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観光客殺到で日中3両編成化の函館本線(山線) 増車最終日の倶知安ー小樽間乗車ルポ

鉄道乗蔵鉄道ライター
倶知安駅で発車を待つキハ201系(筆者撮影)

 2024年2月3日より、日中の函館本線(山線)の小樽―倶知安間に3両編成のキハ201系気動車が導入され話題を呼んでいることは2月5日付記事(函館本線(山線)日中の列車も3両編成のキハ201で運行へ オーバーツーリズムで乗客積み残しの懸念から)で詳しく触れたとおりだが、2月18日をもって日中の3両編成での運行はいったん終了となった。

 筆者は、日中3両運行の最終日となった2月18日、倶知安駅を11時46分に発車する小樽行に乗車したので、今回はその時の様子を紹介したい。

改札口には長蛇の列

足早に駅に向かう旅行者の姿が多い倶知安駅(筆者撮影)
足早に駅に向かう旅行者の姿が多い倶知安駅(筆者撮影)

 午前11時過ぎの倶知安駅。小樽行の発車時刻まではまだ40分以上の時間があるにもかかわらず、駅舎を外側から眺めていると大型のキャリーケースを持った外国人旅行者が足早に駅舎の中へと消えていく。駅舎の中に入ると、すでに窓口と券売機には長蛇の列ができており、券売機の前では英語が堪能な日本人ガイドの方が、外国人旅行者の方々と会話を交わしながら、切符を券売機で買うべきか窓口で買うべきか案内を行っていた。

 筆者は目的地までの乗車券を購入するために11時過ぎに窓口に並び始めたが、切符の購入が出来たのは並び始めてから30分近くが経過した11時40分近くとなっていた。この時間になると改札口の列は、駅待合室端のトイレ前まで伸び、数えたところ100名以上の乗客が小樽行に乗車するために列をなしていた。

 倶知安駅を11時46分に発車する小樽行は、倶知安駅を玄関口とするニセコリゾートエリアでのホテルのチェックアウト客が集中する列車で、1年前の冬の旅行シーズンでは、2両編成のH100形気動車での激しい混雑が常態化しており、途中の余市駅では乗客が列車に乗り切れなくなる積み残しが発生したケースもあったようだ。

 こうした状況に、JR北海道側も遂に対策を講じることとなり札幌雪まつりの開催期間で大勢の観光客が北海道に訪れる2月3日から小樽―倶知安間の午前中の一部列車を3両編成化して運転することになった。

筆者は改札例最後尾に並んだ(筆者撮影)
筆者は改札例最後尾に並んだ(筆者撮影)

倶知安駅からは全員着席で発車

100名以上の乗客を飲み込み静かに発車を待つキハ201系(筆者撮影)
100名以上の乗客を飲み込み静かに発車を待つキハ201系(筆者撮影)

 列車の発車時刻が近づき改札が開始されると、大勢の乗客は雪崩れるようにホームへと向かう。なお、倶知安駅の駅員は改札と切符の販売を行う出札を1人で行っていることから、改札中は窓口に並んだ乗客を待たせたまま切符の販売は一旦中断していたようだった。

 100名以上の乗客は、ホームにつくとあっという間に3両編成のキハ201系に飲み込まれ全員が着席する。キハ201系は通勤型のロングシート仕様であることから通路幅が広く、大型のキャリーケースを持った乗客が多く乗車しても、室内には十分に余裕があるようであった。乗客を数えたところ各車両40名弱で3両全体では約110名が乗車していた。これが普段使用されているH100 型だと1両の座席数が36席しかないことから、2両編成の72席では倶知安駅発車時点で40名近い立ち席客が出る上、大型のキャリーケースで車内はかなりの圧迫感を感じる状態となっていただろう。

 列車は、定刻通りに倶知安駅を発車すると、次の小沢駅で2両編成のH100形と離合。稲穂峠を越え、銀山、然別、仁木と停車し、大勢の乗客が待つ余市駅へと到着した。倶知安から乗車していた乗客のうち、外国人旅行者を含めて10名以上の下車があったことは意外な発見であった。おそらく、倶知安に滞在している旅行者が余市のニッカウヰスキーの工場見学のために山線を利用したものと考えられるが、山線はこうした観光客の回遊にも十分な役割を発揮している一端が垣間見えた。なお、倶知安―余市間の所要時間は45分だ。

 余市駅からはさらに大勢の乗客を飲み込み、3両編成のキハ201系でもそれなりの立ち席客が出る状態で、小樽に向けて発車する。そして、列車は蘭島、塩谷へと停車し小樽駅には12時55分に到着。余市駅からの所要時間は24分、倶知安駅からの所要時間は1時間9分であった。なお、小樽駅では、倶知安方面から乗車してきた乗客のうち少なくても30名程度の大型のキャリーケースをもった旅行者が、新千歳空港行の快速エアポート号には乗り継がず、小樽駅の改札口を抜け小樽の街へと消えていった。

余市駅で列車の到着を待つ乗客(筆者撮影)
余市駅で列車の到着を待つ乗客(筆者撮影)

本当に廃止できるのか

車内の様子(筆者撮影)
車内の様子(筆者撮影)

 函館本線の山線区間である小樽―倶知安―長万部間は、2030年度に開業が予定される北海道新幹線の札幌延伸開業に伴いJR北海道からの経営分離が確定している路線である。これを受けて北海道庁が主導する並行在来線対策協議会では、密室の協議で強引に全線の廃止を決めてしまった。さらに倶知安町長は在来線が新幹線新駅の整備に支障をきたすという理由で函館本線山線の2025年での廃止を主張している。

 しかし、昨今、深刻化するバスドライバー不足から沿線にバス路線網を展開する北海道中央バス、ニセコバス、道南バス3社は鉄道代替バスの引き受けが難しいとしてバス転換協議が中断に追い込まれた。

 新幹線が出来ればこうした外国人旅行者は全て新幹線に流れるという楽観論も聞こえるが果たして本当にそうであろうか。まず、バスドライバーが不足している中で、こうしたドライバーを鉄道代替バスに振り分けてしまえば、倶知安駅を玄関口とするニセコリゾートエリアへの2次交通としてのバス便を確保できなくなる懸念がある。さらに北海道新幹線の新小樽駅も小樽市の町はずれに建設されることからバスによる2次交通の確保が必須となるが、こちらのバス便の確保も難しくなるだろう。

 また、倶知安―余市間や倶知安―小樽間でも一定の旅行者の利用が見られることが今回の乗車で明らかになったことから、新幹線の倶知安駅をハブに観光客の回遊性を考えた場合にも在来線を活用したほうが地域経済活性化の上では有用だ。これがバスに転換された場合には、所要時間が鉄道在来線の2倍程度にのびること、ドライバー不足の影響からバス路線そのものがいつまで維持できるのか不透明という問題が生じることから、新幹線の経済効果を地域に波及させることを考えた場合には適切な2次交通とは言えないだろう。

 それでも倶知安町長は2025年での山線廃止を主張されているようであるが、この状態で鉄道を廃止してしまえば、地域社会に大きな混乱を与えかねないだろう。

小樽駅に到着したキハ201系(筆者撮影)
小樽駅に到着したキハ201系(筆者撮影)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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