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8月は苦戦続きと思ったら。あるデータで示された浦和レッズ勝利の理由

浦議浦和レッズサポーター(さいたま市)

苦労しながらも前進するチーム作り

東京五輪の終了後、8月9日から月末までにリーグ戦5試合、天皇杯1試合で計6試合。真夏に週2ペースで組まれた過密日程を、浦和は4勝1分け1敗(リーグは3勝1分け1敗)で乗り切った。

ゲーム内容は満足できるものではなく、勝った試合はすべて1点差。しかし、今の浦和が置かれた状況を考えれば、この結果は上々と言っていいはずだ。

浦和は今夏、酒井宏樹、江坂任、アレクサンダー・ショルツ、平野佑一、木下康介など、他クラブが羨むほどのビッグネームを含む補強を次々と成功させた。一方で、これだけ新加入選手が一気に増えれば、チーム作りは時間を要する。本来ならば、浦和は五輪の期間中に1日2回の2部練習を組み、チームを再構築する予定だった。

ところが、その期間中に浦和はコロナ陽性者が出てしまい、活動がストップ。予定通りにトレーニングを実施できなかったとリカルド・ロドリゲス監督の焦りと不安が募る中、J1は再開した。

最初に札幌に敗れたとき、内容が非常に悪かったので、個人的には2、3連敗もあり得ると感じた。しかし、予想に反して、続く鳥栖戦、徳島戦、広島戦を3連勝。目標のACL出場圏内へ向け、浦和は今季の望みをつないだ。

元々リカルド・ロドリゲス監督のチーム作りは、初速が早いほうではない。一般的に一つの戦術を徹底して叩き込むチーム作りは、初速が早くなる傾向があるが、リカルド・ロドリゲス監督の場合、対戦相手の戦術を踏まえて試合ごと、時間帯ごとに攻守のやり方を変えるため、戦術の浸透は時間がかかりがちだ。じわじわと染み渡るようなチーム作りなので、ロケットスタート、とはいかない。

それでも、効果は少しずつ出始めた。連係やコンディションに苦しむ浦和は試合全体では低調ながらも、相手を見ながら急所を突くプレーは必ず作っている。

たとえば鳥栖戦で言えば、3バックを高く保って守備をする相手に対し、浦和は江坂が中盤のすき間で中継点になりつつ、相手が空けている両サイドのスペースを田中達也らが突く形が何度も見られた。鳥栖がアグレッシブに戦おうとする構造上、必ず空いてくる箇所を、浦和は丁寧に突いている。回数や時間は物足りなくても、リカルド・ロドリゲスのチームらしさ、その匂いは感じ取れる。

また、徳島戦で相手の4-2-3-1の守備は、浦和の3枚回しに対し、ダブルボランチがサイドの高い位置にプレスに出て来たため、その背後にスペースが空いた。あるいは湘南も形は3-1-4-2だが、中盤真ん中の3人は前にプレスに出てくるため、その背後にスペースが空く。そこを突けば、相手の最終ラインを晒すことが出来る。その点で江坂は巧みな間受けで起点を作り、相手にとって嫌なスペースで働き続けている。その回数を増やす必要はあるが、ねらいが見えるプレーはいくつもあった。

一方、広島戦では守備面で序盤にハイプレスを行い、相手3バックに対してキャスパー・ユンカーと明本考浩が縦関係になり、ユンカーと両サイドハーフの関根、江坂が3バックへ、明本がボランチを見る形で人をかみ合わせた。これは浦和に勢いを与え、先制ゴールにつながった。一方、湘南戦も相手は同じく3バックを敷くチームだったが、この試合では、人のかみ合わせを行っていない。ハイプレスを避け、中盤で構える形を取った。自分たちのコンディション、相手の特徴を考慮した上での戦略だろう。

浦和は毎試合、相手に合わせたねらいを持ち、柔軟に戦っているのが印象的だ。そして、はまらなければ必ず試合中に修正する。

ゴール期待値が示す新たなサッカーの見方

もっとも、現状はそのねらいがはまる回数は物足りず、相手に主導権を握られる時間は長い。サポーターにとってはやきもきしつつも、勝ち点3にホッとする。そんな8月だったかもしれない。「3連勝したが、3連敗でもおかしくなかった」と考える人も少なくないようだ。

