史上初の映像化に成功!常軌を逸した物質「時間結晶」とは何か
どうも!科学ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「世界初!時間結晶の振動を映像化することに成功!」というテーマで動画をお送りしていきます。
2021年、ポーランドにあるアダム・ミツキェヴィチ大学の研究チームが、時間結晶が振動している様子を撮影することに成功しました。
走査型透過X線顕微鏡とよばれる特殊な顕微鏡を用い、毎秒最大400億フレームという非常に速いシャッタースピードで撮影しています。
この映像は、時間結晶が周期的に磁化構造を波打っている様子を表しています。
今回撮影された時間結晶が、どのように生成されたのかについては、非常に難解な知識が必要となるため、この動画では、「時間結晶」とはどのような概念なのかについて、深掘りしていきます。
時間結晶は、2012年にマサチューセッツ工科大学のウィルチェック教授がその存在について提案しました。
ウィルチェック教授は、2004年にノーベル物理学賞を受賞した有名な物理学者ということもあり、そのテーマは世界中の多くの科学者の関心を集め、活発に研究が行われました。
身の回りにある氷や金属などの結晶では、分子や原子が自発的に一定の間隔を空けて周期的に並び、格子状の構造を形成しています。
この周期性を時間軸方向にも拡張した物質が時間結晶です。
つまり、自発的に原子の位置や物性などの物理量が時間軸で一定の間隔で繰り返すような物質の存在について問題提起されたのでした。
通常の結晶は、我々の身の回りに多く存在し、学術研究としても利用されます。
もし時間結晶が存在すれば、規則的な原子配列を利用するだけでなく、時間軸での規則性も利用できる新たな応用研究への発展も期待できます。
ウィルチェック教授は、なぜこのようなものを想像したのでしょうか?
自由な空間上では、通常どの位置でも物理的特徴は均一です。
しかし、結晶中では原子のない格子の中と原子のある格子点では環境が異なります。
このように物理的な特徴が空間的に均一でない状態を対称性の破れと物理学者は呼んでいます。
結晶では格子点が一定間隔ごとに並んでいるので、完全に空間的に不均一というわけでなく、ある点も隣の格子では同じ環境であるため、とびとび(離散的)で空間対称性は存在します。
通常の結晶は連続的空間対称性(どの部分をとっても対称的な状態)から離散的空間対称性(とびとびで対称的な状態)に自発的に変化したものとして理解されます。
時間は一様に流れており、特にどの時刻が特別ということはなく連続的な時間対称性があります。
ウィルチェック教授は、時間でも同様に、「連続的対称性から離散的な対称性に自発的に変化する物質」が存在するのか、また、この物質を作ることは果たして可能なのかと考えたのでした。
一見、摩擦のない振り子や重りを付けたバネも時間的に繰り返し構造を持っているので、時間結晶のように思われますが、これらは時間結晶の「自発的に離散的な時間対称性になる」という条件を満たしていません。
時間結晶は、まるで電池がなくても勝手に規則正しくカチッカチッと時を刻む時計のようなものです。
他には、周りに磁場の変化がないのにも関わらず、磁石のN極とS極が勝手に1秒ごとに入れ替わるようなものです。
前者の例は針の位置が、後者は電子のスピンの向きが一定時間間隔ごとに同じ構造を繰り返しています。
果たして時間結晶は存在するのでしょうか?
2015年カリフォルニア大学バークレー校博士課程の渡辺氏と東京大学物性研究所の押川教授は、この時間結晶を数学的に定義し、エネルギーが一番低い状態に落ち着いた条件では時間結晶が存在しないことを証明しました。
渡辺氏はもともと宇宙の空間対称性について研究していましたが、博士課程の最初の口頭試験で「時間結晶は存在するのか?」と問われたそうです。
その時、答えることができませんでしたが、興味を持ち、その後、押川教授と「時間結晶が存在しない」という証明に至ったそうです。
しかし、ここには抜け道があり、あくまでエネルギー的に落ち着いているという条件が付きます。
そこで多くの研究者が周期的な外力を加えて、エネルギー的に落ち着く前の状態でこの時間結晶を作ることに取り組みました。
そして2017年にいくつかの研究グループにより時間結晶の成功がNature誌に報じられました。
これらの時間結晶は当初ウィルチェック氏が想定した自発的に生まれる時間結晶という概念とは少し違います。
しかし、同様の時間的性質があるため、応用面として注目されています。
また学術的にも興味深く、量子の集まりがエネルギー的に落ち着いていない状態の学問はまだわからないことも多いのですが、時間結晶はシンプルな構造のため、その研究対象としても注目されています。
これまでに分かっている時間結晶の作成には量子の集まりに電磁場などの周期的外力を加えること、また、量子間に無秩序な相互作用を与えることが重要な要素だと分かっています。
これにより外力の周期とは別の一定の周期でスピンなどの量子全体のふるまいが安定して振動することが観測されています。
これは例えるならば縄跳びで腕を2回回したのにロープが1回しか回らないようなものです。
当初、ウィルチェック教授の考えた時間結晶ではひとりでにロープが回る概念でしたので、少し弱めに時間結晶と考えられています。
しかし、これらの時間結晶は通常ランダムに相互作用して秩序を乱すものから安定性を引き出すため、量子コンピューターの壊れやすい量子ビットの保護に時間結晶の利用が期待できます。
最近では、室温で駆動する時間結晶や長時間安定した時間結晶などより実用的な時間結晶が開発されており、近い将来、時間結晶を使った電子機器が皆さんの身の回りに現れるかもしれません。