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大人の日帰りウォーキング 夫婦で趣味を楽しんでいる時、もうすぐ定年の夫が妻を見直した理由とは

わか子ライター

街道ウォーキングをしている良人と由美子夫婦。
江戸時代につくられた五街道の1つである甲州街道、江戸東京日本橋を出発して西に向かって歩き始めた。初回は日本橋から世田谷にある下高井戸宿までの約16kmを歩き、今日が二回目である。

国道20号が並走するように残っている旧甲州街道を歩いていると、突然目の前を中央道の高架が現れた。日本の大動脈の1つである中央道は、こんな閑静な住宅街を貫くように走っていたのか。高速道路の高架の下には児童公園が整備されており、高速道路が屋根の役割をしている。屋根付きの公園なんて贅沢でうらやましいと思いながら、多すぎる交通量を担う中央道を考えると、地域の住民ではない自分たちの勝手な考えだと思った。しかし、夏の強い日差しが照り付ける中を歩いているので、広く日差しが遮られている場所を見るとホッとする。
一休みしようか。
良人と由美子は公園入口の花壇のブロックに腰を掛けて一息ついてペットボトルのお茶を飲んだ。夏の暑い日、朝から持ち歩いているペットボトルでは、保冷のカバーをかけていても、常温を通り越してぬるいお茶になってしまう。
今回二人は、ペットボトルのお茶を凍らせて持ってきた。前回、歩いている途中のコンビニで冷たい飲み物を購入したけれど、何とか冷たい飲み物を持ち歩けないかと二人で相談した時のアイデアである。凍らせたペットボトルは、ほど良く溶けて氷を残しながらも溶けたお茶は冷たくて喉を潤していく。
前日にペットボトルを冷凍庫に入れておかなければならないし、炭酸系や甘いジュースでは難しく、無難なお茶か水の選択になるけれど、冷たいお茶を持ち歩ける便利さを実感した。
途中の自販機やコンビニで冷たい飲み物と買い足す事も出来るけれど、何時もタイミングよく自販機やコンビニがあるとは限らないし、毎回それをしていると結構なお金が必要になる。
あらかじめ準備したり、当日朝にもリュックに入れたりと手間はかかるけれど、凍らせるペットボトルは当日コンビニで買うよりも安く買っておける。もちろん、自分も買い物や準備もする。手間を面倒と思いお金で便利さを買うか、出来る範囲の手間をかけて大事にお金を使うかの選択だろう。バランスも大事だけれど、何事も、ちりも積もれば山になる。そして、何よりは夫婦で同じ感覚である事だろう。どちらかが手間を面倒だと思うとお互いが窮屈に感じることになってしまう。

甲州街道は江戸東京日本橋から長野県の下諏訪まで続いており、距離は約205kmにもなる。車で移動したならば首都高から中央道を乗り継いで約3時間30分。朝、出発すればお昼には現地に到着するという便利な世の中に、わざわざ歩いて旅をするとは贅沢じゃないか。
しかし、そう思っているのは自分だけであり、周りの人に話すとたいていは驚かれる。

目の前に差し掛かった交差点には飛田給入り口と書かれている。
この漢字、初めて見た時は読めなかったよな。
たしかに。この字は知らないと読めないよね。良人の言葉に由美子が答えると、交差点を渡ろうと信号待ちをしている2人の目の前を沢山の人が通りすぎていく。
スポーツ観戦?飛田給(とびたきゅう)なら、味の素スタジアムだよ。この様子ならサッカーの試合だね。サッカー観戦か。スタジアムで観ると、サッカーの試合も迫力があるよね。
スタジアムに向かう数名のグループはテンション高く楽しそうに言葉を交わしながら、弾むような足取りでスタジアムに向かっていく。
国道20号沿いにある味の素スタジアムは、とても大きくて広い。車で前を通るだけでもウキウキする場所なのに、少し離れている旧甲州街道からはスタジアムの様子が見えずに残念だ。

コンビニに寄ろうか。
飛田給駅から味の素スタジアムに向かう道路に100円コンビニと大手チェーンの小さなスーパーの二軒が隣に並んでいる。
どっちに入る?由美ちゃんにお伺いをたてる。
どっちでも良いよ。両方ともコンビニよりは安く買い物が出来るしね。
そうだよな。自分はもうすぐ定年になる。その先も嘱託で働くけれど、かなり収入は下がるからお金のことも気にしないと。
でも、冷たいジュースが飲みたい。お茶や水であればペットボトルを凍らせて持ち歩けるけれど、炭酸ジュースは凍らせて持ち歩けない。そう思いながらお店に入ると、売られているジュースの種類はコンビニより品数は少ないけれど、値段は安く売られていた。
由美ちゃんはお店を見た時に、商品の値段の違いに気付いていたよな。お金は大切に使おうという事か。ちょっとしたことだけれど、大切な事だよな。さすが、由美ちゃんだよ。
買ったばかりの冷たいジュースを飲んだ後、息を吹き返したかのように歩ければ良いが、日頃は運動不足でアラ還暦の良人の若さは気合だけである。四捨五入すればアラフィフと言い張る由美子も冷たいスポーツドリンクを飲み、その冷たさに体が冷やされるように感じていた。