主導権を握られる時間が長いので、そう考えるのは理解できるが、しかし、『Football LAB』が2020年から掲載しているゴール期待値によれば、浦和は結果に値するプレーはしている。

ゴール期待値というのは、状況ごとに異なるシュートの成功確率を表すもので、「シュートが入ったか、入っていないか」という時の運に左右される要素を排除し、純粋にどれだけゴールに近づいたのか、どれだけ濃いシュートチャンスを作り出したのかを表す指標だ。

Football LAB』では、その算出に用いるデータを次のように公表している。

●空中戦に勝利したか否か
●シュート時に使用した体の部位
●タッチ種別(ワンタッチ、ツータッチ以上、セットプレー、その他)
●プレーパターン(直接CK、直接FK、PK、オープンプレー)
●ゴールへの距離
●シュートの角度

当然、ゴールへの距離が近ければ、ゴール期待値は上がる。また、シュートの角度が広ければ、ゴール期待値は上がる。シュートに使用した部位も、同じ場所なら頭より足のほうがゴール期待値は上がるはず。

上記のような要素を加味しながら、AIが当該シュートにおける成功率を算出する。それを1試合で合計すれば、そのチームが挙げる1試合のゴール期待値となるわけだ。

正直、よく見られるシュート数や枠内シュートといったスタッツは、あまり参考にならない。全く可能性を感じないロングシュートも、外した選手が地面に顔を伏せるほどの超至近距離のシュートも、弱々しいゴロの枠内シュートも、GKがスーパーセーブで防いだ枠内シュートも、全部「1本」と数えてしまう。多ければゴールに近いとは、必ずしも言えない。

その意味で、当該場面におけるシュートの成功率をAIが算出するゴール期待値は、実際の試合状況を反映しやすい。すでに欧州サッカーでは広く取り入れられ、信用度の高いスタッツになっている。

さて。そのゴール期待値で、8月の浦和のリーグ戦4試合を見てみると、『Football LAB』では次のようになっている。

23節 対札幌(1-2)負け ゴール期待値:0.406:1.285
24節 対鳥栖(2-1)勝ち ゴール期待値:1.725:0.782
25節 対徳島(1-0)勝ち ゴール期待値:1.079:0.606
26節 対広島(1-0)勝ち ゴール期待値:1.494:0.627
27節 対湘南(0-0)分け ゴール期待値:0.642:1.107
※左側の数値が浦和

札幌戦は明らかに劣っており、敗戦は妥当。しかし、その後の勝った3試合は全部、浦和がゴール期待値で上回っている。特に鳥栖戦と広島戦は1に近い差をつけているので、1点差の勝利は妥当だ。主導権を握られた印象はあるかもしれないが、浦和は要所で相手を攻め、要所で守った結果、このようなゴール期待値になっているのだろう。

一方、徳島戦は0.5ほど上回って勝利を得たが、その差は小さかった。また、湘南戦は引き分けだが、0.5ほど上回られている。この2試合を相殺すれば、ゴール期待値としては、2戦2引き分けが妥当かもしれない。

つまり、8月のリーグ戦、3勝1分け1敗は、ゴール期待値的に換算すれば、2勝2分け1敗。少し運が味方したのは確かだが、「3連敗でもおかしくない」とまでネガティブになる必要はない。

時間帯によるパフォーマンスの差が大きすぎて、あるいは結果と印象が乖離してしまって、「正直うちのチームはうまくいっているのだろうか? それとも全然ダメなんだろうか」と不安や混乱を抱くことはあるだろう。

そんなときは、この『ゴール期待値』を参考にすると良いかもしれない。

清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

浦和レッズサポーター(さいたま市)

浦和レッズに関する情報をまとめたり、議論したりする『浦議』を1998年から運営しています。最近はYou Tube「浦議チャンネル」もやっています。浦議チャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCAFN4-ne2gUkEl6xddW71hA

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