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低花粉スギへの植え替えは45,000年かかる!?花粉症との戦いを終わらせるためには?

TOUYA化学系研究者

 花粉症は日本だけではなく、世界中で多くの人々が苦しんでいる症状ですが、特に日本ではスギやヒノキ花粉によるアレルギーが多いという特徴があります。では、なぜ日本ではこれほど花粉症が問題となっているのでしょうか。

日本におけるスギ・ヒノキ林の増加の背景

 戦後の日本では、急速な経済成長と木材需要の増加に応えるため、成長が早いスギやヒノキが大量に植えられました。しかし、50年が経過して木材としての利用時期を迎えた頃には、木造建築の文化はほとんどなくなったため木材の需要が減少、また安価な輸入木材の普及もあり、国内での伐採量が減少しました。結果として、スギやヒノキが成長し続け、花粉の量も増加したという背景があります。

 そんなスギとヒノキですが、NPO花粉症・副鼻腔炎治療推進会によると、日本の約18%はスギとヒノキだということです。あまりの多さに絶望してしまいますね。。

日本におけるスギ林の面積はおよそ450万ha、ヒノキ林の面積が250万haにもおよび、日本の総面積の18%がスギとヒノキでおおわれていますs。NPO花粉症・副鼻腔炎治療推進会

 東京都は2005年と2017年に花粉症対策を推進しており、花粉の少ない森づくり運動により、毎年花粉の少ないスギに植え替える活動を行っています。しかしながら現状としては、1年に100haしか植え替えていないので、このペースだと日本の全スギを植え替えるのには4万5千年かかる計算です。現在のペースを1000倍にしても45年かかるので、まだまだ花粉症とは付き合うことになりそうです。このように我々の世代では改善しないかもしれませんが、少子化対策と同様に未来のために頑張ってる人は応援したいです。

花粉が全く出ないスギとは?

 科学分野でも花粉症対策の活動はしっかし行われています。国立研究開発法人森林総合研究所では、CRISPR/Cas9技術を用いた画期的な研究が行われており、花粉を生成しない無花粉スギの開発に成功したとのことです。

スギの花粉形成に関係すると予想された遺伝子(CjACOS5遺伝子)をゲノム編集技術で壊した結果、花粉を作らない無花粉スギになりました。国立研究開発法人森林総合研究所

 CRISPR/Cas9技術は、2020年にノーベル化学賞を受賞した画期的なゲノム編集手法です。この技術により、DNAの任意の箇所に特定の遺伝子を挿入したり除去したりすることが可能になります。この技術を活用することで、スギの花粉を生成する遺伝子を削除することで、花粉を出さないスギを作出することができます。我々人間も髪の色、目の色、肌の色だけでなく、病気のなりやすさもDNAによって決定されているため、理論上は「薄毛になりやすい遺伝子」や「がんになりやすい遺伝子」を除去して問題を解決することも可能です。ただし、人間においては倫理的な問題からこの技術の活用は困難なのが現状です。

 このような素晴らしい技術と国のお金で、ぜひ我々が生存している間に花粉の出ないスギに置き換わることを切に願っています。

化学系研究者

東京工業大学大学院の修士課程を卒業後、化学メーカーの研究者として従事。研究成果がメディアに取り上げられた経験有り。化学に関連する記事を書いています。

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