなり得るのではないか。

函館駅に到着した特急ニセコ号(筆者撮影)
函館駅に到着した特急ニセコ号(筆者撮影)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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