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ハッブル宇宙望遠鏡が「単独で存在するブラックホール」を史上初観測!

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「孤立した恒星ブラックホールを史上初観測」というテーマで動画をお送りしていきます。

2022年1月31日とつい先日、ハッブル宇宙望遠鏡によって「恒星と連星を成さず単独で存在する恒星ブラックホール」が史上初めて発見されたと発表がありました。

この発見の何が凄いのか、今回は解説していきます。

●ブラックホール自体は光を放たない

ブラックホールは一般的に太陽の30倍より重い超大質量の恒星が一生を終える際、星の核が自身の重力によって中心の1点に向かって際限なく押しつぶされる事で形成されると考えられています。

Credit:Sandstorm de
Credit:Sandstorm de

ブラックホールの中心にあり、ブラックホールの全質量がそこに集中していると考えられている体積0の1点は、特異点と呼ばれています。

そんな特異点の周りでは重力が極めて強く、そこから脱出するために必要な速度(脱出速度)が光速を超えています。ですが特異点から離れるほど重力が弱まり、脱出速度が光速と等しくなる境界面が、事象の地平面と呼ばれています。

ブラックホールの事象の地平面の内部領域や、特異点で何が起こっているのかは本当に気になるところですが、残念ながら現在の枠組みでは、それらを知ることは永遠にできそうもありません。

なぜならこの宇宙で物質が出せる速度には光速という上限があるためです。

これは観測から得られた明確な事実であり、アインシュタインの相対性理論もこの光速度が不変であるという事実をもとに成り立つ理論となります。

光速が不変である以上、脱出速度が光速度を上回るほど重力が強くなっている事象の地平面の内部に一度でも入ると、そこからはあらゆる物質も光も情報も出てくることはありません!

なのでブラックホールの内部は完全に一方通行の世界です。

このような理由からブラックホール本体(事象の地平面以内)から光が放たれることはありません。

そのため、そのような光を観測してブラックホールの存在を明らかにすることもできません。

●どのように観測されるのか?

先述の通りブラックホール本体は光を放ちませんが、これまでにブラックホールの候補天体の観測例は多数あります。

ではこれらのブラックホール候補天体はなぜ観測できたのでしょうか?

それはブラックホールの周囲に形成される「降着円盤」や「宇宙ジェット」が、非常に高温のために強力なX線やガンマ線を放っているため、これらを観測することができるからです。

降着円盤は、ブラックホールの周囲にガスなどの物質が存在する時、それらを強力な重力で自身の周囲を超高速で公転させ、発生した摩擦熱によってまばゆく輝くために形成される円盤状の構造です。

また宇宙ジェットは、降着円盤を構成する物質が円盤から事象の地平面の内部に入る前に、ブラックホールの両極に伝わっていき、亜光速で宇宙空間へ放たれる現象です。

このようにブラックホール観測の手掛かりとなる降着円盤や宇宙ジェットといった構造は、ブラックホールの周囲に大量の物質がないと形成されません。

そのため周囲に物質があまり存在しない場所にあるブラックホールは、地球から観測することが極めて難しいんですね。

実際、「恒星ブラックホール」と呼ばれる、ブラックホールの中でも最も軽い部類のブラックホールは、通常の恒星などと連星を成し、相方の天体からガスを奪うことで強力なX線を放っているものしか発見されたことがありませんでした。

●単独で存在する恒星BHを初観測!?

そんな中2022年1月31日とつい先日、ハッブル宇宙望遠鏡によって、地球から天の川銀河中心部方向約5150光年彼方に、「単独で存在する恒星ブラックホール(以下新発見のBH)」が史上初めて発見されたと発表されました。

天の川銀河内には1億もの恒星ブラックホールが存在し、その大半は新発見のBHのように単独で存在していると考えられています。

そんな大量に存在するはずの仮説上の天体を、今回初めて発見することに成功しました。

当然新発見のBHは周囲に物質が存在せず、降着円盤も宇宙ジェットもないため、直接観測することはできません。

今回このBHを発見したのは、「重力マイクロレンズ効果」という現象のおかげでした。

Credit: ESA/Hubble & NASA
Credit: ESA/Hubble & NASA

重力レンズ効果とは、特に質量が大きい天体の周囲の空間が強大な重力によって歪められている影響で、その天体の背後にある天体から地球にやってきた光が歪んで見えたり、通常よりも明るく見えたりする現象です。

重力レンズ効果が起こると、本来地球に届かなかった光まで進路が歪められて地球に届くようになるので、本来よりも多くの光が届き、背後の光源の天体はより明るく見えます。

表示中の画像は非常に質量が大きい銀河の重力によって、その背後の銀河の姿が歪んで見えていますが、このような重力レンズ効果はさらに質量が軽い天体でも発生し、特に「重力マイクロレンズ効果」と呼んでいます。

この宇宙のどこかを漂う孤立した恒星ブラックホールと、その背後にある天体との位置関係が、地球から見て完全に一致したとき、地球から背後の天体の光が瞬間的に明るく見えます。

Credit:Kailash et al. (2022)
Credit:Kailash et al. (2022)

この重力マイクロレンズ効果による背後の天体の瞬間的な増光を観測できたおかげで、その前を横切った今回のBHの存在が明らかになった、というわけですね!

具体的には2011年に地球から2万光年彼方にある恒星が突然明るくなったことで、今回のBHの存在が示されました。

そこから今年に至るまで、数々の分析が行われたんですね。

背後の天体の増光のデータから、今回のBHの質量は太陽の約7.1倍であると考えられています。

さらにその周囲の星々の平均の速度と比べて45km/sも異なる速度で移動していると見られることから、このBHが誕生した際に起きた超新星爆発の影響で吹き飛ばされ、現在のように孤立したまま宇宙を漂うに至ったと考えられています。

ただし別のチームの研究によると、このBHとの距離や質量、速度などのパラメータが異なる結果が得られているそうなので、より詳細な情報を得るために、さらなる分析が求められています。

続報に期待です!

またつい先日、「今から100日後に衝突する可能性のある超巨大ブラックホール連星系」が発見されたと発表されました。

以下の動画で解説しているので、今回の関連でぜひ併せてご覧ください。

https://inspirehep.net/literature/2023058
https://arxiv.org/abs/2202.01903
https://www.space.com/rogue-black-hole-isolated-discovery

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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