容量100TB!?史上最高精度の最新宇宙シミュレーションが公開される
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「史上最高精度の宇宙シミュレーション」というテーマで動画をお送りしていきます。
宇宙の大規模構造
宇宙は数億光年以上という非常にマクロなスケールで見ると、銀河が集まった場所と、何もない場所ではっきりと分かれて分布していることがわかっています。
この銀河が集まった網の部分が「銀河フィラメント」、そして何もない巨大空間が「ボイド」と呼ばれています。
そしてこのようなマクロなスケールでの宇宙の網目構造を、「宇宙の大規模構造」と呼びます。
しかし、宇宙はなぜこのような構造をしているのでしょうか?
それは現在のところ宇宙が誕生した頃に起こった「密度ゆらぎ」が原因だと言われています。
密度ゆらぎとは物質の密度のむらのことです。
最初期の宇宙は、物質がほぼ均質に存在していたものの、わずかな密度のむらがあったと考えられています。
密度のむらは重力の不安定性を生み、密度が高く、質量がわずかに大きな領域にむかって物質はゆっくりと引き寄せられます。
すると重力の不安定性もさらに高くなります。
それが繰り返されることで高密度の領域に物質が集まり、低密度の領域はさらに物質が少なく、現在のボイドのような空間が作られていったというわけです。
宇宙の進化とダークマター
さらに先述の大規模構造の形成を主導したのは、通常の物質ではなく、ダークマターであると考えられています。
私たちが知る通常の物質は、中性子と陽子を含む原子核から成る物質です。
中性子も陽子も、クォークと呼ばれるより小さい粒子が3つ集まって形成されています。
このようにクォークが3つ集まってできた粒子は「バリオン」と呼びます。
陽子も中性子もバリオンなわけですが、
これらが集まってできる私たちが知る通常の物質も、まとめてバリオンと呼ばれることがあります。
ですがこれまでの観測から、実はこの宇宙にはバリオン以外に、その全質量の5-6倍もの総質量に匹敵する、「ダークマター」と呼ばれる物質が存在していると考えられています。
現在の科学ではダークマターを直接観測することはできず、その正体も謎ですが、質量を持ち、重力的な影響を及ぼします。
バリオンの何倍も総質量が大きいダークマターの重力的な影響は非常に強く、先述の宇宙の大規模構造が形成されるまでの「宇宙の進化」においても、このダークマターが主要な役割を果たしていると考えられています。
まずダークマターがその重力によって「ハロー」と呼ばれる巨大な塊を形成し、そのダークマターハローの重力によってバリオンが集まり、恒星や、銀河や銀河団などを形成したと考えられています。
このように、ダークマターが通常の物質バリオンを先導した形で大規模構造が形成され、宇宙は進化してきたんですね!
宇宙の進化を再現
宇宙の進化の大きな流れとしては先述のように考えられていますが、その詳細なプロセスについては天文学の分野の中でも大きな謎の一つとなっています。
その謎を解明するために実際に遠方の宇宙の観測が行われていますが、観測データからより多くの情報を得たり、観測データを検証するためには、コンピュータを用いて宇宙の進化をシミュレートする必要があります。
大規模構造の形成のシミュレーションでは、ダークマターを構成する粒子を表現し、その重力的な作用を計算によって再現する必要があります。
宇宙の進化の再現においては、シミュレーションが宇宙の広範囲を表現しているほど、そして細かい構造を再現するためダークマターの構成粒子の質量を小さく設定しているほど、より正確な再現が可能になります。
ですがそれには膨大な計算が必要となるため、これまで世界中で行われてきたシミュレーションでは、再現された空間の体積が大きいことと、ダークマターの構成粒子の質量が小さく細かいことのどちらかの要素が不足していました。
史上最高精度の再現シミュが登場!?
そんな中、千葉大学などの国際研究チームは、国立天文台のスーパーコンピュータである「アテルイII」を用いて、ダークマターによる宇宙の大規模構造形成シミュレーションを史上最高精度で行うことに成功しました!
今回のシミュレーションでは十分に小さいダークマターの構成粒子単位を実に2兆1000億個表現し、一辺96億光年という非常に広い空間を再現することに成功したようです。
完成したシミュレーションの元のデータはなんと3PB(1TBの3,000倍)にも及び、圧縮後でも100TBもあるようです!
こちらはシミュレーションによって得られた、ある質量帯に対する、ダークマターハローの個数の時間変化を示したグラフです。
横軸がダークマターハローの質量、縦軸はダークマターハローの数、そして青と赤のグラフは、それぞれ現在の宇宙の状況と130億年前の宇宙の状況を示しています。
例えば矮小銀河クラスの質量を持ったダークマターハローは、130億年前から現在とほぼ変わらないほど存在していたことが示されていますし、灰色の天の川銀河サイズのハローでも、130億年前からかなりの数が存在していたことが見て取れます。
このことから、130億年前からすでに天の川銀河やアンドロメダ銀河サイズのかなり巨大な銀河が既に存在し、その中心には超大質量ブラックホールも存在していたことがシミュレーションによって示唆されていることになります!
また、初期宇宙に存在した銀河の一部が、銀河団などより巨大な天体へと進化した可能性がありますが、それを実際の観測で確かめることは困難です。
ですがシミュレーションを用いれば、そのような天体の進化を疑似的に再現することができ、進化のプロセスの理解に役立つことも期待されています。
宇宙の歴史を再現したシミュレーションは、まさに実際の宇宙の歴史を理解することにも大いに役立つというわけですね!