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氷河の地下1kmで発見された幅31kmの超巨大クレーターがヤバイ

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「氷河の下で発見された超巨大クレーターと新事実」というテーマで動画をお送りしていきます。

●氷の下での大発見

NASA's Scientific Visualization Studio
NASA's Scientific Visualization Studio

2018年11月と比較的最近、グリーンランドのハイアワサ氷河の900m地下で、幅31kmにもなる巨大なクレーターが発見されたと発表され、大きな話題を呼んでいました。

このような分厚い氷に穴をあけ、直接地下を調べることはできませんが、氷の上から内部に向けてレーダーを放ち、その反射の特徴を調べることで、氷の内部の層状や、その下の岩盤に至るまで、高精度のデータを得られます。

Credit:Kurt et al. (2018)
Credit:Kurt et al. (2018)

こちらは実際のレーダーでの観測で得られた結果です。

緑色の部分は黄色や赤色の部分と比べて標高が低いですが、深さ320m、幅31kmにもなる巨大な円形の窪地がハッキリと現れています。

さらに、天体衝突によるクレーターでは、その周囲が盛り上がっている場合があります。大規模な衝突だと、盛り上がりはクレーター中心部にも見られることがあります。

レーダー観測の結果、クレーターの周囲と中心部に盛り上がった形が見受けられるため、このこともこの地形がクレーターであるという説を裏付けています。

Credit:Kurt et al. (2018)
Credit:Kurt et al. (2018)

さらに研究チームは現地に赴き、氷河の縁の部分の堆積物を集めました。

この堆積物は氷河の底、つまりクレーターの一部が流出しているものなんだそうです。

その結果、堆積物には強い衝撃を受けた痕跡や、高温に晒された痕跡など、天体衝突が起きた場合に発見される物質が残っていることが判明しました。

このことから、氷河の下の窪地がクレーターであることが確定的となっています。

さらに堆積物の組成から、クレーターを形成した隕石がどのような天体だったのかを推定することができました。

この地域の他の岩盤と比べると、クレーター部分には鉄やニッケルが多く含まれており、隕石もそのような物質を多く含む鉄隕石だったと見られています。

さらにクレーターの大きさも加味して、衝突した鉄隕石は直径が約1.5kmにもなり、秒速20kmという凄まじい速度で地表に衝突したと考えられています。

●形成された年代は?

○以前の推定年代

では、このハイアワサクレーターはいつ頃形成されたのでしょうか?

これほど大規模な衝突は地球環境全体にも影響を及ぼした可能性があるため、その年代を特定するのは非常に重要な作業となっています。

氷河に覆われたクレーターが形成された年代を特定するのは非常に難しい作業です。

例えばクレーターは氷河によって浸食されますが、その浸食度合いによって形成年代を推定する考えがあります。

ですがそうして得られた推定値は今から5000~5000万年前と非常に幅が広く、具体的な年代を絞り込めていません。

他にも手掛かりはあります。

かつてこの地域は温暖で、当時流れていた川の跡が氷河の下の岩盤に残っています。実は川の跡は、クレーターの部分で途切れています。

つまりクレーターは川ができた後に形成された可能性が高いのです。

Credit:Kurt et al. (2018)
Credit:Kurt et al. (2018)

そしてもう一つ有力な手掛かりが、「氷河の層」です。

氷河の内部をレーダーで観測すると、その内部でどのような氷の層が重なっているのかを理解できます。

クレーター付近の氷河の内部を様々な地点で観測したところ、なんとクレーターのすぐ上の部分にしか存在しない、レーダーではごちゃごちゃして見える、特殊な層が発見されたようです。画像のE,Gに含まれています。

このクレーターのすぐ上の部分にしか存在しない特殊な氷の層は、クレーターができて間もない時に、外部から流れ込んできたものであると考えられています。

つまりクレーターのすぐ上の特殊な層の、さらにすぐ上にある氷河の層は、少なくともクレーターが形成された年代よりも後に形成されたものであると考えられます。

特殊な氷の層のすぐ上の氷の層ができたよりは前に、そして氷河の底の岩盤に残る川の跡ができたよりは後にクレーターが形成されたと考えられることから、クレーターの形成年代は今から1.2万年~260万年前であると推定されました。

仮にこの推定が正しければ、地球の歴史で言えば非常に最近起きた衝突現象であり、人類も衝突の現場を目撃していた可能性があります!

○最新の推定年代

そんな中、2018年に発表を行ったのと同じチームが、2022年3月9日とつい先日、ハイアワサクレーターの形成年代の推定値が大幅に書き換わったと発表し、大きな話題を呼んでいます。

2019年に研究チームが再び堆積物を求めてクレーターの縁の部分を訪れたところ、クレーターを形成させた巨大な天体衝突の痕跡が残った、こぶし程度の大きさの岩が発見されたそうです。

Credit:Gavin et al. (2022)
Credit:Gavin et al. (2022)

研究チームはこの岩から、ジルコンと呼ばれる鉱物の結晶を複数個得ました。

ジルコンには、形成する際その結晶中にウランを取り込みやすく、鉛を取り込みにくいという特徴があります。

ウランは不安定な放射性物質であり、最終的に安定的な鉛へと変化します。

つまりジルコンに含まれるウランと鉛の比から、ジルコンを含む岩が形成された年代、つまりは隕石衝突が発生した年代が非常に正確に計算できます。

研究チームは28個のジルコン結晶の分析から、隕石衝突が発生したのは今から約5800万年も前であるという情報を得ることができました。

1.2万年~260万年前という以前の推定値と比べると、かなり昔に起きたことがわかります。

以前の推定値を求める際に利用された、クレーターのすぐ上の部分にしか存在しない特別な氷の層については、現在では隕石衝突と直接の関連はないと見られているようです。

最新の推定値から、ハイアワサクレーターを形成した天体衝突現象は、今から約5500万年前に地球全体の平均気温が5-9度も上昇したとされる、「暁新世-始新世温暖化極大」と呼ばれる現象の原因となった可能性が指摘されています。

ただし、現時点ではそのような証拠はなく、今後の研究によってこれらの関連性が解明されることに期待がかかっています。

氷河の地下深くに眠っていた巨大クレーターと、それが形成された年代を求めるための研究。

普段あまり紹介しない話題でしたが、このあたりの分野も非常に面白いですね。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aar8173
https://arstechnica.com/science/2018/11/huge-previously-unknown-impact-crater-found-beneath-greenlands-ice/
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abm2434
https://www.science.org/content/article/impact-crater-under-greenland-s-ice-surprisingly-ancient

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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