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JR京葉線、通勤快速廃止は「利用者•JR」双方に不利益 混雑の平準化は、海浜幕張停車で実現できる

鉄道乗蔵鉄道ライター
京葉線を走るE233系電車(写真AC)

通勤快速廃止の発表と怒りの声

 JR東日本は3月のダイヤ改正で、千葉市の蘇我駅と東京駅を結ぶ京葉線で、朝と夕方以降の時間帯の通勤快速と快速を廃止することを発表した。京葉線の通勤快速は、千葉市中央区にある蘇我駅を発車すると途中、新木場と八丁堀の2駅のみに停車し、東京駅までを40分ほどで結ぶ。これに対して各駅停車は50分~1時間程度で蘇我―東京間を結んでいる。

 通勤快速の廃止で、これまでの利用者は、最大で20分程度、東京までの所要時間が伸びることから、地域からは「通勤時間帯に時間がかかりすぎてしまうのは困る」「JRは公共交通機関なのに市民の声も聞かずに独断で廃止を決めたのは疑問」「京葉線沿線の地価下落にもつながりかねない」などという怒りの声が噴出した。そうした中で、千葉市の神谷俊一市長、千葉県の熊谷俊人知事はともにいち早く「千葉市民・県民の生活や地域の経済活動に大きな悪影響を与えることから容認できない」と表明。

 JR東日本のダイヤ改正の発表から2週間たった12月28日、千葉市役所において千葉市の神谷俊一市長とJR東日本千葉支社の土澤壇支社長が面会。JR東日本千葉支社は、ダイヤ改正の意図について、「混雑の平準化」「各駅停車しか止まらない駅の利便性の向上」「各駅停車の所要時間を短縮すること」の3点を理由として説明したが、神谷市長は「納得できない」と断言。

 年明けには、JR東日本千葉支社は、熊谷知事にも面会。熊谷知事は「県南部の地域づくりや、幕張新都心のまちづくりに力を入れている中、変更が行われることは誠に遺憾」と伝え、通勤快速と快速を廃止しないことを強く求めるとともに、改正内容の見直しを行うように申し入れた。

 また、千葉市議会では、自民・立憲民主・共産の各会派ともに千葉市長に対して、快速廃止の見直しを求める要望書を提出。さらに通勤快速が直通するJR外房線上総一ノ宮駅のある一宮町長、千葉商工会議所会頭、幕張メッセからも「速達性を奪う暴挙」「産業振興に影響を与える」「集客に影響」といった声が挙がっている。東京ディズニーランドにとっても、入退場のピーク時間帯の快速廃止は大きなイメージダウンだろう。

通勤快速廃止は「利用者」と「JR」の双方に不利益

 ところで、今回の騒動は公共性と民間営利のせめぎ合い、利用者利便 VS 運行効率化といった見方が広まっているが、果たしてそうだろうか。

 各駅停車は通勤快速などの速達列車より所要時間が伸びることから、車両と乗務員の回転効率が下がりコスト増となる。さらに、駅への停車が増すごとに電力消費量も増える。こうしたことから各駅停車は速達列車と比較して高コストとなることは明白だ。こうしたことから、速達列車の各駅停車化は、運行が効率的になるとは言えず、利便性の低下により利用者を減らし売上を減らすことにもつながることから、利用者だけではなくJRにとっても不利益を被ると言える。

 JR東日本は「京葉線は他路線と比較してコロナ禍後の乗客の戻りが遅い」と説明し通勤快速廃止による運行の効率化に対する理解を求めている。しかし、東京駅に直通する京葉線には十分な通勤需要があり、かつ沿線には東京ディズニーランドや幕張メッセなど大規模な集客施設が立地し経営環境が恵まれていることから、京葉線が他路線よりも利用者が減る外的要因があるとは言いがたい。利用者減少の理由があるとすれば、この10年来、京葉線では通勤快速・快速の本数を減らして利便性を低下させてきたことが客離れを招いた理由にほかならない。

通勤快速・快速の停車パターン見直しで混雑の平準化は出来る

 JR東日本が言うダイヤ改正の最大目的は「混雑の平準化」だ。しかし、ラッシュ時間帯の全列車を各駅停車化しなくても混雑の平準化は可能だ。

 例えば、平日朝に京葉線の始発駅となる蘇我駅を発車する6時台の快速2本は前後の各駅停車よりも混雑している。ならば快速停車駅である南船橋駅を通過に改めることで、混雑を前後の各駅停車に分散させることで平準化できる。

 一方で、蘇我駅を7時台に発車する通勤快速2本は前後の各駅停車よりも空いている。ならば通勤快速の通過駅である海浜幕張駅を停車駅に改めることで適度に利用者が増え平準化できる。ほかの蘇我駅発8・9時台の快速2本、朝下り、夕夜、さらには土休日の朝と夕夜には許容できない混雑格差はなく、快速を各停化する理由は見当らない。

 JR東日本は「快速通過駅の利便向上と各駅停車の所要時間短縮」もダイヤ改正の目的だという。JR東日本が発表したコロナ禍前の京葉線の1日当り乗車人数は、快速停車駅である新木場・舞浜・海浜幕張の各駅が7~8万人、快速通過駅である越中島・市川塩浜・二俣新町の各駅が5,000~8,000人で10倍以上の開きがあり、東海道新幹線「のぞみ」の停車駅と通過駅と同じ傾向を示している。しかし、「のぞみ」の通過駅の利便性を向上させ各駅停車型「こだま」の所要時間を短縮するために、「のぞみ」の全列車を「こだま」化することは考えにくい発想だ。

今回を機に利用者と事業者の双方に利益を

 JR京葉線の利用者数は1日に20万人近くにも達し、関西では大阪梅田と京都河原町を結ぶ阪急電鉄京都線の利用者数に匹敵する。阪急京都線では、平日昼間には特急(無料)・準急・普通(各駅停車)が各10分おきに運行され1時間当たり18往復の電車が運行されている。

 一方のJR京葉線の平日昼間には、特急(有料)2時間おき、快速30分おき、普通15分おき、武蔵野線直通20分おきの電車が運行され、1時間当たりの運行本数は9.5往復と阪急京都線の半分程度に過ぎない。

 こうしたことから、JR京葉線の利用者は不便を強いられているといっても過言ではない。京葉線が同程度の利用者がいる阪急京都線ほどのポテンシャルを発揮できていないことは、京葉線沿線の集客施設への利用客の来訪動機を奪うこと、沿線への住民の移住や企業進出の動機を奪うことに直結し、JR東日本は売上を取りこぼしているともいえる。

 今回の騒動がきっかけとなり、JR東日本が京葉線の快速増便にかじを切り、利用者の増加、沿線の活性化、JR東日本の収益改善につながることを願いたい。

YouTubeでも1分の解説動画を出しました。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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