新・宇宙最大ブラックホール候補「Phoenix A」がヤバすぎる
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「宇宙最大のブラックホールの候補天体」というテーマで動画をお送りしていきます。
●活動銀河核と超巨大ブラックホール
地球から観測可能な宇宙には、実に2兆個もの銀河が存在していると考えられています。
そんな銀河の中心部(銀河核)の明るさは銀河によって大きな差があります。
銀河核の明るさは、銀河の中心に存在する巨大なブラックホールがどれだけ周囲にある物質を刺激し、活発に活動しているのかに依存します。
ブラックホールが大きいほど、そしてその周囲の物質が豊富であるほどブラックホールは活動的になり、銀河核は明るくなります。
例えば天の川銀河の中心にあるブラックホールいて座A*は、銀河の中心部にあるブラックホールとしてはそこまで大きくない上に周囲に物質が少なく、活動が大人しいため、天の川銀河の銀河核は暗い部類です。
反対に銀河の中心に存在するブラックホールが周囲の大量の物質を刺激している場合、その銀河の銀河核は活動的で明るく輝きます。
そのような明るい銀河核は、「活動銀河核」と呼ばれます。
活動銀河核はとてつもなく明るく輝き、中心のブラックホールの周囲の構造のみで、その周囲の銀河を構成する何億もの星々の明るさの合計をはるかに上回ってしまうほど明るいものも少なくありません。
銀河核にあるブラックホールは大きいほど活動的になりやすいので、活動銀河核では特に超巨大なブラックホールが見つかりやすいのです。
●観測史上最大のブラックホール
それではこれまでに発見された中で最も巨大なブラックホールはなんでしょうか?
特に有名なものとして、「TON 618」というブラックホールが挙げられます。
TON 618は地球から104億光年も彼方にある、クェーサーに存在しています。
クェーサーは先述の活動銀河核のうち、特に明るい分類の銀河核です。
その桁違いの明るさから、「宇宙一明るい天体」と表現されることもあります。
TON 618の質量はなんと、太陽の660億倍にもなります!
天の川銀河の中心にあるいて座A*ですら太陽の約430万倍なので、その15000倍も重いということになります。
本当に桁違いです…
そしてこれは僕も最近知ったのですが、実は質量の推定値がTON 618を凌駕する、観測史上最大のブラックホールの候補がまた別に存在していました。
それは地球からほうおう座の方向に約59億光年彼方にある「ほうおう座銀河団」の中心部に存在するとされる超大質量ブラックホール「Phoenix A」です。
ほうおう座銀河団の中心銀河の核も、やはり活動銀河核とされます。
Phoenix Aの質量の推定値は、なんと最低でも太陽の1000億倍もあるそうです…!
もはや例えようもないほど巨大なブラックホールですね。
ブラックホールの本体といえば一般的には、脱出速度が光速と等しくなり、そこを一度でも超えると光でさえ絶対に出て来られなくなる領域である、「事象の地平面」以内のことを指します。
事象の地平面の半径はブラックホールの持つ質量に比例するので、今回紹介したとてつもない質量を持つブラックホールは、事象の地平面もとてつもなく巨大です。
TON 618の場合、地球の109倍の半径を持つ太陽のさらに18倍の半径を持ついて座A*の、さらに15000倍の半径を持っています!
kmにすると約2000億で、太陽系の付近で並べると冥王星など太陽系の外縁部に存在する天体の公転軌道すらも全て容易にのみこんでしまうほど、余りに巨大です。
Phoenix Aの場合約3000億kmで、TON 618の1.5倍巨大です!
銀河の周囲に巨大円盤を構築し、そこから中心のブラックホールに大量の物質が流れ込んで成長していくという過程には、ブラックホールの成長の上限があるとされています。
この成長過程における理論上の質量上限が、大体太陽の500億倍程度の質量らしいです。
なので、今回紹介したブラックホールは理論上の限界を超えており、これを遥かに凌駕するブラックホールは中々存在しなさそうです。
ですがこの宇宙には、超巨大なブラックホール同士が合体したり、原始ブラックホールが絡んだまた別の過程などにより、円盤による成長の質量限界を遥かに超えた、圧倒的に巨大なブラックホールも存在する可能性があります。
このような仮説上の超巨大ブラックホールは「SLABs」と呼ばれますが、今後SLABsによって発生した重力レンズ効果を観測するなどで、SLABsが発見されることにも期待がかかっています。
●ほうおう座銀河団の謎
実はほうおう座銀河団の中心ブラックホールの活動とその周囲の環境から、新たに大きな謎が浮上しています。
一般的に銀河の中心部にある超巨大なブラックホールの活動が活発だと、強力なジェットが放出され、その周囲に存在するガスが超高温に加熱させられます。
星が新たに形成されるには、低温のガスが高密度に集まる必要があります。
そのためガスが高温でエネルギーが高すぎると、星が形成されにくくなります。
つまり一般的に、活発なブラックホールの周囲では高温環境が形成され、さらにガス自体が吹き飛ばされてしまうため、新たに星が形成されにくいという特徴があります。
ですがほうおう座銀河団の中心部では、非常に活発に星形成が行われていることが知られています。
確かに、銀河団中心部付近で、実に太陽質量100億個分に相当する、星形成に関与している可能性のある膨大な量の低温のガスが分布していることが判明しています。
この画像におけるオレンジ色の部分が低温ガスの分布です。
ですが青い部分が高温ガスの分布を示しているうえに、Phoenix Aは毎年太陽質量60個分という膨大な量の物質を取り込んで成長中であること、
さらに2020年には直接、誕生から数百万年という比較的若いジェットの存在が示されたことからも、現在でも銀河核は非常に活動的であることが読み取れます。
ブラックホールが活動的でジェットもあるのに、周囲には冷却された環境があり、星形成も行われている…
このほうおう座銀河団中心部の例は、ブラックホールのジェットが周囲の環境に対して及ぼす過熱と冷却の作用について、大きな疑問を投げかけている現状です。
この謎を解明するため、現在も研究が続けられています。