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夏の旬の魚 プロが教える鱚の背開きの作り方

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今回は背開きのやり方になります。


夏の料理には欠かせない上品な軽い味の魚、何尾食べても腹が張りそうにないのが、この魚の特徴かも知れない。

        鱚釣に 朝のべた凪 つづきけり 柳沢 仙渡子

命名
キスを「鱚」と書く、これは漢字に似せて日本で創った国字である。
『和漢三才図会』には、「幾須吾 正字詳しくあらず」とある。他の魚に比較、キスは異名や異字の少ない魚である。

地方名
キスゴ(関西以西)・・・・何の飾り気もなく、清楚で性質は温和、味は淡白で、「生直(きす)」の字義にピッタリ。「ゴ」は
               魚名語尾。
キツゴ(長崎)・・・・・・・・キスゴの転呼か、または狐魚の意で呼ぶ。
コツノ(播州・淡路)・・・・大型の物の呼名。体色と体形が牛の角に似ているため。
ウデタタキ(淡路)・・・・・特に大きい物をいい、釣り上げると尾で腕を叩くほどの大型のものをいう。
ハナマガリ(秋田) ・・・・海底の餌を獲るために口吻が突き出ることから。
アメノウオ(三重北部)
            ・・・キスは警戒心が強いため、雨の降りそうな時に、よく釣れることからいう。
    英名 Silver Whiting & Sand berer

形態
体色は海底の砂に似た淡黄灰色で、腹は銀白色をしており、20~30cm前後のものが多い。
スマートなスタイルから「渚の貴婦人」「海の貴公子」、また、「ゆかた美人」や「海のアユ」などと古くから形容されている。

スズキ目キス科キス属シロギス
3属約26種が知られており、日本にはシロギス、アオギス、ホシギス、モトギスがいる。シロギスとアオギスは九州以北に分布、ホシギスとモトギスは種子島以南に分布している。
シロギスを単にキスと呼ぶのが普通となっている。
キスの名はついているがまったく異なる種として以下のものがある。
  トラギス(虎鱚)・・スズキ目トラギス科。別名トラハゼやスキハゼとも言い、ハゼ類に似ている。
  二ギス(似鱚)・・・二ギス科。水深70~240mに棲息し、富山湾が主産地。干物や佃煮、蒲鉾の原料。オオギス
              とも呼ばれる。
  ギス(義須)・・・・・ソトイワシ科。深海魚で蒲鉾などの原料として使われる。

分布
北海道以南から台湾やフィリピン近海まで広く分布しており、水が澄み岩礁帯が入り混じる砂泥底に棲み、秋から冬は水深40~50mの深場で過ごす。
日が落ちて暗くなると砂に潜り眠る。朝日が出て明るくなると起き出す。

産卵
春から夏にかけて産卵するため、1~15mの浅場に上がってくる。6~9月に直径0.7mmの浮遊卵を10万粒産卵し、約1日で孵化する。
また、イシダイと同様、数回にわたって産卵し、産卵期間が長いという特性を持ってる。

成長
孵化した稚魚は透き通ったシラス型で、5m以浅の岸近くでプランクトンを食べながら表層生活をする。3cm程度になると、体色も黄色味を帯びてキスらしくなり、底から1m程の底層を群れ泳ぎ廻る。
秋になると7~8cmになってほぼ成魚と同じ生活に入り、10~50匹の群が海底すれすれの所をかなりの速さで泳ぐ。やがて水温が下がるにつれて深場に落ちて行く。
食性は、エラに含んだ海水を細い口から水鉄砲の様に吹き付け、ゴカイやイソメといった多毛類やエビ、カ二類を、口先を伸ばしてスポイトでインキを吸い上げるように飲み込む。
海底から40~15cmの範囲で生活し、危険を感じると頭だけ出した姿勢で砂底に潜る。

漁法と輸入
底流し網、底引網、延縄(はえなわ)、一本釣り。
冷凍品として、モトギス(南ア)、アメギス(豪州)輸入。

アオギスと脚立釣り
アオギスは汽水域に棲息し、キスの約2倍と大型で、体色は青味を帯びている。
非常に用心深く、舟釣りでは傍に寄ってこないので、浅い海中に脚立を立てて釣るという独特の漁法があり、江戸前の風物詩として名をはせた。今では、水質汚染によって江戸前もののアオギスは絶滅し、四国の吉野川河口付近や、大分、鹿児島あたりに棲息するとの噂程度に留まるのみ。埋め立て、海砂取り、水質汚染で棲息する場所が無くなっていくのは残念。

江戸時代のレジャー(幾須子魚釣り)
キス釣りは昔から人気があったようで、『本朝食鑑』には、7~8月頃になるとお役人も一般人も芝浦や品川などへ画船(カザリブネ)を出し、水遊びを兼ねて「幾須子魚」釣りを楽しんだという。これは江戸の優れた遊びであると褒め称えてる。
       引き潮の 今がさかいひや 鱚を釣る   高浜 年尾

寿司屋がキスを敬遠するのは
キスが握りダネとして理想的な魚でありながら、不思議と大衆的嗜好の中に飛び込んでこない遠因の一つとして、「疫病神除けにキスを断って船玉様(船霊とも書く船の守護神)に願を掛ける」という俗信からきてる。
   寛政2年(1790)5月24日、江戸八丁堀で釣船を稼業とする清次が、自分で釣ったキスを築地に運ぶ時、船の
   中央から、「馬鹿にいいキスだね、一匹くれないか」と声をかけられ、驚いて恐る恐る差し出すと、「私は疫病神だ
   が、お前さんは正直な人間だからお前さんの名前を書いて門口に貼ってある家には決して入らない事にするよ」
   と言ってスーと姿を消した。それから釣船清次に名前を書いてもらうと疫病神除けとなるという噂が江戸中に広
   がった。お上もこれは捨てておかれぬとお調べになった(寛政2年6月22日)。
このような珍事が調書として残っているのは珍しいことである。この話にはオチもついている。疫病神とは実は神出鬼没の大怪盗で、お調べのあった翌年、悪運つきて御用となったと記録にある。

キスの持味
1グルタミン酸やリジンが多く、これらのアミノ酸が刺身などを造って食べる間に、タンパク質から遊離して旨味成分
  となる。グルタミン酸やリジンはしつこくない味であり、キスの持味の上品さの素になっている。
2脂肪含有量は約1%と非常に少ないことから、油を使った天ぷらは上品な味で食感もいい。
3身肉中の水分は約80%と高いので、三枚に卸したら塩水で軽く洗ってから皮引きをした方が、身肉に弾力性が出
  て来て美味しい刺身となる。また、塩焼きする場合もやや水っぽくなるので、塩を振って身肉に弾力性を与えて塩
  焼きすればよい。天ぷらで揚げる時には、水分が多く身が丸まり易いので、皮の方の衣は厚めにつけ、皮を下に
  して揚げると形が整う。
4一夜干しは上記の1~3の特性をすべて生かしたもので、生干しされる事によってタンパク質の熟成と水分の蒸発
  による旨味成分の濃縮が起こり、塩焼きより身離れもよく、食感、味ともに抜群である。

料理の万能魚
キスは、昆布締め、尾をつけたまま三枚卸にしたものを結んだ結びキス、吸い物、焼き物、天ぷら、唐揚げ、骨せんべいなどなどに使える万能魚である。その中でも、身の甘さをかみしめる刺身の糸造りと、一夜干しが一番。

         大海の 一尾の鱚を 釣りにけり     断腸花
         小さき幸 夕餉の椀種 結び鱚     原   久野
         一片の 蓼の葉あをし 鱚にそえ    富安 風生

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