あれ、道を間違えたかもしれない。
目の前を横切る線路をみて、今いる場所を確認しようとスマフォを取り出す。
この辺りは府中宿先までまっすぐに進めば良かったと思うけれど。
由美子が答えると、良人がスマフォでGPSを確認しながら得意げに答える。
そうだよ。確かにこの辺りはまっすぐに進めば良いけれど、次の一里塚が旧甲州街道沿いに無くてね。少し、離れた場所に残っているみたいだよ。
今、歩いている旧甲州街道も現在の国道20号の脇道になっているのに、まだ脇道に入るのか。2人はスマフォの地図を見ながら旧甲州街道を左に曲がり、南側にある品川街道に出て再び西に向かい歩くと、目的とした日本橋から7番目の一里塚を見つけることが出来た。
あのまま、まっすぐに進んだらと見つけられなかったね。
良人はほっとしながら言った。

甲州街道7番目 常久の一里塚(品川街道沿い:府中市清水が丘3丁目)
甲州街道7番目 常久の一里塚(品川街道沿い:府中市清水が丘3丁目)

さっきまで、私に「一里塚ハンター」と、ちょっかいを入れていたのに。収集癖なのか、よし君の方が意地になっているように感じるけれど、私も、気付かずに通り過ぎると残念に思うのは間違いないので、見つけられて良かった。

武蔵国府八幡神社
武蔵国府八幡神社

時刻は15時半を過ぎようとしている頃、ようやく、今日の目的としている府中宿に近づいてきた。府中は武蔵国の中心で武蔵国府であったことからそう呼ばれるようになったと言われている。
府中市はJR武蔵野線と南武線、京王線も通っている賑やかな街で東京競馬場もある。ユーミンの歌の中で♪中央フリーウェイ~ 右に見える競馬場 左はビール工場~♪と歌われている街である。もちろん、競馬場は東京競馬場であり、ビール工場は、東京競馬場から中央道を挟んだ場所にサントリーのビール工場がある。
二人は、京王線東府中駅を通り過ぎ、東京競馬場に向かう線路と別れて、そのまま西へと向かう旧甲州街道を歩き進んだ先に大國魂神社があった。

想像以上だわ。
大きな神社の前で由美子は思わず言葉が出た。「大國魂神社」である。甲州街道は江戸時代から続く歴史がある街道。旅人を含めて多くの人々が通る道沿いには、人々が信仰する神社が多く祀られている。東京と埼玉、神奈川の一部であった武蔵国の総社である大國魂神社には、昔から多くの人々が参拝に訪れたから、きっと、当時のメインストリートである甲州街道に面しているはずと思っていた。しかし、こんなに立派だとは由美子の想像をはるかに超えていた。由美子は神社やパワースポットが好きで、有名な大國魂神社は以前から参拝に訪れたいと思っていた。
今日、ここまでに歩いた距離は15kmを越えており、日頃の運動習慣がない良人は疲れ切っている。一日1万歩を日課に運動している由美子も疲れてはいるが、大國魂神社を見ると残っていないはずの体力がどこからか湧き出したようだ。神様が参拝の為の体力を与えてくれたのかもしれないと、由美子だけが思っている。
由美子はリュックの中から御朱印帳を取り出した。BGMで「じゃーん!」と心の声が叫んでいる。この御朱印帳が目に入らぬか~。
もちろん、大切にしている御朱印帳なので、リュックの中で汚れたりしないようにカバーになる袋の中に入れているのは言うまでもない。

瞳が光り輝いている由美子に対して、歩き疲れている良人はもう帰りたくなっている。
由美ちゃん、お参りに行ってきて。ここで待っているよ。良人はそう言って境内にあるお休み処の方向を見た。
一緒に行かないの?せっかくだから参拝しようよ。きっとご利益大きいわよ。
ご利益か。疲れた足を引きずりながら由美子の少し後ろを歩きだした。せっかくここまで歩いてきたし、ご利益は無いよりある方が良い。
何か、良い事あるといいな。

今回歩いたコース(約16km)

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府中宿到着後は京王線府中駅とJR府中本町駅(総武線・南武線)が利用できます。

関連記事<内部リンク>
・甲州街道歩き1回目(全5回)の最初の話:妻がひとり旅を計画したら予想外の展開になった話
・甲州街道歩き2回目(全3回)の最初の話:夫婦デートを断った妻の理由

ライター

東京都在住のおばさんです。子育てが落ち着いてきた頃より趣味で登山や街道歩き等を始めました。歩く旅は大変だというイメージがありますが、歩く事で解る楽しみもあります。実際に歩く旅をして、歩く旅の楽しさをお伝えしたいと思っています。

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