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蔵王の絶景に迫る危機!樹氷が語る地球温暖化の真実

TOUYA化学系研究者

 蔵王の樹氷、別名「アイスモンスター」と称されるこの自然の造形美は、冬の蔵王を象徴する風景の一つです。しかし、この壮大な自然現象が、地球温暖化という現代の危機に直面しています。かつてない脅威が、蔵王の冬景色を変えようとしているのです。

樹氷の仕組み

 樹氷は、風で運ばれた雲粒などの過冷却水滴が物体に衝突して凍結したもので、一定の方向から風が吹き続けることによって、風上に向かって伸びていきます。

樹氷からアイスモンスターへ

 樹氷に雪も加わり、両者が固結して一体化し、着氷と雪片でおおわれて巨大な雪の塊に成長します。そして、その重みで前かがみになり、アイスモンスターが出来上がります。

 この自然の彫刻は、-10度から-15度の平均気温、一定の風向きからの風速10~20 m/s、そして適度な降雪という特殊な環境条件下でのみ形成されます。

蔵王連峰はこれらの条件に最適な場所であり、常緑針葉樹がこの現象の形成に不可欠です。針葉樹の細かい葉は空気中の水滴を捉えやすく、結果として巨大な「モンスター」のような形状が出来上がります。

樹氷の危機

①ガの幼虫が樹氷に及ぼす影響

 この驚異的な自然現象は現在、その存続が危ぶまれています。蔵王の常緑針葉樹「アオモリトドマツ」がトウヒツヅリヒメハマキというガの幼虫による食害を受け、続いてトドマツノキクイムシによる被害が発生しました。これにより、地蔵山頂駅周辺には枯れた木々が広がり、樹氷の未来に暗い影を落としています。

②地球温暖化が樹氷に及ぼす影響

 地球温暖化の影響による気温の上昇で、ガやキクイムシが活発化したとも言われています。また、樹氷が形成される標高は、気温が1度上昇すると50メートル高くなり、蔵王の樹氷分布面積は縮小傾向にあります。現在、アオモリトドマツの苗木植樹による再生プロジェクトが進行中ですが、完全な回復には長い時間が必要とされています。もし現在の温暖化傾向が続けば、アオモリトドマツが成長する頃には樹氷を目にすることができなくなるかもしれません。

神秘のアイスモンスターを見に行こう!

 蔵王の樹氷、特に1月下旬から3月上旬にかけての見頃には、多くの観光客がこの自然の美しさを目撃しに訪れます。樹氷は「山形蔵王」と「みやぎ蔵王」のどちらからもアクセスが可能で、それぞれ異なる体験ができます。

 「山形蔵王」へは、JR山形駅から路線バスとロープウェイを乗り継いで行きます。ロープウェイが混雑していますが、並べば誰でも樹氷を見に行くことができます。樹氷のライトアップや雪上車による夜間ツアーも開催されています。

(2024年1月中旬の山形蔵王)

「みやぎ蔵王」へは、完全予約制の雪上車で樹氷原へ向かえるので、混雑が苦手な方はこちらがおすすめです。

(2024年1月中旬のみやぎ蔵王)

 蔵王の樹氷を訪れる際には、その背後にある科学と環境への影響を思い浮かべながら、その一瞬一瞬を大切にしましょう。そして、将来世代も同じ美しい光景を目にできるよう、私たち一人ひとりが環境保護に対して意識を高め、行動を起こすことが求められています。

化学系研究者

東京工業大学大学院の修士課程を卒業後、化学メーカーの研究者として従事。研究成果がメディアに取り上げられた経験有り。化学に関連する記事を書いています。

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