Yahoo!ニュース

ブラックホールのようで全く違う…仮説上の天体「ボソン星」の候補天体を新発見

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「候補天体が新たに発見された仮説上の天体ボソン星とはどんな天体か?」というテーマで動画をお送りしていきます。

●奇妙な連星系を新発見

2022年11月、地球から約1500光年彼方にて、ブラックホールを含むと見られる連星系が新たに報告されました。

その連星系には、太陽の0.93倍の質量を持ち、さらに組成も太陽と似た恒星と、その伴星(以下「天体X」)が発見されています。

天体Xは太陽の約10倍の質量を持ち、さらに電磁波を全く放っていないため、ブラックホールである可能性が高いと考えられています。

恒星と天体X間の距離は約1.4天文単位(太陽と火星間程度)で、公転周期は約188日であるとされています。

一見すると、ここまでは一般的なブラックホール連星系のように見受けられます。

実は「天体X=ブラックホール説」には、既知の連星形成メカニズムでは、このブラックホールを含む連星系の公転軌道を説明しにくいという問題点が挙げられています。

そこで研究者のチームは、天体Xがブラックホールではなく詳細は後述する「ボソン星」という、非常に特殊な分類の天体である可能性を検討し、その結果を2023年4月に公表しました。

研究の結果、理論的には天体Xの質量に相当するボソン星が形成されてもおかしくないことが示されました。

さらにボソン星であれば、天体Xを含む連星系の公転軌道をより自然に説明可能だそうです。

現時点ではボソン星である可能性は高いとは言えないものの、天体Xがブラックホール以外の天体である可能性も考慮し、追加の観測の必要性が主張されています。

●ボソン星とは?

では今回話題になっている「ボソン星」とは、どのような天体なのでしょうか?

ボソン星とは、ボース粒子(ボソン)という分類の粒子によって形成される天体です。

宇宙全体に存在する物質のうち8割以上を占めるとされる全く未知の物質「ダークマター」の正体が、ある種のボース粒子であると仮定した場合にその存在が示唆される仮説上の天体であり、未だ発見例は存在しません。

ボソン星内部では、大量のボース粒子がボース・アインシュタイン凝縮という状態で非常に高密度で集まっていると考えられています。

○ボース粒子とボースアインシュタイン凝縮

「ボース粒子」と「ボース・アインシュタイン凝縮」という専門用語が出てきたので、それらを簡単に説明します。

それ以上に分解できない最小単位の粒子である素粒子には、「スピン」というパラメータ(図で上から3番目の数値)があり、それが半整数で表記される「フェルミ粒子」と、整数で表記される「ボース粒子」に分類できます。

例えば陽子や中性子を構成するクォークという分類の素粒子や、電子やニュートリノもフェルミ粒子であり、光子やグルーオンなどの素粒子はボース粒子となります。

パウリの排他原理によると、フェルミ粒子は一つのエネルギー準位内に2つまでしか存在できません。

エネルギー準位とは粒子が持つエネルギーの値であり、飛び飛びの値しか持てないことが知られています。

一方、ボース粒子は同一エネルギー準位内にいくつでも存在することができます。

これらは高温状態だと大差ありませんが、低温にすると顕著な差が現れてきます。

低温状態ではボース粒子のみ最低準位付近に集まります。

この状態は「ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)」と呼ばれます。

量子力学によると、粒子は波の性質も併せ持っていることがわかっていますが、BECの状態では全ての粒子の波の状態が重なり合い、一つの巨大な波として振る舞うそうです。

ボソン星内部では、ダークマターを構成する大量のボース粒子がボース・アインシュタイン凝縮の状態で非常に高密度で集まっていると考えられています。

○ボソン星とブラックホールとの比較

ボソン星とブラックホールは全く異なる天体ですが、地球から観測した場合の特徴はよく似ているとされます。

だからこそ一見ブラックホールである新発見の「天体X」が、ボソン星の候補天体として再検討されています。

ボソン星はダークマターの粒子で構成されているので、周囲に重力的な影響を与えるものの電磁波を全く放ちません。

そのため地球から観測すると、ボソン星とブラックホールの区別が付きにくいのです。

これらの天体の決定的な相違点は、事象の地平面の有無です。

ボソン星は高密度天体ですが、ブラックホールほどではなく、ブラックホールにある「光すらも脱出できないほど重力が強い領域=事象の地平面」はボソン星には存在しません。

そのためボソン星内部に物質が入ると、内部の物質から放たれた電磁波が外に出てくるため、外から内部の物質の様子を観察することができると考えられています。

これは一度でも物質が事象の地平面の内部に入ると一切の情報が外部に出て来ないとされるブラックホールとは明確に異なる特徴と言えます。

先述の通り、ボソン星はあくまで仮説上の天体に過ぎず、それが実在するという決定的な証拠が得られたことはありません。

当然、その詳細な性質についても理論的な考察から導かれたものに過ぎません。

ですがかつては仮説上の天体に過ぎず、存在を疑われていたブラックホールが今では実在が強く信じられているように、いつかボソン星も当たり前に存在する天体として認識される日が来るかもしれません。

だからこそ、天体Xのような「ボソン星の候補天体」は興味深い発見ですし、この天体の今後の研究がとても楽しみになってきます。

https://academic.oup.com/mnras/article-abstract/518/1/1057/6794289?redirectedFrom=fulltext
https://arxiv.org/pdf/2304.09140.pdf
https://www.livescience.com/space/black-holes/strange-star-system-may-hold-first-evidence-of-an-ultra-rare-dark-matter-star
https://www.universetoday.com/161290/this-star-might-be-orbiting-a-strange-boson-star/
https://en.wikipedia.org/wiki/Exotic_star#Sources
https://www.sciencealert.com/there-could-be-transparent-stars-made-of-bosons-masquerading-as-black-holes
サムネイルCredit:NASA/JPL-Caltech

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

宇宙ヤバイchキャベチの最近の記事